『勝手にシンドバッド』
 サザンオールスターズ

 
1978年(昭和53年)

彼は私の心の拠り所であり、
ヒーローでした。
  (ともぞう)

いま何時 そうねだいたいね

小学生のころの私は、勉強が得意な子どもでした。

そしてそのことは、仕事が続かない夫との
ケンカばかりの生活に疲れていた私の母にとって、
唯一の心の拠り所となってしまったようで、
私は毎日、とにかくやたらと勉強させられていました。
「百点取って当たり前」がその頃の母の口ぐせでした。

そんなある年の学期末テストで、
算数で91点を取ってしまいました。

「どうしよう。お母さんに叱られる‥‥」
休み時間、重い気分で席に座っていたとき、
ふと机に置いたままになっていた、
隣りの席の「かー君」の答案用紙が
目に飛び込んできました。
!!
なんと国語が0点、算数が1点だったのです。

それなのにかー君は、
全く気にする風もなく友達と騒いでいます。

テストの結果を、
こんなに気にせず暮らしているなんて‥‥。
かー君がものすごくカッコ良く見えました。

またある時、家庭科の調理実習のため
三角巾を用意しなくてはならなかったのですが。
みんな白い三角巾を購入したのに私は買ってもらえず、
代わりに母に持たされたのは、真っ赤なスカーフ。
当時の私にとって、
1人だけ違うことはとても恥ずかしく、
嫌だどうしようとグチっていたら、

「じゃ、オレのと交換しようぜ」と言ってかー君は、
真っ赤なスカーフをキリッと被り
「オレ、赤ずきん!」と言いながら
元気にキュウリを振り回してくれました。

勉強は苦手だったけど、
だれよりも優しくて、足が速くて、
お調子者だったかー君。
公園で泣いてる子がいたら、
真っ先に声をかけていたかー君。
ランドセルを前後に二つ背負って
「がんばれロボコン」の歌を
大声で歌いながら下校していたかー君。
町内会の子どもみこしの日に、
カルピスを紙コップで30杯も飲んだ!
と自慢していたかー君。
そしてクラスのだれよりも早く
『勝手にシンドバッド』の歌詞を覚えて
早口で歌ってみせ、
みんなにすげ〜と言われていたかー君。

彼は私の心の拠り所であり、ヒーローでした。

やがて中学生になり、
私は両親の離婚であの町を離れました。
それからずっと、
かー君のことは忘れていましたが、
自分の子どもたちが小学生になって、
ふと、思い出すようになりました。

元気にしているのかな。
やさしくて幸せなおじさんに なってるといいな。

(ともぞう)

ダメだーー、これは泣いてしまう。
かー君、かっこいいーーー。

なにがかっこいいのかなぁと思ったら、
かー君はまったくもって、
「ええかっこしよう」としてないんですね。
こと男子というのは、
少年時代のみならず、
青年時代、いや、中年時代においてさえ、
「ええかっこしい」のかたまりです。

自分の見え見えな「ええかっこしい」に
後日、頭を抱えて悶絶後悔したりするくせに、
またすぐ新たな「ええかっこしい」をしてしまう。

見栄とか、知ったかぶりとかを
軽々と超越してるところが、
かー君のかっこよさだよなぁ、と思います。

こういう恋歌の在り方もいいですね。
誰よりも先に覚えて早口で歌えた
『勝手にシンドバッド』。
さっきまでおれひとりあんたおもいだしてたとき
しゃいなはーとにるーじゅのいろがただう・か・ぶ!

ちなみにこの曲は先日の「恋歌くちずさみラジオ」でも
ひとあし早く朗読させていただきました。
それではつぎの人にバトンタッチ。

みゅーじっかもんばっくとぅみーや!

