こういうやつが、いたんだよ。  赤坂英一さんとプロ野球の話を
 
第8回 名監督とは。
糸井 このあとは、
どういう仕事をやる予定なんですか?
赤坂 とりあえずいまは各球団の
二軍監督のインタビューをやっています。
それを週刊現代で連載して。
糸井 へーー。
いいメディアになったなぁ、週刊現代。
赤坂 (笑)
糸井 そういう企画はいいですねぇ。
二軍監督というと、巨人は岡崎。
赤坂 そうです。まだ会ってないんですけど。
糸井 岡崎っていう人はおもしろそうですよね。
なんでも、聞いた話によると、
「すごくケンカが強い」という。
赤坂 そうです、そうです(笑)。
糸井 なんだか有名なんですよね。
でも、そうは見えないじゃないですか。
赤坂 見えないんですよね、
テレビで野球を観ているかぎりは。
でも、当時、寮に入った若手は
必ずその強さを垣間見た、という。
なんていうか、タイプとして、
ちょっと前田的なところがある人で(笑)。
糸井 ああ、そうかもしれない。
やっぱり、目つきが鋭くてね(笑)。
でも、いまは二軍監督。
赤坂 そうです。
前任者の吉村もコワモテでしたが、
選手に声をかけるときは
意外に優しいんですよね。
一軍の原監督が
積極的に若手を使ってくれるので、
おもしろいし、やりがいもあるそうです。
いま、一軍打撃コーチの村田も、
「いつか二軍で
 キャッチャーを育ててみたいな。
 おれと同じ高卒で無名の選手を
 一から教えてね。
 これはもう、おれの夢やなあ」
という話をしていました。
糸井 あぁ、それは、いいなぁ。
いい話ですねー。
赤坂 はい(笑)。
糸井 あの、いまって、二軍の監督やコーチが
すごく重要な時代だとぼくは思ってるんです。
そこで手をかけたこと、育てたものが、
やがては一軍の試合をつくっていくというか。
赤坂 そうですね。
去年、日本一になった西武の渡辺久信も、
二軍監督の経験がすごく活きてる人ですから。
糸井 いい意味での若さがあるんですよね。
西武のエースとして一時代を築いたあと、
台湾でやったりして
そうとう苦労は積んだんでしょうけど。
やっぱり、見たまんまの、ああいう人なんですか?
赤坂 そうです。
でも、怒ったらけっこう怖いらしいです。
デーブに聞いた話ですけど。
糸井 うん、わかる気がする(笑)。
赤坂 渡辺監督の話でいうと、
去年の日本シリーズの第7戦。
片岡がデッドボールで出て、走って、送って、
中島裕之の内野ゴロで
同点に追いついた場面がありましたよね。
糸井 もちろん覚えてます。
強烈でした、あれは。
赤坂 デーブと会ったとき、
あの場面についての話になったんです。
渡辺監督や片岡、栗山、中島たちと、
どんな話をしていたのかと。
糸井 ほぅ、ほぅ。
赤坂 まず、片岡がデッドボールで出ます。
巨人のマウンドにいたのは
あのシリーズで絶好調だった越智で、
正直、片岡は手も足も出ない。



そこでデーブと渡辺久信は
「当たってください。
 当たってでも出てください」
と選手たちに言ってたらしい。
そしたらインコースに来て、
片岡はヒジに来たところを
後ろによけずにゴーンと当たった。
で、その瞬間に、
「よっしゃ!」ってガッツポーズ。
糸井 そうそう(笑)。
赤坂 で、つぎは2番の栗山。
回も詰まってるし、セオリーなら、
そこで送りバントだと思うんです。
でも、デーブはこう言うんです。
「監督が送りバントのサイン、
 出さないんですよね」って。
かといって「打て」のサインも
「走れ」のサインも出さない。
どうしたかというと、
片岡が走るのを待ったんです。
糸井 走らせたわけじゃなく?
赤坂 じゃないんです。
というのも、あの年の西武って、
「好きなときに走れ」っていう野球なんですよ。
攻守全体にわたってそういう感じで、
チームバッティングで右打ちさせたりもしない。
「思い切って引っ張れ!」っていう野球で
それまで勝ってきたチームなんです。
だから、片岡に「任せちゃおう」と。
で、実際、片岡は初球に盗塁決めちゃうんです。
糸井 迷いなく行きましたよね。
あれで球場のムードが変わった。
赤坂 ただ、それは、
監督が動かしたわけじゃないんです。
「どうせ走るから、任せちゃおう。
 ほら、走った」という流れなんですね。
あとで渡辺監督がデーブに言ったのは、
「いやぁ、送りバントも当然考えたけど、
 片岡のガッツポーズを観た途端、
 おれの頭の中から
 そのサインが消えたんだよ」と。
あえて言いますけど、これって、
名采配でもなんでもないですよ。
糸井 はははははは。
赤坂 でも、片岡は二塁まで行った。
で、栗山が送って一死三塁。



この場面は、渡辺監督のサインです。
バッターは3番の中島裕之ですが、
じつはあの時点で手首と脇腹を痛めてて、
外野フライも期待しづらい状態だった。
だからもう、片岡の足に期待して、
内野ゴロ打たせて本塁に突っ込ませるしかない。
糸井 はーーー。
赤坂 最悪ライナーでゲッツー、
ホームゲッツーもある。空振りもある。
でも、ここはサインを出して
中島が叩きつけるのに期待して、
片岡を走らせる。
糸井 それは、采配としては‥‥。
赤坂 いや、ふつうに考えたら、
リスクが高すぎると思いますよ。
でも、渡辺監督はそういうことを
やっちゃえる監督なんですよね。
先発の岸をリリーフで投入したのも、
そういう意表を突く采配の一つでしょう。



デーブにも選手にも、
「失敗したら責任取るのはおれだから」
と言ってるそうだし。
ただ、それが、いわゆる名監督の
やることかと言われたら、
違うような気もするけど、やっぱり(笑)
糸井 (笑)
赤坂 でも、それで勝って日本一になった。
だから、もう、いよいよ、
名監督とはなんぞや、ということが
よくわからなくなっちゃった。
糸井 そうですね。
事実から組み立てていくしか
ないんだろうなぁ。
理屈で固めて勝てるかというと
そうじゃないわけだから。
いや、でも、やっぱり
おもしろいなぁ、そういうのは。
赤坂 そうなんです。
いま、そういうところも含めて、
野球がおもしろいんですよ。
糸井 そうですね。
赤坂 魅力的で、ステキなんです。
糸井 うん(笑)。
赤坂 すいません、なんだか長くなりました。
糸井 いえいえ、最後に
いいドキュメント作品まで
1本、披露していただいて。
赤坂 (笑)
糸井 ありがとうございました。
赤坂 こちらこそ、ありがとうございました。


(赤坂さんと糸井の対談は
 これで終了です。
 お読みいただき、
 どうもありがとうございました)
イラスト:田口
2009-12-17-THU
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