糸井 この本に関しては
みんな、鼻息荒いんだよね、褒め方が。
普通さ、社会的な生き方をしてる人を
こんなに褒めたら
人は胡散臭がると思うんだよ。
それを全然気づかずに書いてるっていうのは
広告屋としてオブザーバー的に見ると、
「外してるよ、君」と。
そこがもったいないなあ。
どこから出したんですか?

第二回でも触れた本の腰巻きでの
 コメントのことをdarlingは言っている。
 ちなみにみうらじゅんさんは腰巻きコメントに
 「第七回みうらじゅん賞受賞作品」とよせている。
リリー 扶桑社です。
この『en-taxi』
創刊号から連載してたもので。

『en-taxi』は、柳美里、福田和也、坪内祐三、
 リリー・フランキーが責任編集をつとめる
 超世代文芸クォリティマガジン。
 3、6、9、12月の各27日に発売。



糸井 今を生きてる学生にとっては
こういう純文学的な世界というのは
たぶん、珍しいものでも見てるように
見てると思うんですよね。
自分のことを振り返っても、
大学入る時には
文学部に入ってるんです。
文学部に入るなんてことが
どういう意味があるかってことを
考えもしないで入ってるわけです。
それは何か不思議な、
ある時代の流行だったと思うんです。
その意味では文学を
今もやりたい人だとか
書きたい人っていうのは、
探偵小説や推理小説だとかに代表される
エンタテイメントの小説は別として、
日本で純文学って言われてたようなものを
書きたい、読みたいっていう人は
いなくはならないんだけど、極端に言うと
特別な変態の一種になっていくと思うんですよ。
リリー 現実的に
エンタテイメントのものじゃないと
読まない人は増えていると思う。
昔からそうかもしれないけど。
糸井 これは書いてる時には
そんなこと考えもしなかったでしょう。
リリー そうですね。何にも考えてないです。
糸井 漫画家って幸せだなと思う時があるんだけど
この『東京タワー』も漫画だったら
眉間に全然しわを寄せずに
おもしろがって読むと思うんですよ。
その辺がどういう仕組みなんだか、
すごい知りたいですね。
リリー 漫画の持ってる感じというのが
糸井さんもおっしゃるけど、
ただ誰が何やったみたいなことって
ほんとはすごく漫画的っていうか、
漫画で読むとすごくみんなには
絵が想像できるっていうのはあるんですよね。


糸井 この『東京タワー』をこのまんま
コマ割りで描いていった時、
リリーさんのことだから
どんなシリアスに描いていっても
無意識でエッセイの要素が入ってるから
エッセイの要素のところは
必ず笑えるようにできてるんだけど、
その笑いというのが
「ああ、くすっ」と個人的に笑って
次のページに行っちゃうじゃないですか。
リリー はい。
糸井 で、それ漫画だったら、
けっこう響くと思うんだよね。
当たりが何なんだろうな
というのが僕にも分かんないんだけど
これと同じ時期に『最強伝説黒沢』を読んでて。
リリー 僕、好きなんですよ、あの漫画。
糸井 でしょ?
あの6巻を読み終えたとこなんだけど。
リリー 6巻まで出てますからねえ。
糸井 6巻すごいよねえ。
リリー 俺、最初『最強伝説黒沢』
の意味が分かんなかったんですけど。
結局こういう意味なのか、最強って。
言葉通りだったのが意外でおもしろかった。
あの漫画はさっきもおっしゃってたみたいに、
本人のモノローグがやけに文学的なんですよね。
あのモノローグが
本人の普段の生活とかけ離れてる文学性があるから、
何かあの人の孤独がおもしろくなるっていうか。

『最強伝説黒沢』は、
 ビックコミックオリジナルで現在連載中の、
 『賭博黙示録カイジ』でも有名な福本伸行さんの漫画。

糸井 あれがもし文字だったら
誰も読まないですよ、たぶん。
つまり、普通の人があんな言葉で
しゃべるかどうかは分かんないけど、
少なくてもあんなようなことは
うじうじと思ってると思うんですよ。
そのヒントは中崎タツヤの
『じみへん』だったんですよ。

『じみへん』はビックコミックスピリッツで連載中。
 ここで、作者の中崎タツヤ日記が読める。
 一気に2000年までのバックナンバーを
 読み込んでしまうおそれが
 あるので仕事中は見ない方がいい。
リリー はい。
糸井 『じみへん』の中で
おふくろっていう人が出てくるんですけど
いつもおふくろは何も考えてないように見えるんです。
2ページ見開きのうちの4分の3くらいのところで
主人公が、「おふくろ、少しはものを考えろよ」
って言うんです。
するとおふくろが「考えてるよ」って言うのよ。
「え? いつ?」って言ったら
「寝る前にちょっと」って言うんだよ。
リリー (笑)。
糸井 「寝る前にちょっと」の部分を
見逃してくるのが若いやつだと思うんですよ。
あれを見てて漫画が唯一、純文学を
語れる場になったのかなと思ってて。
この『東京タワー』ではリリーさんのような
あんなに笑わせる名人が、
笑いをどういうふうに扱っていいか
決めかねてるって感じがして、
これはこれで何かあるところに
落ち着くんだろうなと思ってるんですが
今でも自分でも分かんないですよ。
リリー 最初は今まで俺が書いてた
エッセイの粋をみたいな気持ちで。
お袋が病気になったという話でも
ドカンドカン笑えるようなものをと思って
書き始めたんですよ。
でも、お袋が病気になったの何だのって、
自分が笑えないことを
笑わそうとするときの寒さっていったらもう…。
そういう無理はなんにもならないと思って、
ただ素直に書きました。

(つづきます!)
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2005-08-05-FRI



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