『人間は何を食べてきたか』は
誰が観るのか?
あ、オレか。
小山薫堂さんと、軽めに食を語る。

第4回 人間って、
 ほんとはこうやって物を食べてきたんだ

 
  (小山薫堂さんプロフィール)
小山 先日、カリフォルニアにある、
コピア
※註1)」ってところに行ったんです。
そこはロバート・モンダヴィ
※註2)っていう
もう90才のワインのおじさんが、
数年前に自分の私財を何10億って寄付して作った、
ワインと食とアートの美術館なんですよ。

※註1 コピア
小山さんが「コピア」に行かれたことは
「danchy Online」の「一食入魂」で
読むことでできます。
http://www.president.co.jp/dan/20030300/003.html

※註2 ロバート・モンダヴィ
ロバート・モンダヴィワイナリー創設者
「ワイン造りは化学であると同時に芸術である」を
モットーに努力と研究を重ね、カリフォルニアで
最初にステンレスタンクの導入を
たのも
モンダヴィであり、
今また再びステンレスタンクに変えて
オーク製の樽を導入し始め、
最先端技術を駆使しながら、
伝統を重んじるワイン造りを 行っているそうです。
http://www.robertmondavi.com/
糸井 すっごいね。
小山 そこには地元の人たちが
ほとんどボランティアで働いていて。
例えばどういうことをやってるかっていうと、
「芋を変えてポテトチップスを作るとどうなるか?」
みたいな実験をやってて。
来た人はそれを美術を鑑賞するように
ポテトチップスの味を賞味するんですね、
そうものがあるかと思えば、
25ドルくらい払って、
料理教室で大学の講義受けるような、
すり鉢状になってるところで
料理のいろんな講義をやりながら、
食事を食べるっていうところが
あったりするんです。
そこには畑もあるんですよね。
畑にひとりのおじさんがいて、
そのおじさんが
「人参はこうやって作るんだよ」
っていうようなことを説明してくれるんですよ。
説明しながら、
土ん中から人参をボンッて引っこ抜いて、
「食ってみろ」
とかって言うわけですよ。
普通だったら、やっぱり、
洗わなきゃって思うわけじゃないですか。
でも、それを、手で泥をとって
かじったときに、本能というか、
「あ、人間って、
 ほんとはこうやって物を食べてたんだなぁ」
っていうのを感じて、
また自分の甘さを、感じましたね(笑)。
糸井 それ、旨かったですか?
小山 旨かったですね。
土の付いた野菜を食べるということに
躊躇している自分が、
「恥ずかしい」と、
そういう感じがして、
まだまだな、というふうに。
糸井 ぼくは同じようなことを
ものすごい回数やってますけど。
笑っちゃうのがね、
去年、ベルサイユ宮殿の農園(※註3)
行ったんですよ。
そこで同じようなことしたんですけど、
これが、まずいんですよ。

※註3 ベルサイユ宮殿の農園
この時、darlingのベルサイユ宮殿の感想は、
「広くて古くてでかい」であった。
だいたい旅行から帰ってきたときには、
この程度の感想を述べる人である。
小山 へぇー。
糸井 育て方が、まったくまちがってると思った。
僕の農業の先生で、
永田照喜治先生って人がいますけど、
その永田先生がやっている
水と肥料を極力おさえた
永田農法とはま逆なんですよ。
小山 いろんなものを与えてる。
糸井 そうですね。
小山 永田農法の永田照喜治(※註4)先生って、
熊本の天草出身ですよね。


