『LOVER SOUL』
 JUDY AND MARY

 
1997年(平成9年)

ああ、私はこの人のこと、
ずっと気になっていたんだ。
(Sabine)

あなたと2人で このまま消えてしまおう
今 あなたの体に溶けて ひとつに重なろう


大学時代、小さな図書館でのバイトで彼と知り合いました。
正規職員の中年女性2人と学生バイトの男の子が3人。
バイトのうちの1人A君が
1ヵ月留学の為休職するというので、
私はその代用に行ったのです。
期間はA君の留学前後1ヵ月も含めて3ヵ月。
バイト同士は私も含めて全員同い年で、
仲良くなるのに時間はかかりませんでした。

私は少しヤンキーっぽい雰囲気の
B君とC君に誘われてドライブに出かけたり、
カラオケに行ったり、
夜通し遊んだりするようになりました。
2人は私に学生らしい遊び方を教えてくれ、
それまで勉強ばかりだった私は
すっかり2人と過ごすのが楽しくなっていました。

一方、A君はまじめな性格で
誰からも好青年と評されるタイプ。
自分が留学で不在になる前に
私に仕事を教え込もうと一生懸命でした。
引き継ぎの為、仕事中はほとんど
2人で行動していましたが、それだけでした。

あっという間に3ヵ月は過ぎ、私はアルバイトを卒業。
最後にみんなで職員さんの持つ
隣県の別荘へ遊びに行くことになりました。
2台の車に4人のバイト仲間が
2人ずつ乗り込んで高速道路へ。
時折立ち寄るサービスエリアで乗り合うメンバーを
チェンジしながら目的地に向かいました。
私は、別荘の最寄りのインターチェンジを降りるところから
初めてA君と二人きりになりました。
よくよく考えてみると、プライベートな時間と空間で
二人きりになったのはそれが初めてでした。
車の中がとても小さな空間に感じられてドキドキしました。
でも次の瞬間、こうして向き合ってみたかった、
という思いが唐突にあふれだしてきました。
ああ、私はこの人のこと、
ずっと気になっていたんだ、と思いました。
そして、運転してくれていたA君の横顔が心なしか
照れくさそうで、でもうれしそうなのに気付きました。
うぬぼれではなくて、
きっとA君も私と同じ気持ちなのだ、
とはっきりわかりました。

その時、A君の車のオーディオから
流れてきたのがこの曲でした。
私たちはこの歌が流れている間は言葉を交わさずに
じっと聞き入り、曲が終わってしまうと
「いい歌だね」と言い合って
もう一度リピートして聞きました。
「あなたと2人で このまま消えてしまおう
 今 あなたの体に溶けて ひとつに重なろう」
という部分はまさしく今の2人の実感そのもので、
バイト仲間から離れて2人きりに、そしてお互い
もっと関係を深めたいという思いそのままでした。
甘くけだるいような曲調も、その時自分の胸の中にあった
甘やかな気持ちと響き合うようでした。

私たちは別荘での時間の端々に
2人になれる瞬間を見つけては、
遠回りな会話を重ねて気持ちを少しずつ確かめ合いました。
そのやりとりを交わせば交わすほど、
相手が好きだという気持ちが増していくようでした。
彼は私を家まで送り届けてくれ、
そこで改めて気持ちを言葉に出して確かめ合い、
お付き合いすることになりました。

彼とのお付き合いは、
学生時代の恋愛としては素晴らしいものでした。
深夜にバイクでお台場に連れていってくれたり、
ディズニーランドで誕生日を
ロマンチックに祝ってくれたり、旅行に行ったり…。
結婚しようねともいってくれました。
今も輝かしく光る思い出です。

この曲を聞くといつでも、
あの狭い車内と甘やかな気持ちを思い出します。

今の主人と熱に浮かされたような恋に落ちるまで、
彼とのお付き合いは続きました。
A君との恋愛はとても素敵で
終わることなど考えられなかったけれど、
2人の子どもにも恵まれた主人との出会いは
それを上回る引力を持って私を惹きつけたのでした。

彼も私と別れた2年くらい後に結婚したと
風のうわさに聞きました。
B君にうれしそうに挙式のビデオを見せてくれたと。

今はただ、彼も私もしあわせであることを祈るばかりです。

(Sabine)

投稿に添えられていた追伸には、
「書き上げるまで
 4ヵ月近くかかってしまいました」
とありました。
「書いたことでひと区切りつきました」とも。

たくさんの投稿をいただいているのですが、
そのように、
「自分の恋をあらためて見つめ直す機会になった」
という方が多くいらっしゃいます。

そう、家族にも友だちにも話せない思い出を、
ここになら投稿することができる。
なんとも不思議な場になったものだなぁと思います。

重ねてきた思いが、
ある、印象的な一日に、あふれ出す。
恋に落ちるパターンとしては、
とても素敵だなあと思います。
「時間の端々に2人になれる瞬間を見つけては」
という表現に、
ふたりのあふれだした気持ちが
瑞々しく感じられました。

遠回りに、少しずつ
気持ちを確かめていく過程って、
すごくいいですよね。
はっきり言えずに、
「好きだったとしたら、
 このヒントでわかるはず。
 そうじゃなければ
 スルーしちゃうよね」というていどの
ほんのちょっとひっかかりのある
ことばを使ってみたり、
じっさいの距離を縮めてみたり。
あんがい、まわりの友人のほうに
「おまえらお互いずっと
 気にしてたじゃん?」なんて
バレバレだったりもするんですけど。

「学生時代の恋愛としては」
というくだりで、
ああ、(Sabine)さんのAくんとの恋は
きっと終わっちゃうんだなと思ったけど、
そ、そんなに突然の恋の嵐。
もってかれちゃったんですね‥‥。
その話もいずれ聞かせてくださーい。

こんなにきれいな思い出でも、
それを人には(とくに家族には)話せなくて、
書くことにさえ4ヵ月もかかってしまうのですね‥‥。
何度も書いてきた言葉ですが、
たいせつな思い出をありがとうございます。

「私たちは別荘での時間の端々に
 2人になれる瞬間を見つけては、」
というフレーズがやはり、リアルですよね。
うれしくて、くるおしくて、もどかしい‥‥
青春の、あふれる恋の記憶。
‥‥思い出しちゃいます、自分の青春も。

最後にちょっとB君の話が出てくるのがいいです。
なんだかとてもいい。
A君はたぶんきっと、幸せですよね。
ぼくはB君とC君の幸せも願います。
なぜかというと、自分がそのポジションの
キャスティングになることが多かったから。
ヤンキーっぽくはないのですけれど。

どうも、ヤンキー派のスガノです。
いやぁ、ステキですね。
その、恋のはじまったところはもちろん、
「主人との出会いは
 それを上回る引力を持って私を惹きつけたのでした」
というとこが、あああああ、そうなのか!
いいぞー、恋。と、私は旗を振りたい。

過去の彼と自分の距離の縮まりを
こんなふうにみずみずしく描けるなんて、
読んでいて、たまらなく、うれしいです。
上の3人がぜんぶそのとおり、ってこと
書いてくれちゃってるから言うことないけど、
それにしてもだよ、
いい恋、してんなあ!
(と、バンッと背中を叩くヤンキー役の私)
秋はきついパーマでもかけようかな!
恋歌のCDかけて、ドライブ行こうぜぃ。
顔はやめな、ボディボディ!
また来週!

2013-10-19-SAT

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