いいものリレー

11人めのゲスト
野村 友里さん
プロローグお客さんが家のようにくつろげる、
レストランではない、「台所」。

新たにバトンを受け取ってくださったのは、
料理人の野村友里さん。
活動は料理にとどまらず、
「食」を通して、
日本のわたしたちの暮らしを考えて伝える
伝道師でもあります。
野村さんには「衣・食・住」の3つを
おすすめしていただきました。

ゲストキュレーター野村 友里(のむら ゆり)
料理人。フードクリエイティブチーム「eatrip」主宰。
料理にまつわるさまざまな活動や、
雑誌やWEBマガジンの連載をしながら、
東京・祐天寺でレストラン「babajiji kitchen」、
東京・原宿でグローサリーショップ「eatrip soil」を営む。
著書に大人もおいしい子ども向けレシピブック
『とびきりおいしいおうちごはん』など。

「食」を通じて、
人やものをつなぎたい

――
野村さんの肩書は、料理人ですね。
そしてお店の運営なんかもしているんですよね。
野村
うーん‥‥そう、運営といっても、
チーム戦っぽいんですけどね。
――
そのひとつが祐天寺のこの、babajiji house。
野村
そうですね。
――
原宿では、eatripというレストランがありましたけど、
babajiji houseは、おうち?
野村
そう、この建物は、babajiji houseで、
2階のここはレストランでもないし、カフェでもない。
eatripはレストランでしたけれど、
こっちはキッチンと言ってるんですよね。
――
お客さんが入っていいキッチン。台所ですね。
野村
そうそうそう。
この2階のスペースが、リビングとキッチンで、
下が庭、みたいな。
――
1階のお花屋さん(The Little Shop of Flowers)から入るから、
お客さんからすると、知り合いのお家に来て、
まず庭を通って、台所に来るという感じ。
野村
いろんな人たちが来て、家のようにくつろいで、
そして帰っていく。
食べ物があって植物もあって、
気持ちいい空間というのもひとつの要素だと思って、
そういう大まかなコンセプトで。
――
どうしてbabajijiという名前なんですか?
野村
おじいちゃんおばあちゃんになってまでも続くような、
ということを考えたときに、なんとなくパッと。
表向きは、
ババもジジも、海外でもよく使う言葉で、
ババっていうお菓子もあれば、ジジって猫の名前もあるし。
海外の人とのやりとりがすごく多かったから、
メールアドレスとかすぐに覚えてもらえるように、
っていうのもあってbabajijiにしたんだけど、
銀行で「ババジジさま」と呼ばれて笑われたとか、
そういう文句はスタッフから言われたりもしましたね。
――
それがすっかり看板になっちゃって(笑)。
野村
そうなの!
でも、やっぱり人って経年変化とともに、
よりよく生きていきたいというのがあるはずだし、
物もね、その時間の積み重ねを面白がるというか、
いろんな時間軸がこの建物の中に生まれるような
そんな意味合いもあると思うんですよね。
――
ここも育っている途中ですね。
もうひとつが、原宿のsoilというお店ですね。
野村
eatripのレストランをオープンしたのが、
ちょうど震災の次の年、2012年で、
そのあと、再開発や、値段がどんどん上がっていくとか、
10年くらいのあいだにすごくいろんな要素が入ってて、
まざまざといろんなことを見てきて、
本当に大事なことって何だろうな、って思って。
原宿のあたりでも、すごいスピードで道が拡張されたり、
なじみのある小径も潰されたり、
神宮の木が切られるとか本当に変わっていったのね。
調べていくと、80年前は焼け野原で、
100年も経たずににここまで発展したんだけど、
この先はどこに行くんだろうって考えざるを得なくて。
その中で、商業施設の表参道GYREの4階が
リニューアルするにあたって、
フードコートにはしたくない、
これからの「食」がどうなっていくかが感じられる
フロアにっていうことで、ご相談を受けたんですよ。
うちでも出店しませんかとお話をいただいて、
レストランじゃなくて、食材屋さんと自分のアトリエを、
無理のない範囲で本当20平方メートルぐらい、
お庭の世話をすることも含めてやらせてもらった。
それが2019年からです。
――
soilは、うかがうとお庭もあって、
気持ちいい空間ですが、お魚も売ってたり、
色んなものがありますよね。何屋さんなんでしょうか?
野村
グローサリーショップで、マーケットですね。
今はなんでもオンラインで買おうと思ったら買えるけど、
人って絶対、やっぱり感覚が大事なので、
場所を持つってことにこだわってるんですよね。
私、ただ物を売るだけってことには興味がなくて、
やっぱり物には背景があるし、それを掘り起こしたい。
みんな、モノだけじゃなくて、
教養というか経験も欲しいし、
そういう時間も買いたいんじゃないかな。
それが一緒に合わさって、
種が蒔かれるような場所にしたいなと思って。
本当に欲しいもの、必要なものってなんだろう。
そういう物差しで、縁のある食材や、
食卓まわりのものを全国から集めてるんです。
――
あそこにあるものは、
どれもおいしそうなものばかりで、
あれもこれも、欲しくなっちゃいます。

