いいものリレー

7人めのゲスト
cimaiさん
プロローグパン好き姉妹と、
衣・食・住。

「いいものリレー」、
谷卓さんがバトンをつないでくださったのは、
大久保真紀子さん、三浦有紀子さんのおふたり。
姉妹でパン屋さんを営んでいます。
お店は、その名も「cimai(シマイ)」。
ふんわりとパンのいい香りのするお店は
アンティークなものに囲まれています。
おふたりの「いいもの」をお店で、
そして黒が印象的な有紀子さんのお宅で、
紹介していただきましたよ。

ゲストキュレーターcimai(シマイ)
姉の真紀子さん、妹の有紀子さんが
2人で営むベーカリー「cimai」。
天然酵母と、イーストの両方を使った
パンを作る、人気のお店です。

パンが大好きな姉妹の、パンの店「cimai」

――
かわいいお店ですねー。
中はちょっとアンティークっぽくて、すてきです。
カフェスペースもあるんですね。
ここにお店を開いてから、もう‥‥?
有紀子
14年です。
――
ずっと姉妹、おふたりで。
昔から、お店をやりたいと思われてたんですか?
真紀子
きっかけは‥‥SHOZO CAFE、だね。
有紀子
うん。
私たちが二十歳ぐらいのときって、カフェブームだったんですよ。
よく2人で、休みの日にカフェをめぐっていたんです。
あるとき雑誌を広げたら、SHOZOさんのことが載っていて。
真紀子
そうそう。
有紀子
で、週末に行ってみたんです。
そしたら、オーナーの省三さんが普通に店頭にいて
接客もしてくださって。
「あ、あの人写真の人だ!」って、ね。
空間に凛とした空気感がただよっていて、釘付けになっちゃって。
もうその帰り道で、何かやりたいねっていう話になったんです。
真紀子
飲食の仕事を始めたのは私が先でした。
有紀子
私は絵を描いていたんです。
絵の学校に行きながら、
ベーカリーカフェでアルバイトをしていました。
そしたら、姉も同じカフェの別の店舗の
ベーカリー部門に入社したんです。
――
そのベーカリーがお気に入りだったんですか?
有紀子
そうですね。でも、アルバイト先が同じだったのは
たまたま、でした。
私はベーカリー部門を横目で見ていて、
パンを粉から作るのいいな。
と思ってやってみたら、すごくおもしろくて。
何かを表現したい、っていう気持ちがあって、
絵もやりたいんだけれど、
食べ物って日常的だし、それを1から、
粉から作るパンっていうのはさらにもっと深くて
おもしろくて、気がついたら私もそっちに
どっぷりはまっていたっていう感じなんですね。
――
その後、真紀子さんはパン屋さんの「ルヴァン」に。
何かいきさつがあったんですか。
真紀子
パンづくりを天然酵母からやりたいと思って、
パン特集の本を広げたときに
ルヴァンの甲田さんがすっごく良い笑顔で写っていて。
――
甲田幹夫さん。
日本での天然酵母パンの草分けの方ですよね。
真紀子
「私ぜったいこの人の下で働く」って思って、
働いてたところをすぐに辞めたんです。
そしたらルヴァンが空きがなくて、
雇ってもらえなかった、っていう(笑)。
――
先に辞めちゃった(笑)。
真紀子
そうなんですよ。
でも、しばらく他のパン屋さんで働きながら、
ルヴァンのイベントスタッフとしてお手伝いを経て、
その後正式に入れてもらったんです。
――
すばらしい行動力ですね。
真紀子
私は思い立ってすぐ行動するほうじゃないんですけど‥‥
そのときは違ったんでしょうかね。
――
そうなんですか。
そのときだけは動いた。
有紀子
私は東京の恵比寿の「パティスリー・マディ」っていう
ケーキとパン、どちらもあるお店で働きました。
そのころ私は友達と、
3人でフードユニットを組んでいて、
イベントに出店して、
パンを出したり、カフェをやっていました。

いいな、と思っていた場所がお店に。

真紀子
私がルヴァンの営業後に、
窯を貸してもらって、自分のパンを焼いてました。
そんな感じでそれぞれやっていたんですけど、
あるとき、ね。
有紀子
私が、妊娠しまして。
それで地元に戻ることになったんですよ。
――
それは一大事でしたね。
有紀子
そういうわけで、しばらく、
動けなくなっちゃったんですね。
――
そこから、どうやってお店を持つ方向へ?
有紀子
出産が終わって、自分で何かやりたいと思って、
大きなオーブンを買って、家でパンを焼きはじめたんです。
姉も「何かやりたい」っていうことで
「cimai」をはじめました。
それでまたcimaiで活動するようになって。
真紀子
私は変わらずルヴァンの窯を借りて焼いてました。
とても寛大な職場で、スタッフがそれぞれに
酵母を起こして、仕事が終わった後、
窯を借りてパンを作ったり、部活みたいな感じで。
でもイベント用のものを焼くのはちょっと
肩身が狭いような気がしてましたね。
有紀子
イベントに出店し続けるのも、そろそろ限界かなーって。
お店というかたちの場所が欲しいと思ってたんです。
当時、ここ(お店)の近くに住んでいて、
通るたびに、この建物がすごくいいなと思ってたんですよね。
このくらいの家賃で借りられたらいいな~って思ってたら、
何年も出てなかったのに「テナント募集」が出たんです。
私、念が強いんですよ(笑)。
――
えー、すごい!
引き寄せたんですね。
真紀子
いろんな巡り合わせがあったんですよ。
お金のこととか、設備のこと、店の内装とか家具とかも。
有紀子
すっごいタイミングで道が開けて、
もう、やらなきゃいけない状況になったんですよね。
――
いろいろなことが重なって。
ドラマになりそうです。
有紀子
そうですね(笑)。
やるべきタイミングだったんだと思います。

