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第1回 糸井重里、禁煙8年目。
「灰皿の吸い殻を捨てる」くらいのことは自分たちでやってるつもりでいたんですけど、
「その灰皿をキレイに洗ってる人」までは考えが及んでなかったんですよね。
[糸井]
だいたいそうなんだよ。
タバコにまつわるそのへんのことは、吸わない人がキレイにしてるんだよ。

[永田]
うん。
[糸井]
それは、タバコという汚いものを駆逐しましょうということではなくってね。
[永田]
ああ、そうですね。
[糸井]
そう、そこは、最初に言っておいたほうがいいかもしれない。
あの、ややこしいようだったら、編集で最後のほうに回してもいいけど、とりあえず、しゃべりますね。
[永田]
はい、どうぞ。
[糸井]
タバコについて、最近思ったことなんだけど、タバコを吸うことがまるで犯罪であるかのように扱われはじめてから、いろんなことが変わったなぁって思ってるんです。
つまり、毅然とした意志で、
「正しくなろう」って人が、正しいことを思って、それを実行していくのは可能なことだって、思われすぎてるような気がするんです。
[永田]
はい。
[糸井]
さまざま、悪いことはいっぱいあるんですよ、人間の社会にね。
どんな時代においても、
「それはいけないだろう」
って言われるようなことから、時代によっては「いけない」って言われてたけど、いまは逆に大丈夫だったりね。
あるいは、いま、いけないとされてることで、昔だったら自慢話になったようなことだとか、もう、山ほどあるわけですよ。
[永田]
うん。
[糸井]
そういう、さまざまな悪いことがあるなかで、ぼくは、基本的には、
「鬼の首でも取ったかのように主張する正しい側」
には、立ちたくない。

[永田]
はい。
[糸井]
それは、時代や状況が変われば、どうなるかわかんないんだよっていう気持ちが根本のところにあるからね。
だから、そこのところについて、否定するわけじゃないけど、自分では、あまり言いたくないって気持ちがある。
[永田]
なるほど。
[糸井]
で、自分がタバコをやめることについても、そこのところは、なるべく気をつけようと思った。
で、ただ、まぁ、なにが迷惑かってことについては、だんだんわかってきますから、それこそ、モッキーが洗う灰皿のように、考えるべきところは考えようと。
ただ、もっと大きな枠の話として、巷のタバコの煙とともに、さまざまな人間の理不尽な行いが、消えていったなぁっていう思いがあって、いつごろからこうなったっけ、って感じることが最近、けっこうあるんですね。
たとえば、なんだろうな、いつごろからこんなふうにみんながいろんなことに目くじらをたてるようになったんだろう、とかね。
文句を言われそうになったときのためにあらかじめ書いておくたくさんの警告文とかさ。
そういうことと、タバコがなくなったことは時期的にも意味的にも重なってる気がする。
やっぱり、タバコがなくなることで、世の中はよくなったんだろうし、クリーンになったんだろうけど、それと、いままでの人の歴史っていうのが、ちょっとバランスを壊しつつあるように見える。
で、一方で「タバコは文化だ」っていう言い方もあるんだけど、文化だっていう正当化というか、かばい方も、ちょっと違う気がするんですよね。
そのあたりは、どうも、ものが言いづらい。
だから、そこについて自分は、どういう考えで、どういうふうに感じるべきかっていうのは、もう、ほんとに知性で感じるしかないというか。
[永田]
ああ、その話はたしかに最初に言っておいたほうがいいですね。
[糸井]
そう思うんだよ。
[永田]
だから、7年前、糸井さんが禁煙したとき、ぼくら、本を出そうとしたじゃないですか。
求められてると思ったし、おもしろい本になるに決まってると感じたし、実際、よその出版社からいくつも本にさせてくださいっていう話もあって。
でも、あの本を出すっていうことに踏み切れなかった大きな原因がいま糸井さんがおっしゃったことじゃないかと。
[糸井]
まさに、そこですね。
だから、いまになって、やっぱり簡単には言いづらいことなんだっていうことが、ようやくわかるというか。
[永田]
うん。
[糸井]
で、一方で、ちゃんと言えることもある。
それは誰にとってもよくない、みたいなことね。
さっきの、その灰皿を誰が洗ってると思ってるんだ、っていうあたりとか、タバコをみんなで吸ってる部屋にいたときに、吸わない人の嫌煙権みたいなこと論じ合う前に、その、タバコのにおいがついた服を
「うわー、これ、どうしよう」
って思ってる人のこととかね。
そういうふうに、ある種の想像力をつかって、やっぱり、自分たちの現実的なことばに、もう一回、翻訳すべきだと思うんです。
[永田]
うん。
[糸井]
ひとりがひとつずつ、きちんと腑分けして考えていく。
それが必要なんじゃないかなあ。
それを、まずは、言っておきたいですね。
[永田]
それを前提として言っておくと、のびのびと具体的なことがしゃべれますね、タバコの両方の側を知っている立場としては。
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