料理をつくるなら、
食材の背景も知らなくちゃ

――
「食」は私たちにとって、
絶対になくてはならないものではありますが、
変化は感じますか?
野村
私が2000年ごろ、IDEEという会社にいたときに、
当時の社長の、
今はファーマーズマーケットをやっている
黒崎輝男さんに
「これからはオーガニックだよ」と言われて、
オーガニックのレストランをやったんだけど、
仕入先がないんですよ。
で、仕入れられたとしても5倍ぐらいの値段で、
なかなか結び付かなくて。
――
まだ一般的じゃなかったんですか?
野村
そのときちょうど、私はイギリスから帰ってきていて、
アメリカのデザイナーチームの買い付けや、
プロダクトづくりについて、
カリフォルニアに行ったときに、
ファーマーズマーケットに連れていってもらって。
そのときにシェ・パニーズ
(※アメリカ西海岸のバークレーにあるレストラン。
1971年のオープン以来、地元の生産者が育てた
オーガニックの野菜を使って
「Farm to table(農場から食卓へ)」という考え方を
世界中へ広めた)を知って、
「これからはこうなんだよ」と言われたのが「ロハス」。
そこから「ロハス」というのが流行って、
私が関わったテレビ番組も雑誌も全部ロハスで、
私もなぜか「ロハスの人」になりかけたの。
でも、ロハスって考え方もすごく好きなんだけど、
なんか自分でもちゃんとつかめてない違和感はあって、
「嫌いじゃないけど、
自分はロハスな人じゃない気がする」とか、
そういう疑問が、それからの活動にも
つながったと思いますね。
――
「ロハス」、ちょっとなつかしさすらあります。
むしろ、定着したのかもしれません。
野村
そのころから、洋服屋さんがカフェをやったり、
「ライフスタイル」って言葉がすごく出てきたんですね。
そして、震災があって、関東や東北の野菜は
放射能の問題で食べちゃいけないんじゃないかとか、
風評被害も起こったりする。
そうこうしているうちにコロナになって、
家にいるから料理に時間をかけるようになる。
そうすると、だしを取りたいから昆布が欲しい、
かつお節が欲しいってなってきて、
でも今、昆布がとれなくなってるよ、という状況や
SDGsというのが同時に来て、
環境のことも考えるようになるんですよね。
――
食に関する環境も、ずいぶん変わってきた。
野村
私も震災があって流通がストップしちゃったときに、
「なんて東京って虚しいんだろう」と思ったこともあるし、
最初はまな板の上で料理をつくるほうに興味があって
技術を学んだり、
「おいしいものって何だろう」だったのが、
そのへんから、自分の中の変化もあって、
単なる料理をつくるにあたっても、
畑にも行って
いろんなことを知りたくなったんですよね。
――
生産される食材の背景とか環境のことも考えながら、
安心で良いものを出そうと。
野村
そう‥‥ただそこはガッチガチにやるんじゃなくて、
