メールを読みます。その8

ほぼ日
では、次のメールにまいりましょう。
町田
いきなり笑います。
〈私の母は途轍もなく犬好きです〉。
「途轍もない」(笑)
ほぼ日
「途轍」が漢字なんです。
友森
「途轍」って漢字で書かないですね。
ほぼ日
ほのぼのするお話でしょうか‥‥?

私の母は、途轍もなく犬好きです。
私が高校生の頃、母の念願だった犬を飼いはじめ、
犬好き度合いはますます強くなった気がします。

ある日、我が家の犬と散歩をしていた母は、
脱走中のゴールデンレトリバーに遭遇。
そのゴールデンレトリバーはどうやら、
ろくに世話をしてもらっていなかったらしく、
ストレスがたまりまくって、
我が家の犬に八つ当たり、咬みついてきたそうです。
母も咬みつかれ、当然ながら大ケガ。
近所の方達に助けられ、
救急車を呼んでもらったものの、
「うちの犬を置いていくわけにはいきません!
 この子もケガしてるんです!」
と言って聞かない母。
仕方なく、うちの犬も一緒に、
救急車に乗せてもらい、
動物病院へ連れていってもらったそうです。
犬は軽症。母は7針も縫うケガをしていました。

後日、ゴールデンレトリバーの飼い主が
謝罪にやって来て、
「あの犬はもう処分します」
と言ったそうですが、母は大泣きしながら、
「そんなことしないでください。
 散歩とか、できるかぎりのお手伝いはしますから、
 処分だなんて、絶対に言わないでください。
 あの子は何も悪くない」
と、お願いしたそうです。

飼い主さんもあまりの母の勢いに驚いたようで、
ゴールデンレトリバーは処分されず、
飼い主さんはちょくちょく母に
相談しに来るようになり、
すっかり顔なじみみたいになっていて、
私は「なんてお人好しなの!?」と、
半ば呆れていました。
が、母らしいな、とも思いました。

「犬を連れてニコニコしたおばさん」として
母は近所でも有名な犬好きでしたが、
我が家の犬が亡くなり、
散歩からはすっかり縁遠くなっていました。

ですが、数年前から、
被災した犬猫の保護活動をしている団体さんが
ご近所にあり、最年長ボランティアとして、
散歩などのお世話をしに行くようになりました。

我が家で新しい家族を迎えいれることよりも、
「ここの子が最後の一匹まで、
 お手伝いさせてもらえたらそれでいい」と言う母。
母の犬への愛は無償のもので、
「悪い犬なんて一匹もいない」と言います。
毎日、犬たちのことで泣き笑いをしている母を見ると、
犬ってすごいな、とつくづく思うのです。

(てつじぃ)

町田
〈ストレスがたまりまくって〉
あ‥‥これヤバい状況です、
〈咬みついてきたそうです〉
ヤバいです。
〈母も咬みつかれ、当然ながら大ケガ〉
ぜんぜん、ほのぼのせえへん話です。
〈一緒に救急車に乗せてもらい、動物病院へ〉
すごいね。
友森
すごい。
一緒に乗せてくれるんだ。
町田

