[小田社長]
逆に言うと、彼女がたくさん食べないお菓子はダメだね。

[──]
なるほど、優秀なモニターなんですね。

[小田社長]
そう、うちのパックンちゃん。

[ミツハシさん]
おかしな名前つけないでください(笑)。

[──]
今、切る道具にこだわっていたのは、どうしてなんですか?

[小田社長]
ブラウニーってのは、切るときにどうしても欠けやすいんですよ、固いから。

あ、ひとつ召し上がるといい。

[──]
(待ってましたとばかりに)いただきます!
‥‥おいしいです。

[小田社長]
食べてみたらよくわかると思うんですけど、上の部分が固いもんだから、このままだと、包丁でひとつひとつ切っていかないとポロポロ欠けちゃうし、売りものにならない「ロス品」が出ちゃう。

[──]
もったいないですね。

[小田社長]
だからといって包丁で切ってたら、効率が悪いでしょう。

それで困っちゃうわけなんだけど‥‥。

つまり、もっと大きくすれば、ナントカカッターでも、いけるんじゃない?

[ユアサさん]
はい‥‥いけると思います。

[小田社長]
だったら、そっちのほうが表情が出るし、大きくしようよ。

なるべくポロポロしない寸法を出してさ。

[ユアサさん]
わかりました。

[小田社長]
味はいいから。はい次。‥‥ああ、これか。

[マモルさん]
3日目です。

[小田社長]
3日目ね‥‥(ぱくっ)‥‥まあ、いいか。
‥‥これはね、奥野さんね。

[──]
はい。

[小田社長]
見てのとおりチーズケーキなんだけど、下の生地が、どうしても湿気ってきちゃうんですよ。

[──]
なるほど。



[小田社長]
ついでに1個食べる? はい、どうぞ。

[──]
ありがとうございます! ああ、美味しい。

[小田社長]
いや、まだうまくない。

[──]
うまくない?

[小田社長]
ま、ふつうだ。

[──]
これでふつうですか?

[小田社長]
うん、ふつう。

この下の生地がさ、奥野さんね、日に日に、水分を吸っちゃうんだよね。
当然なんだけど。

[──]
じゅうぶん美味しいと思ったのですが。

[小田社長]
いや、まだうまくない。

彼らがいろいろと試行錯誤して3日目でも食べられるようになっただけ。

[──]
さすが社長、きびしいですね。

[小田社長]
だいぶましにはなってきたんですよ。

まぁ、とうぜん、1日目がいちばんうまいわけだけど。

[──]
ははー‥‥。

[小田社長]
でさ、これ、バターが効いてんの?
何でこんなに平気なわけ?

[ユアサさん]
最初に空焼きをしたんです。

[小田社長]
ああ‥‥なるほどね。
じゃあ、例のあのチョコレートを塗ったら‥‥。

[ユアサさん]
もっと「もつ」と思います。

[小田社長]
その手でいこう、ユアサ。

[ユアサさん]
はい。

[小田社長]
なんとか、いけそうだわ。1月のお菓子で。

[ユアサさん]
はい、ありがとうございます。

[──]
(他の乗組員に)‥‥充分おいしいよね。

[小田社長]
いいや、まだうまくない。もっと良くなる。
たぶん「酸味」だと思うよ。

[ユアサさん]
酸味‥‥ジャム、挟んでみましょうか?

[小田社長]
ああ、それで味がしまってくるんじゃない?
やってみよう。

生地のほうは、オッケーだから。

[──]
すみません、味の判断は、小田社長が?

[小田社長]
イモ・クリ・カボチャ、コーヒー以外は、ぼくですね。最終的には。

[──]
その4つは‥‥。

[小田社長]
ぼくにはわからないの、キライだから。

[──]
あ、なるほど(笑)。
ちなみに、ここで味が固まったら、その次は‥‥?

[小田社長]
名前を決めて、担当者が値段を計算して、お菓子になって店頭に並ぶ、と。

[──]
その、お菓子ができあがっていく過程に、何か一貫した「ポリシー」のようなものってあるんでしょうか?

[小田社長]
うーん、あるとすれば、値段についてのことかな。

今の六花亭をつくった父(小田豊四郎:初代社長)がよく言っていたことなんですけどね。

[──]
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