黒柳さんが話した、 黒柳さんのこと。こんな話は、二度と聞けないと思って。


第11回 この人、嘘ついてる。
糸井 息つぎのうまい人同士っていうのは、
仲良くなれるものですか。
黒柳 どうかしら、そういう気もします。
糸井 ぼくは、もともと喘息ですから、
仲間には入れないかなぁ。
黒柳 あら、だったら、息つぎ上手じゃない?
だって、その喘息の合間に
話そうとするわけでしょ?
わたしも知らないうちに
肺活量が少ないのをカバーしてたわけだから。
糸井 そうかもしれない。
人が上手であることがわかるというのは、
自分もそれに覚えがあるということですよね。
微妙なことかもしれないけど、それはもう、
けもの同士の対決みたいですね。
黒柳 そうそう。ですからわたしはサラ・ベルナールと
会ってみたいなと思いましたよ。
ま、国葬になったような女優ですから
息つぎぐらいのことではねぇ。
糸井 じゃあ、黒柳さんはきっと、
息つぎについて
そうとう敏感だということですね。
例えば「森繁久彌さんは、こうだ」とか、
きっと、いつも感じてらっしゃるんですね。
黒柳 そうです。
森繁さんは、ものすごく
息つぎうまいですよ。
糸井 ですね。そう思います。
黒柳 台詞の途中で「ヒー」って
いっぱい息つぎする人、いるでしょ。
あれは、見ている人が疲れちゃうんです。
ところが、ほんとうの人間は
息つぎがうまいんですよ。
糸井 ああ、そうですね。
黒柳 例が悪いかもしれないけど、
死にそうな人だって、
ちゃんと息してお話してるでしょ。
かなり弱ってる人でも、
「ヒー」なんて、そんな息つぎはしないです。
ところが、芝居になると
「ヒー」となっちゃう人がいっぱいいるんです。
それはやっぱり、ほんとうじゃないの。
糸井 予定以上に息を出すと思うから、
それに備えちゃうわけですね。
黒柳 そうそう。普通の人は、生活のなかで
よっぽどのことがない限り、
そういうこと、しないんですよ。
だから、どんなに長い台詞も
「ヒー」なんて息つぎはしないほうがいい。
森繁さんは上手だし、自然だし、
杉村春子さんって方も、セリフ上手でした。
糸井 そうかぁ。普通の人は、
大笑いしながらだって、しゃべってますもんね。
大笑いしてるときは、
絶対に呼吸が乱れてるわけですから。
黒柳 「おっかしい!」とか言いながら
ちゃんと声は出てます。
糸井 唯一、泣いてる人だけは、止まりますね。
黒柳 あ、そうよ。泣くっていうのは、
「うっうっうっ‥‥」って
横隔膜が全然別の動きになっちゃうから。
糸井 いまの、ものすごく上手でした。
黒柳 「うっうっうっ‥‥」
テレビのニュースに出て謝ったりしている人、
いるでしょ。
糸井 謝る記者会見は
みんな、息つぎがおかしいですね。
黒柳 不自然です。
まぁ、泣いてるから、ということも
あるんでしょうけどね。
泣くというのは、自分の思ってないところで
息つぎがああいうふうになっちゃう、
ということですから。
糸井 ‥‥ということは、
嘘でしゃべってることは、
黒柳さんにはだいたいばれてますね。
黒柳 あ、わたしは、すぐわかります。
一同 (笑)
糸井 それはきっと、そうだろうな。
黒柳 嘘の証言してる人なんて、すぐわかります。
テレビをじーっと見て、
「うそ」「おかしい」
糸井 ほんとうはきっと、黒柳さん以外の人も
感じてるんでしょうね。
黒柳 おそらく一般の人のほうが
絶対この人嘘ついてるわね、って、
わかってると思います。
息つぎがおかしいもん。
まだまだ、つづきます!

2008-09-16-TUE



まえへ
ほぼ日のホームへ
つぎへ