[──]
そんなに。

[小田社長]
成田山の「なごみの米屋」からも来てたし‥‥。

[──]
羊羹で有名な老舗ですね。

[小田社長]
それから、金沢の「うら田」という和菓子屋さんからも来てたし、柿羊羹で有名な岐阜・大垣の「つちや」の息子さんもいたしね。

[──]
みなさん、何年かこちらで修行されて?

[小田社長]
帰って、家業を継がれるんです。

[──]
そういう関係って、すごくいいですね。

[小田社長]
ぼく自身も、大学を出たあと、六花亭に入る前に京都の「鶴屋吉信」でお世話になってました。

[──]
そうなんですか。

[小田社長]
だから、逆に言えば、よほど自分たちで切磋琢磨していないとね。

そういうお付き合いも、させていただけなくなりますから。

[──]
ああ、そうか、なるほど。

[小田社長]
全国のお菓子屋さんから来てくださるのは、今、さいわいにも六花亭には「魅力のあるお菓子」があると同業さまから、思ってもらえてるってことですからね。

[──]
では、社長が誰かを修行に出すとしたら、どの会社に、出したいですか?

[小田社長]
うーん‥‥(少し間)、むずかしいなぁ。

[──]
では、理想のお菓子屋さん、でもいいです。

[小田社長]
それなら‥‥やっぱり、黒川さんのところかなぁ。

[──]
黒川さん?

[小田社長]
「とらや」さん。



[──]
はー‥‥それは、どういう理由ですか?

[小田社長]
いちばんの理由は「続いてる」ということ。

[──]
続いてるというのは、お店が?

[小田社長]
とらやさんの創業って、1500年代でしょう?

[──]
たしか室町時代ですよね。

[小田社長]
つまり、500年くらい続いてるわけです。
これだけですごいし、別格ですから。

[──]
なぜ「続いていること」が、すごいんですか。

[小田社長]
今、空前の大不況だとか言われていて、会社がバタバタ潰れているでしょう。

[──]
ええ。

[小田社長]
さっきも言いましたけど、うちだって例に漏れず、売上が落ちているんです。

[──]
よく聞く表現だと「100年に一度の大不況」だと。

[小田社長]
そう、だから、今の「むずかしい時代」が
「100年に一回」なんだとしたら、とらやさんは
「こういう時代」をすでに
「4回も5回も乗り越えてきてる」わけですよ。

[──]
ああー‥‥。

[小田社長]
当然、たんなる経済の不況だけじゃなくて、その間には、飢饉だって、大地震だって、戦争だってあったんですよ。

[──]
そうですよね。

[小田社長]
とらやの500年の「厚み」っていうのは、想像できないほど、すさまじいですよ。

[──]
企業の目的は「存続」である‥‥とは
「ビジネス格言」的に、よく言われると思うんですが、とらやさんの「500年」ってものすごい重みがありますね‥‥そう考えると。

[小田社長]
六花亭だって、今でこそ整理はついてるけど売り上げに右往左往する時代もありましたよ。

一喜一憂していた時代がね。

[──]
はい。

[小田社長]
先日、お菓子屋の集まりのときに、とらやさんが、おっしゃったんですって、みなさんの前で。

「うちも今、売上が1割落ちてます」って。

[──]
ええ、ええ。

[小田社長]
でもね、その口調が、非常に淡々としてたらしいんです。

[──]
500年もやってれば、こんなこともありますから‥‥みたいに。

[小田社長]
だから、お菓子のことで言うなら、六花亭も、一時のファッションで終わることのない、時の試練に耐えうるお菓子をつくりたい。

[──]
なるほど。



[小田社長]
六花亭のお菓子のパッケージなどに絵を使わせていただいている北海道の画家・坂本直行さんの記念館を
「六花の森」という原生林に建てたんですが、この事業なんかは、そういう考え。

[──]
と、おっしゃいますと?

[小田社長]
六花亭のパッケージに描かれた草花でいっぱいに満たされた森をつくる構想なんですが、草花が根付くまでに、まだ10年以上は、かかるんです。

[──]
はー‥‥そんなに。

[小田社長]
つまり、ぼくの時代では完成しないわけです。

そういうようなものに視点の置ける会社になりたいなと思ってます。
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