※註4 永田照喜治
大正15年、熊本県天草町生まれ。
神戸大学卒業後、農業を始めた。
たまたま痩せた岩山に植えた作物の味が、
肥えた平地のものより良いことにがきっかけで
研究を重ね、永田農法を考案する。
ある新聞に長崎出身と誤って記され、
それを参考にした媒体は、
よく「長崎出身」と書くのだが。
ご本人は、「どっちでもかまいません」。
糸井 そうですよ。
小山 そうですよね。僕も天草なんですよ。
それで、噂はずっと前からよく聞いてたんですけど。
糸井 あー、そうですか。
いろんな意味で、地元でも有名だったみたいですね。
その先生に連れられて
ベルサイユ宮殿の畑をみて
そこは誇り高い、庭師なんだか農民なんだか、
学生とか、いろんな人が世話してんだけど
いろんなことが、逆なんですよね。
そこで、土のついた野菜を食べたんですけど
これが、ぜんっぜん美味しくないんですよ。
小山 ふ〜ん。
糸井 つまり、料理のところで
いろいろ手を入れるっていうのと、
農作物を育てるときに
いろいろ手を入れるっていうのは、
似ているようで、
実は全く違うんですね。
野菜は土から抜いてすぐ食ったら旨いとか、
新鮮だから旨いっていうのは、
そういうものだと思いこんでいたけど、
ほんとのことを知ってしまったら、
そこにも旨いまずいがあるんだ!みたいな。
小山 うんうん。
糸井 金も手間もかけ放題の王宮だから、
グルメ的な考えのまんまで、
どれが旨いだのまずいだのってことを
やっていたんですね。
もっと、ひとりの原始人として
旨いまずいをからだで感じるほうが、
ほんとうなんだということを、感じていますね。
小山 ああ。

行っただけで、うまい店
糸井 小山さんはそういう機会もあるから、
素材なんかについても、
知識を仕入れては
現場でダメージを受けたりするんですか?
小山 (笑)ダメージは、ええ、受けてますよ。
結局、自分で、
「あぁ、ぼくは、味の素が好きなんだな」
っていうのがよくありますよ(笑)。
糸井 うんうん。それって、
自分の脳の中で、処理できないですよね。
小山 ええ。
糸井 自分が、味がわかる人だっていうふうには、
なかなか思いにくいですよね。
小山 ええ、そうですね。
糸井 だけど、仕事としては、
わかるほうに向かってかなきゃいけない。
いわば評論家的になっていくわけですよね。
そういう時はどうやって辻褄を合わせるの?(笑)
小山 辻褄を合わせなきゃいけないですね(笑)。
糸井 うん。
小山 ただ、僕は、料理評論家でも何でもないんで、
どっちかっていうと、
「好きに食べて好きに何かあったら書く」
っていう感じなんで、
まだ助かってるっていうか、
まだ、大丈夫かなって(笑)。
糸井 そっか、評論家として、
世間にさらされてないからね。うん。
小山 ええ。でも、評論家になった瞬間に
「きっと、辛いんだろうな」
って気がしますけどね。

糸井 そうですよねー。
だから、この『人間は何を食べてきたか』
見ると、
こういう考えを徹底的に持った食い物屋さんとかって、
できるんじゃないかな?と、思うんです。
例えば、ブラジルの奥地にいる
呪い師みたいな人がいますね。
小山 ええ(笑)。
糸井 どうやら、そこに行けば、
どんな病気も治るっていうんだけど、
辿り着くまでに、
死ぬ苦しみを味わうらしいですよ。
小山 (笑)そこに行くには。はい。
糸井 そうすると、そこ辿り着いたっていうだけで、
生命エネルギーがもう1回、復活してくる(笑)。
小山 なるほど(笑)。
糸井 それとおんなじように、今で言うと、
永田先生の野菜に惚れ込んだ
今井さんってシェフが、
浜松の山にある山荘に移ってしまって、
そこに泊まる人に
料理を出すレストランをやってるんですけど。
それも、まず、行っただけで旨いですよね。
小山 あぁー、はいはいはい。
糸井 ね?
そこのレストランは、
そりゃもうほんとにおいしいんだけど。
苦労して行ったら、
まずはそれだけで美味しいですよね。
小山 はいはいはい。
それ、心理学用語で、
認知的不協和っていうんですよ。
糸井 はぁ。
小山 自分がこれだけ苦労してるんだから、
美味しくなかったら、
自分の苦労を、
自分を否定することになる
っていうんで、
不協和であることを認知してしまうらしいですよ。
糸井 ふ〜ん。
小山 行列も並んだ分だけ
美味しくなきゃいけないっていう感じで
おんなじらしいですよね。
糸井 行列もおんなじですよね。
この人たちが感じている喜びみたいなものは、
文明の中ではもう、お金出して買わなきゃ
ならなくなってる。
それをつきつめていくと、
美味しいものを味わうために、
普段の暮らしの中で
粗食をするとか。
小山 ええ。
糸井 そちらの方にいきますよね、いずれね。

(つづきます。)

ジブリ学術ライブラリー 人間は何を食べてきたか』
「腰を据えて食べることを考える。
 NHKのドキュメンタリー番組が、人々を動かした。」

2003-02-28-FRI


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