自分で言うとあれだけど(笑)。
――
かっちりじゃなくて、ちょっとゆるく?
それは野村さん自身も、ってことですね。
野村
そう、程よいゆるさで。
ここのお料理も、soilで扱っている調味料を使っていて、
お家に帰っても真似できるようなもの。
いいお醤油といいお酢があれば数段おいしくなるし、
おいしい野菜が手に入った日なら、
もう皮もむかないでローストでもいいわけよね。
そんな感じの気軽さと結びつけられるような、
そういう意味でのキッチンという感じで。
――
真似しやすいお料理。うれしい響きです。
野村
そうそう。
だから、おいしかったら下でそのオイル買えるし。
身近というか、距離が近いような感じかもしれない。
――
soilの方でも買えるんですよね。
野村
買えます。
こっちは品数は少なくて、厳選されてるんです。
キッチンだから、滞在時間があるし、
体感できる感じですね。
soilではワークショップもやってるんです。
――
ワークショップではどんなことをするんですか?
野村
経験を売るってわけじゃないけど、
物だけを売るだけじゃない、
経験とか物の時間も大事にして、お絵描き教室とか。
金継ぎもやるし、和菓子教室とか、
タイムセラピーという精神科医と漢方の先生のトークとか、
それはもう6年やってるのかな。
トークもいろいろやってますね。
――
だいぶ、食に限らずいろいろやられている印象です。
野村
そう。食材って命のためのものだけど、
そこに、あと「いいものって何?」とか
「豊かさって何?」というのもあるでしょう。
お絵描き教室も、食材をデッサンして物を観察する。
そうやって全部つながってくるから、
そういう、答えがこれ一つって分かることじゃなくても、
それもいいなっていうことを、
みんなで共有したりする時間はすごく大事で。
――
同じ食材をデッサンしたとしても、
そこから何を感じるかはもうみんな違うし。
野村
そうなんですよ。玉ねぎをデッサンしたときも、
皮にこんなに何十種類も色が入ってるんだって気づくし、
圧倒的に有機のいろんな形してるほうが
愛おしく感じるわけ。
「わっ、この大根、足が割れてる」とか、
「ニンジン、ひげが途中からいっぱい生えてる」とか。
やっぱりパックに入ってるものって、
均等でおもしろみはないんですよね。
――
「この根っこ、どこまで食べられるの?」とか(笑)。
野村
そうそうそう。
染色のワークショップで玉ねぎの皮で染めたりもするし。
庭があるから、水も流せるし、
絵の具がついちゃった野菜は土に埋めて、
ゴミにせずに捨てることもできる。
そういうのって口で言うのは簡単だけど、
なかなかできない。
その時間がけっこう貴重で。
そういうことが実験だったり、講義でもあったり、
ディスカッションだったり、
ワークショップだったりとかしてる感じですね。
――
それが原宿のど真ん中でできちゃうというのは、
なかなかいい経験ですよね。
野村
そうなんですよ。

