『泡沫』
 奥華子

 
2010年(平成22年)
 アルバム『うたかた』に収録

これが恋の話かどうか
わかりません。
 (みな)

愛してくれなければ愛せない
そんな悲しいことを思ってるよ

これが恋の話かどうかわかりません。


奴は私のワンルームマンションに
週四日ほど泊まりにきます。
奴は週三日深夜バイトをいれているので、
バイトの日以外は私の家にいることになります。

同棲というより、居候と家主というか、
下宿人と家主というか、そういう距離感です。

私は奴にお風呂とソファを貸すだけで、
ごはんなどを振舞うことはほとんどありません。
お互い勝手に好きなことをして、
眠くなったら私がベッドで、奴がソファで寝ます。
ときどき私がソファで、奴がベッドで寝ることもあります。
一緒に寝ることはありません。
私と奴の間には所謂恋愛感情はありません。
お互いに、お互いをそういう対象として
見ていないのでしょう。
真っ白な関係です。

奴はあまり他人の領域、
とくに精神的な領域を侵さない部分があります。
奴が家にいてもいなくても、
私の生活はあまり変わらないので、私も容認して居ます。

周囲の友人も、奴が私の家を寝床にするのは
「まあ、お前らだしな」と言う始末。
私は女性的でなく、奴は男性的ではありません。
私と奴は身長がいっしょ、
ただし体重は奴のほうが10kgも軽いです。
友人には「両性類のルームシェア」と
言われることもあります。


これが恋の話かどうかわかりません。


奴は高校からの付き合いの恋人が居ます。
私はその彼女に会ったことがありません。
奴は彼女の愚痴を時折こぼしますが、
彼女のことを確かに好きなんだろうと思います。
こいつも恋するんだなーとしみじみ思います。

私と奴はお互いに恋愛感情を持ってない。
それは周知の事実です。
だから奴が私の家にいても、
浮気だなんだ騒がれたりはしません。

でも、もしかして、もしかしたら。
私は、奴のことを好きにならないように
努力しているのかもしれない。
奴を恋愛の意味で好きになっても
良いことはないだろうから、
自分にセーブをかけているのかもしれない。

奴が居なくちゃいけない、なんてことはない。
むしろ、奴は居てもいなくても変わらないような、
それくらい、自然で居心地の良い、
何処か透明な存在だ。
寝息を聞きながら
もしかしたらこいつが好きなのかもしれない、
と思うけど、
その感情は私にとってマイナスでしかない。


これが恋の話かどうかわかりません。


絶対好きになってもらえないだろう人間に
恋をする勇気はないです。

初恋もまだの私には、そんな勇気はない。

(みな)

「ガロ」な作風で、マンガで読んでみたい。
無言劇のショート・フィルムにしても
いいのかもしれないなあ。

泡沫、うたかた。
その言葉に、ボリス・ヴィアン
(『日々の泡』あるいは、『うたかたの日々』)
を思い出すのは古すぎるかな。

奥華子さんを知らなかったのですが、
(♪お部屋探しマスト、の人ですよね)
「泡沫」、思っていたより
ストレートで激しい愛の歌でした。
(みな)さんのこの話に、
よく合っているように感じました。

フシギな関係だなぁ、でもいいなぁ、と
のんきに思ってしまいました。
一線を超えないでいられるならそれがいちばんいい、
なんて思っています。

でも、この歌のように「本当の私」がいるということに
どちらかが気づいてしまったら。
それで悲しくなってしまったら。
もしかしたらお互いが
そう思っているのかもしれません。

「どうしたらいいんだろう」と思ってつい現状維持。
それがいいともいえるし、
その場所から動けないのが実情なら
そうするしかないともいえる。

関係が進展するには、
立ち止まって「はて?」なんて考える隙は
ないのかもしれないですね。

ふしぎな関係。
武井さんの言うように、
小説やショートフィルムの世界のよう。
でも当然ですが、実話なんですよね。

ぼくは‥‥
失礼があったらごめんなさい、正直な感想を書きます。
ぼくは、平静を保とうとする
(みな)さんの心情を感じました。
さざなみさえも立ててはいけない、という
(みな)さんの防衛本能を感じました。
そしてさらに、さしでがましいことですが、
彼も罪だな、とも思います。
「恋人がいるのにそんなことしたらだめだよ」
そんな正論が喉から出かけます。

ああ‥‥ぼくのコメントはどうにも
親戚のおじさんっぽくていけないですね。
「これが恋の話かどうかわかりません。」
という実情がきっとすべてなのに。

(みな)さんのもとに、
スカッとわかりやすいスマッシュヒットな初恋が
いつか訪れますように。
勝手にそれを祈らせていただきます。

その気になれば、
この投稿を真ん中に置いて
何時間でも話せそうですね。
読む人の数だけ、感じることが違いそう。
あ、だから「物語みたい」なんですね。

もしも物語だとしたら、
ぼくは「奴」がつき合っているという
「彼女」を主人公にして語りたいなぁ。
登場人物はみんなどこかしらの
「特別さ」を持ってますが、
「奴の彼女」がもっとも特別かも?
いや、そういう「物語」として
読みたいだけかもしれませんね。

そして、これはこれで、
れっきとした「初恋」であるとぼくは思いました。
かなうにせよ、かなわないにせよ。
もっといえば、
たとえはじまらないにしても。

恋歌くちずさみ委員会、
明日も更新があります。

 

2013-05-30-THU

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