かー君! かー君!
きっと、かー君は、天使だよ‥‥。ほんものの。
そんな天使が、1クラスに1人、いてくれたら、
ずいぶんと、いろんなことが、変わったり、
すくわれる子も、いただろうになあと、
とってもとってもうらやましい気持ちで
(ともぞう)さんのメールを読みました。
そうですね、きっといまも、
幸せな、というより、まわりを幸せにする
おじさんになっていると思う。
ぼくも、会いたいな、かー君。

「勝手にシンドバッド」で
サザンオールスターズがデビューし、
TVで演奏したすがたには衝撃を受けました。
1978年は、もうほんとうにすさまじい
ヒット曲がいっぱいでした。
ちょっと挙げるよ? すごいよ?!
「微笑がえし」「宿無し」「プレイバックPart2」
「時間よ止まれ」「ダーリング」
「かもめが翔んだ日」「Mr.サマータイム」
「UFO」「カナダからの手紙」「飛んでイスタンブール」
「時には娼婦のように」「夏のお嬢さん」
「みずいろの雨」「わかれうた」「かもめはかもめ」
「キャンディ」「追いかけてヨコハマ」「東京ララバイ」
「ガンダーラ」「いい日旅立ち」「戦士の休息」
「冬の稲妻」「夢一夜」「青葉城恋唄」‥‥
全部歌える人いるでしょ!
そんななかに、「勝手にシンドバッド」。
強烈で鮮烈でキテレツでかっこよかったんです。
イントロの♪ラーララーラララ ラララー、
からして好き。

武井さん、ぜんぶ歌えるわー。
そっかー、そうやって並べると、すごいですね。
たのしかったよねー。
「こうくるか!」という新曲が次々と提案されてくる。
歌謡曲、ニューミュージック、フォーク、演歌‥‥
様々なジャンルがいっしょくたにまざって
ブラウン管にあらわれていましたっけ。
「夏のお嬢さん」の次が「時には娼婦のように」だったり。
ちなみにぼくがサザンをはじめてみたのは
「8時だョ!全員集合」でした。
コントのあとで舞台がまわって、
タンクトップにジョギングパンツ、
信じられない早口で歌うバンドが登場。
衝撃だったー。完全にコミックバンドだと思った。

おっといけない、(ともぞう)さんの思い出への
コメントがあとまわしになっちゃいました。
かー君、いかしてますよね。
ぼくら委員会、みんながファンになりました。

これは恋の投稿ではないのかな?
と思いかけましたが、いやでも‥‥
こういう「想い方」って、
理想的な恋愛のひとつのかたちではないだろうか、
とそんなことを感じました。
だって、かー君といっしょになれたらしあわせですよー。
でも‥‥と、またここで逆方向のことを思います。
人は「かー君」を恋愛対象にするとは、
限らないんですよねぇ。
そのあたりが色恋のむっずかしさなんだよなー。
映画「男はつらいよ」を思い出します(よく思い出すんです)。
かー君は寅さんにちょっと似ている‥‥切ない‥‥
いやいやいや、ちょっと待って!
最後にもう一度、考えの流れをひるがえします。
で、あるからこそ、なんです。やっぱり。うん。
かー君みたいな人であるからこそ、
幸せなゴールがちゃんと待っているんですよ!
ね!
「かー君はやさしくて幸せなおじさんになっています」
と断言したい気持ちでいっぱいです。
かー君サイコー。

かー君。

そんなふうにたのしそうにしていて、
人を責めたりしなくて、
それどころか、かばってくれたりする。

恥ずかしいことや
戸惑うことでいっぱいの毎日に、
どーんと構えて
「なんてことないさ!」と言ってくれる。

かー君みたいな人が、もしも近くにいたら、
心の拠りどころになるに決まってるよ。
かー君のおかげで、くらい淵から救われた人が
いっぱいいっぱいいっぱい、いるんだろうね。

私も、誰かのそういう存在になれているといいな、
と思うけど、
ついついハッキリ、ものを言っちゃうんだよなぁ。

かー君みたいな人って、たのしくておもしろいから、
そんなことができるんだよね。
ちょっと「気をそらせてくれる」っていうか、ね?

ちなみに、中学のとき、私の隣の席だった男の子も
英語で0点を取っていましたが、
私はその子に恋をしませんでした。
かー君も、もしかして、モテたりはしなかったかも。

最高にかっこいいかー君。
きっといまも、たくさんの人に
囲まれていることでしょう。
これからも、みんなをたすけて。
いろんな人とずっとなかよく、たのしくしててね。

(ともぞう)さん、ありがとうございました。

こちらのコーナーでは、
恋歌の本とCDのセットを特典つきで販売中です。
みなさま、心の中のかー君に、
お礼のお中元、いかがでしょう。

では、来週の水曜日に、また。

 

2013-06-29-SAT

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