『悪女』
 中島みゆき

 
1981年(昭和56年)

私は「悪女」になります。
これからもきっと。
(かがみ)

涙も捨てて 情けも捨てて
あなたが早く 私に 愛想を尽かすまで
あなたが隠すあの子のもとへ
あなたを早く渡してしまうまで


私、恋歌になんて縁がないなあって、
このコーナーを読みながらいつも思ってました。
歌と共にふり返りたいような、
きれいな青春があるひとはいいなあって。

でもつい先日、思い出しました。
(ここの投稿を見て、ですけど)

私は20代の頃、恋愛とも言えないような、
変な関係ばっかり持っていました。
愛情でもなんでもない執着だけの関係、
互いに足りないものを埋めるだけの疑似恋愛、
ちょっとした刺激物。
そういうような、形の残らないものばかり。
そして最後はいつも私から別れを切り出すか、
私の方から連絡をとらなくなって終わり。

男の人はいつも言います。
「こんなにいい女はいない。一番好きだ」
じゃあなんで、と私は内心笑ったものです。
じゃあなんで、
私があなたを好きな間に、
私をあなたの一番にしてくれなかったの?
いつもいつも、終わってから。
だけどそこからもうひと頑張りする人は、
かつて一人もいなかった。

自分はその程度の女なんだ、と思うことにも、
今度こそ本当の気持ちで、と思うことにも、
疲れてしまった今の私は、
恋愛とは無縁の35歳です。
ときどき、ときめき。
ああ、あと、
一回だけ事故があったなあ。
それもやっぱり、
ひと肌恋しい身勝手さの穴埋めになっただけでした。
そしてやっぱり、
私から縁を切りました。

終わるとき、私の中では、
いつも「悪女」が回ります。

未練なんかないんです。
終わりを望むのは私なんです。
男の人が背中に隠す、
恋人や家庭や保身や身勝手を、
責め立てることは、もうしません。
なじって、縋って、みっともなく泣いて、
それでどうなるってわけでもないんだから。
そんな醜態をさらすくらいなら、
「私があなたに飽きたの」と、
せめて強がっていたいんです。

ええ、強がりです。
月夜だけがそれを知っています。

でも、
涙を見せて、
私を大事にしない男たちに、
くだらない優越感を持たせるくらいなら、
私は笑って手を振りますよ。

ひとりの心を守る、それが最後の砦です。

だから私は「悪女」になります。
これからもきっと。

(かがみ)

「悪女」は、彼に別の女ができたことに
気付いた主人公が、
じつは涙をぼろぼろ流しながらも、
あたしも別の男と遊んでいるのよというふりをして、
つまり「悪女」をよそおうことで、
好きな男が早く自分から自由になれるように
お膳立てするという内容です。
当時大ヒットして、TVでは
中島みゆきの歌うすがたを見ることはなかったけど、
「悪女」というすさまじいタイトルと、
軽妙なメロディに乗る複雑な心境の歌詞は
とても覚えやすくくちずさみやすいのに、
15歳男子に理解できていたかどうかは怪しいです。
まさかこんなふうにほんとに
「悪女」の主人公そのものの恋愛をしてきた女性からの
投稿を読むことになるなんて‥‥びっくりです。

そういえば中島みゆきさんのこんどのアルバム
糸井重里がコピーを書いています。
「ひとりたちよ、ひとりたちよ。
 ひとりは、ひとりぼっちじゃありません。」
です。

ひとりは、ひとりぼっちじゃありません、かぁ。

うん。みんなひとりだし、
形の残る恋愛って、ほんとはないのかもしれない。
さみしさとかエゴとかめんどくささとか
いろんなものがひそむなかで
好きになったり執着したりあきらめたり
してしまうものなのかもしれません。
自分と恋は切り離すことはできないですものね。

隠しておいた言葉「行かないで」を
こぼしたくない、という
悪女の気持ちはいまはよーくよーくわかるけど、
そして「行かないで」を言える人の
本気のすごさも感じられるけど、
当時の中学の私は、シェフとおなじく
やっぱりわかっていませんでした。
それでも、
あのあかるいメロディーにのせて
ずっと印象深く覚えていられるのは、やはり名曲。
中島みゆきさんは何度でも
人生で味わうときが来るなぁ。

いま聴くと『悪女』のアレンジって
ちょっとロネッツみたいなんだよなあ。
そして、当時、ぼくは、
この曲のコードをフォークギターで
追いかけていた記憶があります。
G Em C A7 と押さえやすく、
気持ちよく弾き語りができたのです。

そして、上のふたりと同様に、
「ふられた人の歌」くらいにしか
思ってなかったような気がします。
「あなたの隠す あの娘のもとへ
 あなたを早く 渡してしまうまで」
なんていうフレーズを深く噛みしめたりせずに。

投稿のなかにも、歌になりそうな
印象的なフレーズが登場しますね。
「じゃあなんで、
 私があなたを好きな間に、
 私をあなたの一番にしてくれなかったの?」

以前も書きましたが、
中島みゆきを聴く人の投稿は、
つづられることばが歌詞のようです。
きれいな流れの投稿を
どうもありがとうございました。

お互いがお互いの一番になれるような恋は
意外に、ひゅっとはじまるかもよ。

の3人よりも何年か先にうまれたぼくは
この曲を19のころに聴いていました。
男友だちの部屋でレコードに針を落として、
「‥‥中島みゆきの歌詞は、深い」
くらいのことは言っていたと思います。なまいきに。
もちろん、ちゃんと理解はしてないんです。
そんなこと言える経験をしてないですから。

あらためて『悪女』の歌詞をじっくり読みました。
上の委員3人がそれぞれ歌詞について触れていますが、
そりゃあそうなるなぁ、と。
歌詞について触れずにはいられないすごさが
そこにあると思いました。
あたり前のことですが、すごいです中島みゆきさん‥‥。
「行かないで」という本心を
セリフ調で表現しているとことなんか、もう‥‥!

(かがみ)さんの投稿は、
永田さんの言うように、歌詞みたいに美しいです。
美しい陰があって、その分だけ切ない。
話してくださってありがとうございました。
強がりをしなくていい相手に
いつかひょっこり、出会えますように。

だいぶ冬の気配を感じてきました。
あたたかいものでも飲みながら、
好きだったあの人のこと、思い出してみてください。
そのとき流れていた歌もいっしょに思い出したなら、
ぜひご投稿を。

それでは。
次は水曜日にお会いしましょう。

2013-11-09-SAT

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