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 『幸せになるため』
 ハイ・ファイ・セット

 
1976年(昭和51年)

同じ愛
見つめているのかな‥‥
(みー。)

あの人も仕事を終えて
今頃家路をたどっているだろう
離れてるけど同じ愛見つめ


昨日、宇津井健さんが亡くなられたとの訃報が流れ
同時に蘇ってきた想い出を書きました。

付き合って2年目で、彼が半年間の長期出張になりました。
私は社会人になったばかりで、右も左もわからない頃。
とても不安で落ち着かない日々が続いていました。
慣れない仕事、連日続く残業、
でも週末にも逢いに行けない距離‥‥。

仕事が始まったばかりの月曜日なのに大失敗をして凹み、
いつもはバスで帰る道のりを、
一時間近くかけて歩いて帰りました。

時は夏の終わり。街で一番好きな並木道を抜けて、
彼と出かける時には必ず通る街並みの、
緩やかな坂道を下る途中に
小さなクリーニング屋さんがありました。
ガラス越しにまだアイロン掛けをしているおじさんがいて
その向こうのテレビに宇津井健さん主演のドラマ
『たんぽぽ』の主題歌が流れていました。

夕焼けが燃えて落ちてゆくよ
山並みの向こうへと馳せる想い
あの人がくらす町もやがて
薔薇色の輝きに染まるころ
あの人も仕事を終えて
今頃家路をたどっているだろう
離れてるけど同じ愛みつめ

山本潤子さんの伸びやかな高音が胸の中に沁みて来ました。

「同じ愛見つめているのかな‥‥」

クリーニング屋さんの窓の横の壁に背中をくっつけて
歌が終わってもしばらくの間歌詞を繰り返していました。
足元には側溝(どぶ)の蓋のつなぎ目から、
近くの家で落としたお風呂の
バスクリンの香りが立ちのぼっていました。

ほんの少しの不安と、きっと大丈夫と思う安心と、
二つの気持ちを抱えながら、
重たい背中を起こして家までたどり着きました。

今でも良く歩くあの道。
あのクリーニング屋さんはもうありません。
どぶもなくなってキレイに舗装された歩道。 
でもここを通る度にあの歌が頭の中に流れます。

私の横にはあの日の彼が、
少し歳を取っていつも一緒に歩いてくれています。

(みー。)

宇津井健さんが亡くなったのは、ことしの3月14日。
あのころ、この記憶が蘇ったのですね。

「バスクリンの香り」のところで、
(みー。)さんがたたずむ風景が、
くっきりと目の前に浮かび上がってきました。

不安、愛おしさ、もどかしさ、くやしさ‥‥
さまざまな想いが入り混じった記憶。
「音楽」とか「匂い」って、
ふとしたときにリアルな記憶をドンと
目の前に連れてきますよね。

ハッピーエンドに、こころもあたたまりました。
よかった‥‥。
ほっとします。

昔の町の記憶には、バスクリンとか、
どこかのおうちの夕飯づくりとか、お線香とか、
暮らしの「におい」がたくさんしみついています。
ドアや窓はあけっぱなしだったし、
壁も薄かったから、
テレビから流れるハイ・ファイ・セットの歌声も
路地に響いてきたんですよね。

うちの父は自他ともに認める音痴で、
お風呂で気持ちよく鼻歌をうたっているのに
犬の遠吠えにしか聞こえなくて、
それが近所にもれ聞こえているのがなんとも
おかしくて愛おしかったことを憶えています。
もしかしたら、うちの父の「遠吠え」も
誰かの背中を押していたのかもしれない。
そう考えると、いいなぁ。
「たんぽぽ」が放映されたのは1970年代。
いまの町にも、そんなことはあるのかな。

町のにおいや音を感じながらさみしい半年をしのぎ、
いまも「すこし年をとった」彼が
かわらずいっしょに歩いてくれている‥‥よかったー!!

風景と音と匂いで、タイムスリップしたみたいに
「あのとき」がよみがえることってありますよね。
そのときの気持ちって、そうだ、
「ほんの少しの不安と、きっと大丈夫と思う安心」だ。
同じ道だけど、毎日、ちがう気持ちで歩く。
そうして一日一日がすぎてゆき、
ふたりの時間は重なってゆき、
年齢を重ねていく。
すてきだなあと思います。

夕方の帰り道を思い出す曲といえば
ぼくのなかで矢野顕子さんの
『ごはんができたよ』です。
そして、家々からのいろんな音や匂いを
感じる曲といえば、
『サザエさん一家』(エンディングテーマ)です。
あ、後者はぜひTV版ではなく
フルコーラスで聞くことをおすすめします。

はあ、素敵な投稿でした。
バスクリンのにおいとが香るようです。
バスクリンって、お湯に入れる瞬間、
蛍光色に光りながら溶けるような感じがして
わくわくしましたよね。

そういうのって、いまも同じみたいで、
新しい入浴剤をどこかからもらってくると、
上の子と下の子が競い合って入れようとします。
「そんなに入れなくてもいい!」と
思うときもありますが、
まあ、入れたいだろうなあと思って
放っといたりします。

テレビでやってるドラマや
聞こえてくる歌は
当時と違うかもしれませんし、
道路もきれいに舗装されてるかもしれませんけど、
「こころの動き」みたいなものは
何十年かくらいの年月では
ちっとも変わらないですね。
むかしもいまも、仕事で大失敗したら、
1時間歩いて帰りたくなると思う。

そして、素敵なラストシーンでした。
みじかめのエンドロールに
勝手にハイファイセットを流します。

それではまた、次回の更新で。

2014-10-24-SAT

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