おいしいってなに?から未来を考える

――
そういう常設のお店もやりつつ、
「衣・食植・住」という展覧会もされています。
2021年に「衣」、2023年に「住」、
で、2025年に「食植」で締めくくりに。
野村
美術家で大麻布の蒐集家の吉田真一郎さんが、
IDEEの元アートディレクターなんですよ。
その吉田さんにたまたま会ったときに、
「なんで衣食住って”衣”が一番先なの?
普通、食住衣でしょ?」
と言ったんですよ。
そしたら吉田さんが、昔はそんな優劣もなくて、
生きるために全て必要だったんだ、
っていうことを話してくださったんです。
大麻布は植物からできてますよね。
日本は資源がないって言われるけれど、
裏を返せば植物が豊富だったから、
全て植物で身のまわりのことを担っていた。
――
布になれば「衣」だし、食べ物になる植物もある。
野村
そう。
日本の家は木で作ることができて、
茅葺き屋根も植物ですよね。
吉田さんからは、
食のほうから衣をアプローチしたら面白いんじゃない?
みたいなことも言われたんですよ。
奇しくも、たとえばGYREビルに入ってる
visvimというブランドも、
野良着とか法被とかも売っているし、
コム・デ・ギャルソンの川久保さんも最初、
中国に、生きるために必要な農作業のときに
一張羅を着る民族がいて、
その一張羅がめちゃくちゃカッコよくて、
それに影響を受けたと聞いたこともあります。
敬意を持って現代に蘇らせたりもしていて、
親和性がいっぱいあるんですよね。
――
最初にやったのが「衣」だったんですね。
野村
ちょうどそれがコロナのときだったんですよ。
みんなが洋服を買わなくなった時期なんですよね。
人に会う必要ないから、買わない(笑)。
外食も、東京の人は仕事の外食が多いのでね、
お付き合いとか接待とがないから、外食しない。
――
飲食店が大変というのが大問題でした。
野村
そう。
食についても考えることになりましたよね。
本当に食べたい人と食べるってどういうことか、
逆に、防犯がしっかりしてるマンションに
1人で住んでると、
人の声もしなくて、鬱になりそうな人もいるとか、
そういうことをリアルに考えるようになった。
そういう時期だったんですよね。
――
それから「住」があって、
最後の「食植」はお米がテーマで。
やっぱりお米と日本人は切り離せない。
野村
そうですね。
お米を作っている人や田んぼはもちろん、
それにまつわる行事のことや、
食べるときに使うお茶碗のことも。
お米とともに生きている人たちの話から、
未来を考えたいと思ったんです。
でもね、まずは「おいしいって何?」なんです。
疑問は尽きないし、答えも一つじゃないから
続けられると思うんですよね。
――
料理人といえど、
本当にいろんなことを料理してらっしゃって(笑)。
野村
いろんな角度があっていいと思うし。
でもやっぱり、単純に食いしん坊だから、
おいしいものを作りたいし食べたいなっていうだけ。
そこはブレないようにしたいと。
――
そこが基本ですね。
野村
あと自分が本当に感動したいの。
感動しなくなってきてる、確かに。
うちの母もずっと言ってるんだけど。
生きてる限り感動したいんだけど、
ちょっとやそっとじゃ感動しない。
でも、逆にちょっとしたことでも感動しちゃう。
さりげないことで。
――
何か意外なものが意外な時に現れると、
感動したり、変にうれしくなっちゃったり(笑)。
野村
そう。
花が咲くというただそれだけのことに感動したり。
――
そこで感動した自分に感動していきたいですよね。
野村
そうです、そうです。
本当にそうだと思います。
だから感動探しというか、
自分が納得するもの探しの部分もあるし。
――
素敵ですね。
野村
素敵じゃないですよ~。
――
そこに野村さんは「ゆるさ」があるのが
いいんじゃないですか。
野村
ゆるい、ね。そうかな。
たとえば、食材ははいいものを、って意識してても、
たまにはその中に
ジャンクが入ってもいいかもしれないし。
――
そうですね。
野村
だから、素敵なお店でもね、
いつも同じクラシックがかかってると、
すごい嫌になっちゃうわけ(笑)。
もうちょっとそこで、
ロックとかラッパーがかかってたりすると、
がぜん興味が湧いてくる、みたいなことがある。
――
あんまりガチガチだと疲れちゃいますよね。
やっぱり、ゆるさが必要だし、
野村さんはそれを体現していて、真似したい。
そういう存在になってる感じしますか?
野村
全然‥‥
いや、そこはあんまり深く考えてない。
――
気にしてないんですね。
それ気にしたら、ゆるくないですもんね(笑)。
野村
そうそう、そうなんですよ(笑)。
――
では、そろそろ、「衣食住」を
ご紹介いただきましょう。

(つづきます)