『even if』
 平井堅

 
2000年(平成12年)

慎重に、慎重に、
惚れないように、
惚れないように‥‥。
(ひとり上手と呼ばないで)

鍵をかけて 時間を止めて
君がここから離れないように


同じ人に2度恋をしました。

彼は、大学の1年先輩でした。
中学生みたいな、あこがれだけの恋でした。
彼のいそうなところに行ってみたり、
小さなプレゼントを渡したり。
結局、何も起こらずに終わりました。

2度目に会ったのは、それから17年後。
あこがれていただけで実は何も知らなかった彼は、
お酒と演劇を愛す寡黙な人だと知りました。
カウンターに座って、
いろいろなお酒の味を覚えて、
楽しくて。
こりゃそのうち惚れるかも、と思いました。

彼は、妻はいるけど別居中、
というややこしい状況でした。
そして私は、卒倒しそうにあり得ない偶然で、
彼女を知ってもいました。
だから、好きになっても、
あまりハッピーな気持ちにはなれない。
この年になって、ハッピーじゃない恋愛は、
もうしたくないよなあ、自分、と。

彼は誘うといつも来てくれました。
まあ、別に断る理由もないだろうし、
断るまでもない頻度ではありました。
慎重に、慎重に、惚れないように、惚れないように‥‥。
会って飲んで別れた後、いつも、
「大丈夫、今日もちゃんと友達だった」
と、心の指差し確認をしていました。
でも、何十年も自分をやってれば、
自分のことはよくわかります。
惚れるに決まってます。

好きにならないように、
あまり会わないようにしていたはずなのに、
好きになってしまえば、会いたくて、会いたくて。
でも会いたいとは言えなくて。
そして、会えば会うたびに好きになっていく。
彼も気がついていたと思います。

友達でいることに心が音を上げた時、
「もう誘わない」と伝えました。
そして彼から「自分には大事な人がいる」
と告げられました。
不覚にも、そっちの可能性には完全に無防備でした‥‥。


あれから何年たつのかな。
その後、彼は離婚したと聞きました。
そして、ほかのだれかと一緒にいるみたいです。
でも、「久しぶりに飲みませんか」と誘ったら、
来てくれるんだろうな、きっと。


<おまけ>
この「わたしの恋歌」にはカップリングがあります。
(勝手に作るなって?)
中島みゆきの「縁」です。
彼に初めて恋した時によく聞いていたなあ、と、
2度目の恋が苦しくなってきた時に
しみじみ思い出しました。
中島みゆきのほうが恋歌くちずさみ委員会的選曲ですが、
私にはちょいとブローが効きすぎるので、
素直に泣けるA面の平井堅でお願いします。(笑)

(ひとり上手と呼ばないで)

「だめだろうそりゃだめだろう」
と思いながらも恋に落ちていくときの、
あの抑制の効かないかんじ。
望んでいるし、望んでいないし。
アンビバレントな気持ちも含めて全体が、
もうすでに恋なんですよねえ。

「even if」は、
好きな子をお酒にさそう歌。
いっしょに飲んでいる間だけは、
君は、ぼくのもの。
けれども君は、
きまって彼の話ばかりを繰り返す。
そんなもやもやした心情を歌う歌。
そしてカップリング(この考えかたすごい!)の
「縁」はですねえ、これはねえ‥‥、
「縁 中島みゆき 歌詞」で検索してください。
すごいなと思ったら
「片想 中島みゆき 歌詞」もぜひ。

誘いたくなるような人で
誘ったら来てくれる人なんですね。
そりゃすごいモテる人なんでしょう。
だって2度恋するくらいなんだもの。

カップリングの中島みゆきさんふうに言うと、
縁はあるんだと思います。
しかし、そんなに深くせず‥‥というくらいに
しておいたほうが、この人は、いい気がいたします。
相手の瞳にうつるのは、できれば今後は自分だけ、
と思いたいですもんね。

たくさんの女の人にかこまれて
しあわせそうにしてる人って、いるにはいます。
そういうふうに割り切れればいいですけどね〜。

「これは‥‥そのうち惚れるかも。
 おしゃべりはとても盛り上がるし‥‥危険かも」
と身構えている状態はもう、十分に「恋」なんですよね。
ということを武井さんも言ってますね。

「自分には大事な人がいる」と告げられたことは、
よかったぁと思いました(勝手ながら)。
言ってもらわないとずっと想っちゃいますから。
彼には、そのやさしさもちゃんとあるんですね。
上手に諦めさせるやさしさがある。
そういうところも、モテるんでしょうねぇ。

「ハッピーな恋愛をしたい」というのは大賛成です。
なかなかそうもいかないのでしょうが‥‥
危険な香りに惹き寄せられるのもわかりますが‥‥
できれば、どうせなら、ハッピーな恋をと願います。

最近、投稿でもっとも多いかたちが、
「好きになってはいけない相手と
 たのしく過ごしつつも
 好きにならないよう、踏みとどまる」なんです。
それも、女性がフリーで、
男性が「好きなってはいけない人」
であることが多いんですよね。

しかし、そういった境遇は似通っていても、
そこからふたりがどうなるかは、
ほんっとうに、さまざま。
どきどきしながら読み進めましたが、
なんというか、
踏み外さなくて、よかったです。

恋歌くちずさみ委員会的にいうと、
「1ミリも進めてはいけない恋」において
ハッピーエンドって、じつは、
「ふたりが踏み外さないこと」
なんじゃないかなぁ。

みなさまからの投稿、お待ちしています。
本とCDも、つくりました。
こちらのページからどうぞ。

2014-01-18-SAT

最新のページへ
感想をおくる ツイートする ほぼ日ホームへ
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN