たまねぎアメと 森繁パンダ。 〜黒柳徹子さんのお話〜

第12回 人生なんて、もっと遠い遠い、離れたことや。
黒柳 まえだまえだっていう、
漫才やる子どもたち、いるでしょ。
お兄ちゃんは小学5年生、
弟は小学3年生。
糸井 すっごい笑ってる子ね、下の子が。
黒柳 「徹子の部屋」に出てくれたんですけど、
かわいかったですよ。
存在そのものが勢いにあふれてて、
まぁ、その子たちも歯が抜けてたんだけどね。
観客 (笑)
黒柳 「歯どうしたの?」
「抜けてん」
「あたらしい歯が、まだ、生えてきぃへんねん」
糸井 うん、うん(笑)。
黒柳 「なんの授業が好き?」
「給食!」(笑)
「給食は何がお好きなの?」
「魚のホイル焼き」
糸井 いいねぇ。
黒柳 弟のほうが
「でもな、となりの席に来る子がな、
 好きやと思う子が来るときは、
 その期間がわりと短くて、
 そんなに好きやない子が来るときは長いねん」
って言うのよ。
「ああ、そうなの、
 そういうときさぁ、
 なんて人生だ、って思わない?」
と、わたし、言ったんです。
糸井 ほお。
黒柳 そしたらね、「思わへん!」って言うのよ。
「またいいこともあるやろ、それにな、
 人生なんてもんはな、もっと遠ーい遠い、
 離れたことや」
観客 (笑)
糸井 すげぇ。
黒柳 「またいいこともあるやろ」と
言ってました。
糸井 いいなぁ。
黒柳 そこでね、ふと思って
こう訊いたの。
「あなたたちのお母さんって、どんな人?」
そうしたら、彼らはこう答えました。
「ここが“普通のお母さん”
 っていう線があるやろ!」
糸井 はい。
黒柳 「うちのお母ちゃんは、
 その線のとぉおおーり、の人や」
糸井 へぇえ!
黒柳 その表現力には、驚きました。
すごいもんでしょう?
多分、ステージママとかじゃない、
普通のお母さん、という事だと思います。
そして、番組の最後に、
ふたりにおみやげを用意してたんです。
カブトムシのヘラクレスってやつ。
糸井 うん。
ヘラクレスオオカブト。
黒柳 カブトムシが好きだと聞いていましたので、
担当のスタッフが
「プレゼントはヘラクレスですから」
と用意してました。
それで、わたしはスタジオに置くメモに、
「おみやげヘラクレス」と
書いておきました。タテ書きの、くずし字です。
ゲストの方が受賞した賞とか、舞台の名前とか
本番中に間違えないように書いておくメモです。
だけど、大人でも読めないくらいの字ですよ。
「料理屋さんのメニューみたいですね」
とよく言われる、そのくらいの字です。
で、番組の最後に、
「おみやげにカブトムシあげます」
と言ったら、
「やっぱり、そやった!」
って言うのよ。
「そこんとこに書いてあったやろ」
観客 (笑)
黒柳 その子たちの座ってる位置からは
ぜんぜん見えないような場所にある
メモなのにね。
しかも、一度も
そっちなんて見てなかったのよ。
「おみやげヘラクレスって書いてあったやろ!
 けど、それを信じて
 もらえなかったら悲しいさかいに、
 信じないでおこうと思った」
糸井 うん(笑)。
黒柳 子どもって、ほんとに
自分の見たいもんだけ
見えるんだなぁって、感心しました。
観客 (笑)
黒柳 いらないものは見ない。
見たいもんだけ見る。
前歯が抜けていながら、
「人生なんか遠いもんや」
と言い切る、そういう感覚。
糸井 うん。
黒柳 子どもってこういうんだって思って、
わたしすごく感動しちゃったんです。
大人よりも、もっと大人。
本質を見抜く力は、
子どものほうがはっきりしてますね。
糸井 「徹子の部屋」は
かえって大人のほうが難しい、
というケースもありそうですね。
黒柳 ええ。その方が有名な
俳優や歌手でいらっしゃるのに、
「徹子の部屋」にお出になったばっかりに
みなさんから
「あれ?」「この人、こんな人なの?」
と思われちゃったら、
それはわたしの責任です。
だからなんとかして、すばらしくして、
お帰ししなきゃなんないと、
思うんですけど、あんがいに‥‥
糸井 はい。
黒柳 どういうことなんだか、
わたしもわからないんですよ。
会話慣れしてないということもないし、
わたしに慣れてないというわけでも
ないと思うんですが、
あんまり、ものを思ったり
観察したりすることに関して
よろこびを感じないという方が
世の中にはいらっしゃるんですね。
糸井 そうか‥‥。
黒柳 そういう方については、
どうしようかと思いますね。
ある方は、
すばらしい旅行をなさったということだったんで、
まずそのことを伺ったら
「そうです‥‥」
とだけお答えになりました。
しかたがないので、
どういうところがすばらしいか訊いたら
「まぁ、どうって‥‥(シーン)」
具体的になんにも出てこないんです。
そういうのって、困るでしょ。
糸井 はははは。
黒柳 旅について具体的に感想もなかったんですが、
その方、いきなりこうおっしゃいました。
「旅はしなきゃいけません」
糸井 はい。
黒柳 わたしね、「そうですよね」って。
観客 (笑)
黒柳 旅はしなきゃいけないってことは、
あれだけの旅行会社があることでも
わかるぐらいに、みんなね、
よーくするわけじゃない、旅を。
糸井 ははははは。
なんだか自分のことのように思えて
困ってきちゃったなぁ(笑)。
フーッ! おもしろいね。 ここでじつは、折り返し地点。 次回から急カーブを切って あたらしい展開に入るんだよ。つづく!
2010-04-07-WED
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