新しいお店はスタッフにゆだねて

――
そこから14年この場所でやられてきて、
さらにこの4月に、新しいお店を出されたそうですね。
有紀子
はい。そこは、スタッフにまかせて、やってもらっています。
10年間、っていう期間が決まってるんですけれど、
私たちにとって、もう1店舗持つっていうことは
14年目にしてのチャレンジなんです。
真紀子
ちょっと前だったら、考えられなかったですね。
有紀子
10年限定で新店舗を、ってお話があったときに、
私たちが10年経ったときのことを考えたんです。
飲食の仕事をずっと続けていくためには、
スタッフにゆだねる部分もあるべきなんじゃないか。
そんなふうに思って、やってみることにしたんですよ。
――
逆に言うと、それまでは、そうじゃなかったんですか。
有紀子
このお店をオープンしてからずっと、
姉は姉のパンを、私は私のパンを
それぞれに作っていました。
お互いのレシピはもちろん知らないし、
スタッフにも、手伝ってもらうことはあっても、
肝心なところは触らせてなかった。
――
全部、自分でやりたいおふたりだった。
有紀子
そうですね。
誰かに教えるっていうことが、できなかった。
でも、4年前に姉が出産することになって
ちょっと変化があったんですよ。
産休の間、姉の定番のパンを私が作ることにして。
姉も、私にゆだねてくれた。
私はもう、一部はスタッフにゆだねてたんですけど、
このことがきっかけになって、
私のパンのレシピを、あるスタッフに教えたんです。
その子が今、新店の方をやってくれています。
――
cimaiのセカンドシーズンがスタートしたんですね。
有紀子
スタートしたばっかりです。
だから、これからの10年間は
そちらのスタッフを信頼してどこまでゆだねられるか、
そういうチャレンジの時間なんです。
スタッフも、すごく気持ちのいい子ばっかりで。
真紀子
そうなんですよ。ありがたいです。
――
いいムードでやられているのが伝わってきます。
心持ちって、作るものに出るものですか?
真紀子
出ますね。
有紀子
すごく出ます。
最初の頃はあせっちゃって、
一瞬、数字のことを言ってしまったんです。
真紀子
お客さん、来ないかもしれない、とか。
残ったらどうしよう、とか。
有紀子
1か月もしないうちにそれは一切やめました。
そういう気持ちで作ってるとやっぱり、よくない。
そこじゃないんだなって気がついて。
真紀子
そうですね、今はちょっとずつ
よくなってきてますね、気持ちが。
有紀子
今はもうね、ほんとにみんなが、
どういう気持ちで働いてほしいか、とか
そういうことですね、そっちばっかり。
――
ご自身も気持ちよくいられて。
みんなハッピーがいいですよね。
有紀子
そう、そうなんです。

衣・食・住。

――
こちらのお店は1階のベーカリーと、
2階にもスペースがあるんですね。
そこはどんなふうに使っているんですか?
有紀子
もともと、このお店を持ったときからずっと、
ヨガ教室をやりたいって思ってたんです。
でも最初はお金のこともあって、下だけ借りて。
――
まずはベーカリーで、2階はあとから。
有紀子
上も借りるようになったタイミングで
ちょうどヨガの先生が見つかって。
あとは体のホームケアの会をやったり、
友人に、ギャラリーとして場所を貸したり。
――
使い方には決まりはないんですか。
有紀子
もともと衣食住をやりたいっていうのがあって、
そういう展開になるようにと思ってます。
今はちょっとお休みしてますけど、
味噌づくりや梅干しづくりの教室も
数年前はやっていたんですよ。
年末には、しめ縄づくりを毎年やってます。
――
大きいしめ縄、お店のほうにありましたね。
真紀子
ちゃんとこう、編み込んで作るんですよ。
有紀子
そういうことがしたくって一棟借りました。
――
なるほど。
最初から、やりたかったのは
食、つまりベーカリーだけじゃなかったんですね。
有紀子
やりたかったのが、そうですね。
――
なるほど、私たちのLDKWAREやほぼ日にも
通じるところがあります。
有紀子
フフフ。
そうですね、はい。
――
ありがとうございました。
おすすめのアイテムはどんなものでしょうか。
有紀子さんのお宅でも紹介していただくので、
そちらにうかがうのも、とっても楽しみです。

(つづきます)