どこの市町村でしょうか。
〈「あの犬はもう処分します」〉
処分って、殺処分ってことですね。
‥‥これは。

友森
‥‥軽い事件ですね。
町田
うん。かなりヤバいです。
友森
パニック状態のゴールデンレトリバーに咬まれたら、
下手したら骨折します。
町田
ああ‥‥大変なことですね。
友森
うん。
町田
ゴールデンだからそんなには‥‥
殺しには来ない?
友森
いや、ブチ切れたゴールデンは
そうとう強く咬んでくるから、危ないです。
町田
ニュースでもよく耳にするんですが、
犬が子どもを咬みました、ということがありますね。
「子ども怪我しました」、
下手したら「亡くなりました」。
それは大変なことですけども、その犬を、
「だから殺処分しました」
というのは、あれはなんなんですか。
復讐ということなんでしょうか。
友森
再発防止で、その存在を
なくしてしまうということじゃないでしょうか。
ほぼ日
犬でもクマでも、そういうことがありますね。
友森
でもそれじゃ、飼い主や管理者は
責任を取ってないですよね。
本来は飼い主のほうを
再発防止したほうがいいと思います。
町田
そうそう。むしろそっちだと思うんですよ。
友森
犬は、家から離れて興奮状態だと、
なにをするかわからないです。
飼い主が犬を逃がさないようにしたり、
トレーニングするという解決じゃなくて、
「この犬を処分します」という考えだと‥‥。
町田
まあ、これは
咬まれた人がよかったんですね。
お母さんがもし「処分してください」と強く言ったら。
友森
きっと処分しなくてはいけなくなりますね。
町田
法的には
処分しなきゃいけない気もする。
友森
うん。
町田
「しないでください」と言った場合は、
処分しない道はありますよね。
友森
狂犬病ではない、と診断をもらって、
処分しないですむとか、方法はあると思います。
町田
こういう事件は、とっさのことなんで、
咬まれたほうもなにが起きたかわからないで
そのままになっちゃうこともあるんですよ。
たとえば‥‥
自分がトイプードルを連れて散歩してました、と。
向こうから、リードは繋いでるけど
ブチ切れた大型犬が来ました、と。
で、ガーン来て、咬みました、と。
キャーン言いました、と。
パニックでどうしていいかわからない。

常々から、人に法的な責任を問うなんてことには、
みんな、慣れてないんですよ。
自動車事故だったらある程度確立されてるから
順々とやるけど、
「どうしよう!」となったときに
咬むのに慣れてるような飼い主だったら
「ああ、大丈夫、大丈夫」
なーんて言って。
友森
行っちゃうかもしれない。
町田
あとで病院で診てもらったら
大変なことになってたとか、
そういうケースもけっこうあるらしいです。
友森
そこで相手と連絡先を交換できればいいけどね。
事故と一緒だから、ちゃんと調べないと。
町田
だから‥‥やっぱり、
責任は犬じゃなくて、
常に人間にあるということを
しっかり思っていたほうがいいですね。
咬んだほうも咬まれたほうも、です。
自分の犬が咬まれてんのに、
「大丈夫」と言う人もけっこういるんですよ。
要するに、人間関係を重視するあまり。
友森
いや、それはほんとうに病院で調べないと。
「大丈夫」の使い方が間違ってる。
町田
「うちの子、大丈夫よ」
おいおい、咬まれまくってんのに(笑)。
友森
咬まれてるのは大丈夫じゃないですね。
「あなたが補償のことを気にしなくて大丈夫」
の意味ならわかるけど、犬は大丈夫じゃない。
町田
責任は自分にあるけど、
犬の身体は犬のものなんで、
ちゃんとケアしてあげないとダメですね。
友森
そうです。
で、お母さんのお話に‥‥
町田
はい、このメールのポイントは、
もちろんお母さんです。
友森
「途轍もない」犬好きの。
町田
「途轍もない」お母さんです。
友森
私も犬をそこそこ好きだからわかります。
過去に咬まれて大怪我したことがあるけど、
別にそれだからといって
その子を嫌いにはなりません。
町田
うん、もちろん。
友森
だから、このお母さんの思考回路は
ほんとうにふつうの気がする。
ほぼ日
いまはお散歩ボランティアさんになられて‥‥。
友森
ね。よかったね。
町田
うん、いいと思います。
ほぼ日
最高齢のお散歩ボランティアさん。
友森
もう咬まれないでくださいね。
町田
このお母さんのおっしゃる
「悪い犬なんて一匹もいない」
は、まさにそのとおりだと思います。
犬って人間の飼うたとおりにしかならないです。
友森
そうですよね。
町田
この犬はバカだとか、この犬は頭いいとか、
よく言うけど、
飼い方によってダメになってるだけで
ダメにしてるのは自分です。
友森
私はよく「犬を手放したい」という相談を
電話で受けることがあります。
ひどいときは1日中かかってきます。
だいたいが「高齢で」とか、
「引っ越し先で飼えなくなる」という
話なんですが、たまに
「うちの犬はバカで、吠えまくって咬んで
 ぜんぜん言うこと聞かないんです」
という人がいます。
それは「自分の能力がないんです」と
言ってるのと同じ。
いちど、相談でかかってきた電話に
私が言い過ぎちゃって、
苦情が都に行ったことがありました。
でもね、そんな犬でも
きちんとしたところに行けば、
すごく穏やかになるんです。
町田
やっぱり飼い方次第ですよね。

(つづきます)

2015-03-24-TUE