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 『Tomorrow never knows』
 Mr.Children

 
1994年(平成6年)

彼は2つ上の
大学生で
バンドマンでした。
(長男は18歳現役バンドマン)

心のまま僕はゆくのさ
誰も知る事のない明日へ


彼と知り合ったのは18歳。
2つ上の大学生でバンドマンでした。
それまで付き合った人はいたけれど
苦しくて苦しくておかしくなりそうな恋愛は初めてで。
若かった私は彼だけの為に毎日息をしていました。

でも彼はなかなか移り気なタイプで‥‥。

あっけなく私の初めての怒涛の恋は
彼の心変わりで1年で終わり、
私はあまりのショックに体調を崩したり、
彼を忘れようとバイクの免許取得に没頭したりと
それはもう必死に毎日を足掻いていました。

彼はといえば、そんな私の気持ちも知らず
彼女がいるにも関わらず平気で電話してきては
「○○ちゃん(彼女)が今日遊べなくて…」と、
お茶に誘ってくる始末。

別れてからもズルズルと呼ばれれば会いに行ってしまい、
帰りにはキスもしちゃうという
ダメな日々を3年もした頃に後の夫となる人に出会いました。

彼はもうその頃既に
私と別れてから3人目の彼女とお付き合いしていて。
それでも私は彼が忘れられず。
やっと彼の誘いの電話を断れる相手が現れたのです。

その後順調に結婚の話になり、
その頃には彼から時々かかってきていた電話も
なくなっていました。

そんな頃結納当日。
夜、婚約者と会う約束をして二人向かったバーに彼が‥‥。

何食わぬ顔で離れた席に座る私達。

ただ1人何も知らぬ婚約者がトイレに立った隙に
こちらへ来る彼。

「結婚するんだってね。おめでとう。
 俺はこんなんだし‥‥まだまだ落ち着けないね。
 ねぇ…もう電話番号も変わっちゃうんだね」と。

「‥‥変わっちゃうね。名前も変わっちゃうから」
と私は笑顔で答えました。

それからさすがに狭い街でも
会う事はないだろうと思っていたのに。

結婚式の引き出物のパンフレットに
モデルとしてにこやかに写る彼
(学生時代にしていたバイトでした)を発見した時には‥‥
「もう私の気持ちを揺らさないで!」と心底願いました。

無事に結婚し、すぐに子どもにも恵まれ
親子三人で街へ買い物に出かけたある日。
街角にストリートミュージシャンがいました。

彼でした。

かわらぬ風貌で誰も足を止める人もない昼間の街中で
ギターを弾いていました。
とっくに社会人になってる筈の年齢でしたが。

私と付き合っていた頃には聞いた覚えのない
私の知らない曲を歌っていました。

私に気付いて一瞬驚いた顔をして、それでも歌っていました。

歌っている曲は洋楽なのに、
何故か私の頭の中には
怒涛の恋をしていたあの頃流行っていた
ミスチルのTomorrow never knowsが流れていました。

バイバイを覚えたばかりのベビーカーの息子は
ギターの彼に一生懸命手を振っていました。

パンクしか聞かない息子が
たまにカラオケに行くとミスチルを歌います。
時々思います。

「Tomorrow never knows歌って」
とリクエストしてみようか‥‥と。

彼は未だに
「心のまま僕はゆくのさ‥‥」
な人生なのかなぁ?

あれからはさすがに偶然会いませんね。

(長男は18歳現役バンドマン)

バンドマンの彼はいったいどうなるんだろうと、
はらはらしながら読みました。
バンドマンの方が気になってしまうのはきっと、
読んでいるぼく自身が
演劇を長いことやっていたからなんだと思います。
その意味では、ちょっと切ない投稿でした。

という私事はともかく、
この投稿のクライマックスは
やはりここではないでしょうか。

 バイバイを覚えたばかりのベビーカーの息子は
 ギターの彼に一生懸命手を振っていました。

すごいシーンだと思いました。
すごい。
そしてさらに、この方のハンドルネーム‥‥。
深い投稿です。

「Tomorrow never knows」といえば
ぼくにとってはビートルズのサイケなナンバーでしたが、
ミスチルのこの曲も好きです。
いま聴きなおしてきたんですが、
桜井さんの声の魅力にあらためて気付かされました。
琴線に触れてきます。

ダメー! 別れたのに呼び出されて
会いに行って帰りにキスはダメー!
って、わかっちゃいるのに、ですよね。
もうほんとに、惚れるって、厄介です。
バンドマンの彼もどうかしてるけどさ、
なんか、その後も、
まるでコメディみたいな、
妖怪じみた登場の仕方で、
だんだん笑えてきちゃいました。
なんて言いながら、山下さんと同じように、
そんなバンドマンの、夢を追う彼に
ちょっとだけ感情移入するじぶんもいます。
心配しなくてもいいくらいには、
なんとか、やっててほしいですよね。
音楽続けてるかどうかはともかく。

ほんとに、街角にいたのが
「彼でした」というあたりから、
もう、よくわからないおかしさが
私にも降りてきました。
深い縁ですねぇ。

まず、18のときの
「苦しくて苦しくておかしくなりそうな恋愛」が
すごいです。
そんなふうに言い切れるのがすごいです。
そして、3年のあとに
「もう電話番号も変わっちゃうんだね」
という彼、絵に描いたようにずるずるしてて
知らない人なのにありありと姿が浮かびます。

そして、いちばんの私のポイントだったこと‥‥
バイバイをしているベビーカーの赤ちゃんは、
パンクしか聞かないのか! でした。
恋歌くちずさみ委員会の投稿の、
1行で何年も飛ぶ醍醐味を忘れていました。
ああ、すごい。

なんだか、読んでいて、
自分のなかの「タイム感」と合わず、
あれれ、と思ったのですが、
原因がなにかというと、
Mr.Childrenというバンドの
キャリアに対する感覚でした。

『Tomorrow never knows』って
20年前の曲なんですね。うわぁ。
そりゃ息子も18歳バンドマンになるわ。

ひとつの恋が、時間を経て、
人も関係も変遷していくのが
「恋歌くちずさみ委員会」の
投稿を読む醍醐味のひとつ。
長い思い出を、どうもありがとうございました。
みなさまからの投稿、お待ちしています。

さて、春休みスペシャルということで、
ここのところ連日更新してきました
「恋歌くちずさみ委員会」ですが、
次回は平常通り、土曜日の更新です。

2014-04-02-WED

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