『オレンジな満月』
 aiko

 
1999年(平成11年)
 アルバム『小さな丸い好日』収録曲

年下って、ずるい。
  (ricecake)

カーテンのすきまのぞいてるオレンジな満月
左目からお願い
「どうか同じ温度で時までも止めるくらいの
 kissがいつか いつか」

転職した会社で出会った年下の男性。
同じ県出身ということもあり、
気が合ってすぐに仲良くなりました。
ランチしたり、仕事では先輩にあたる彼に
わからないところをきいたり、
他人なのに、気を使わなくて、素直でかわいいなと
それだけの気持ちでいました。

仕事は忙しく、教えてくれる人もいなくて、
怒られて、つらくて
でも自分が一人前に仕事できないことが悔しくて、
つい彼にはいろいろ愚痴って。
でもいつも私をかばってなぐさめてくれる彼に
「どうしてそんないつも優しいの」と
言ったら「あんたは特別ですよ」と。
びっくりして
「ねえ、そういうのって、
 好きな人にだけ言った方がいいよ」
と言ったら彼は「うん‥‥」。微妙な返事でした。

私には、結婚を約束した人がいました。
でもその人も転職したばかりで
自分も余裕がなかったのでしょう、
私が自分のことを愚痴れるような状態じゃなかった。
いつのまにか、会社で彼に会って
いろいろ話すことだけが、
つらい仕事の唯一の楽しみになってました。

ほんとに煮詰まってきた頃、
会社をさぼって彼と水族館にいきました。
終わりの見えない仕事、
成長していると思えない自分から目を背けたくて。
なんか自分がよくないことしてるな
という気はありましたが
もう何も考えたくなかった。忘れたかった。
結局最後は、彼に告白されて、断って。
もうだめだ、彼とはもう今まで通りに戻れない。
仕事もつらい。
どうしよっかな、仕事もやめよっかな、
と割り切るつもりでいました。

しかし。
結局割り切れず、その同僚は私の夫になり
会社も辞めず、もうすぐ10年目のベテランです。

この歌は、つきあいはじめに、
aiko好きな彼の家でよくかかっていました。
だからその頃の私の記憶は、
なんだか暖かいオレンジ色。

つきあって3年、結婚して5年、
いろいろありましたが。
つきあうことになったとき、
店の中なのに「やったーーーー!」と叫んで
跳び上がった彼と、この歌を思い出すと、
結局なんでも許してしまうのです。
年下って、ずるい。

(ricecake)

よくある、というと失礼ですけど、
ここに寄せられる投稿としては
よくある感じの三角関係、
と思いながら読んでいたんですが、
なにしろ、最後の、彼氏の
「やったーーーー!」がよかった。
笑っちゃった。アスリートかと。

なかなかないですよね、
恋愛で「やったーーーー!」って
雄叫びをあげるような瞬間って。

つきあいはじめのときに
彼の家でよくかかっていたというのは、
恋歌のなかでも
もっとも幸せなパターンのひとつ。
そういう曲があるって、いいですね。

ああ、(ricecake)さん、
きっと、断るんだろうな、
仕事もやめちゃうのかな、
と思って読んでたら、
突然「夫に」って!
ああびっくりした。
「結局割り切れず」っていうけど、
ある意味「すっぱり割り切った」
のかもしれないですね。

うれしくて、跳び上がっちゃった彼。
そういう、恋愛における
「瞬間」の記憶ってありますよね。
かなしい瞬間もあるけれど、
こんなふうにいつでも
(記憶のなかで)再生可能な
とんでもなく幸福な瞬間って、
人生のお守りみたいなものだと思います。

ほんと、
「やったーーーー!」
はすごい。
「恋歌くちずさみ委員会」に
「特選名ゼリフ」というものがあるとすれば、
とうぜんエントリーされる一言だと思います。
「年下」っていうのがまた、効いてるんですよー。
「やったーーーー!」
(ぴょーんと跳び上がってよろこぶ年下の彼)
そぉれは、ずるい。かわいい。

途中のどんでん返しには、かなりビックリ。
あまりにもみずみずしく描かれているので、
勝手に最近のことだと思い込んで読んでたんです。
「昨日のことのように語れる思い出」なんですねー。

仕事で煮詰まって、先が見えなくて、愚痴を言って、
三角関係ぽい状況になって、
よくないことしてるな、という気分があって
でも、もう何も考えたくなくて──
そういう流れで、恋がはじまったときには
わりとしとやかな感じなのかな? と想像したんですが、
「だからその頃の私の記憶は、
 なんだか暖かいオレンジ色。」
わー、そうですよねぇ、そうでなくっちゃ!
そして、そのあたたかい恋のうきうきが深まって
「同じ温度で、時までも止める」関係が
できあがっていくといいなぁ〜。

やっぱり、たのしいのがいいです。
恋人を思うとき、不機嫌な顔よりも
「やったーーーー!」とか「あんたは特別ですよ」とか
そんな姿がいいですもんね。

年下のだんなさまに
どうぞよろしくお伝えください。

今日は三日月、
月はこれからどんどん太っていきますね。
それでは、また来週に!

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2013-07-13-SAT

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