『ピエロ』
 岡村孝子

 
1985年(昭和60年)
 アルバム『夢の樹』収録曲

目の前が
真っ暗になりながら
先輩の望みをかなえました。
 (ひとり上手)

優しそうな女ならば 私のこと愛せますか
わかりきった答えだから
聞けはしない 私ピエロ

四国の片田舎から大学入学の為上京してきた私は、
分かりやすくサークルの先輩に恋をしました。

おそらく彼の思わせぶりで強引な態度と、
初めて聞く標準語の優しい響き(〜なの? とか)に
やられたのだと今は思います。

でもその時はただただ先輩が眩しくて、
「おまえ」呼ばわりされるのも嬉しくて、
恋心を抑えつつ妹のように接していたのです。

そして何も伝えられないまま一年が過ぎて、
新たな後輩がサークルに入ってきた時、先輩はあっさり
その新しい後輩の1人と恋に落ちました。

それまで着実に「妹」の位置を積み上げていた私は
先輩にある意味信頼されていて、
彼女との恋の進み具合を
そりゃあ詳細に報告されました。

付き合って初めての彼女の誕生日、先輩に
「プレゼント何がいいと思う?」
と聞かれた私は、よせばいいのに
「19歳で銀、20歳で金の指輪貰うと
 幸せになれるらしいっすよ」
という言い伝えを教えました。
先輩は大喜びでそれを採用し、
信じられない事を私に頼みました。
「じゃあ今度新宿に買いに行くから、
 おまえフィッティングモデルになってくれ」
と‥‥。

私は目の前が真っ暗になるのを感じながら
その頼みを受けました。

新宿のデパートを梯子して、
彼女にあげる指輪を探す先輩の為、
私はいちいち指輪を付けてはポーズを取りました。
結局先輩は私のアドバイス通り
銀のドルフィンリングを購入。

その時私の頭の中で流れ続けていたのが
岡村孝子さんの「ピエロ」。

シチュエーションは違うかもしれないけど、
背伸びして大人っぽい格好をしたり、
ちょっと不機嫌に装ってみたり、
ジタバタしていた私にとっては
自分の事のようで心にズシンときました。

その後、先輩が買った指輪が彼女には小さくて入らず
お直しする事になったと聞いて、
少しだけ嬉しかったのを憶えています。
指の細さだけ彼女に勝った気がして‥‥。
意味無いけど!

多分、先輩は私の気持ちに気づいていました。

でもそんな残酷な事をされても
先輩を嫌いにはなれなくて、
それ以降もいろいろ話を聞き続け、
挙句に彼女も私に先輩の事を相談するようになって、
頼りがいのある後輩・先輩としての演技を
先輩の卒業まで続ける事となりました。

結局思いは伝えられなかったけど、
私にとって先輩は今も青春の大切な思い出です。

先輩と彼女はその後別れ、
彼女は違う人と結婚し子供も産まれ、
先輩は結婚・離婚を繰り返し
今は再婚した奥さんと猫と一緒に暮らしています。

私は、先輩の彼女の事を好きだった一つ後輩の彼と
縁あって結婚し、今とても幸せです。

終わり良ければ全て良し! です。

(ひとり上手)

こら〜〜!!
先輩〜〜!!
(襟首をつかむ)
こら〜〜!!
彼女〜〜!
(相談するな〜〜!!)

そんで、いまの旦那さんも
すくなからずその縁もあり‥‥しかし。
幸せならよし!
幸せになろう!

お、落ち着け!
なんぼなんでも、
読者の襟首つかんだらあかん。

いや、あなた、すいませんね。
うちのスガノがちょっと興奮したみたいで。
びっくりしました?
いやぁ、すいません、すいません。
気を悪くしないでくださいね。

いやー、しかし、先輩さん、
あなたもよくないよ。
彼女の気持ちに気づいていながら
指輪のフィッティングモデルを!
ていうか、女の人になにかを贈るときに
べつの女の人とそれを選んじゃよくないでしょう?
いや、よくないっていうか、
その、倫理的っていうよりも、その、
なんとなく、ほら、わかるでしょ?

え? べつにいいんじゃないかって?
あくまでも友だちだからかまわない?
な、なにを言うてるんですか、
まったく反省の色がないって、
こ、こらーーー、先輩ーーー!
(胸ぐらをつかむ)

ま、しかし、当の彼女が
いま幸せというなら、それでいいか!
終わりよければ、ま、いいか!

(ひとり上手)さん。
ぼくもね、そういう立場になりやすい人生でした。
いわゆる「ピエロ体質」でしたので、
いただいた投稿、たいへん強く共感できます。

でも、
「指の細さだけ彼女に勝った」エピソード、
これサイコーです! 痛快です!
ピエロ界においては、
そんな出来事はまずないですから。
基本、顔で笑って心で泣く、のみですから。
一矢報いましたよねー!

「ピエロ」という曲名でいうとぼくは、
松山千春さんの同名のナンバーを思い出します。
ちなみにぼくとスガノさんは、
ちーさまのコンサートにもう3回行きました。
というわけで、
「ピエロ」つながりという
どさくさにまぎれてこれを載せます。

ちーさまを観られるよろこびで
オーバーオールのボタンがはずれたことに気づかず、
前のところがぺろーんとなったまま笑顔のスガノさん。
こんなに笑顔の彼女ですが、
誰かの襟首をつかむようなときには目が三角になります。

この恋模様は10代おわりから20代はじめの、
東京の大学生の話だよねえ。
青春といえば青春だけど、
幼いといえば幼いわけで、
たぶん、景気がそれなりによかった時代のこと。
調子に乗っちゃったんでしょう、先輩とやら。
恋ってふしぎだよなあと思うのは
こんな目にあってもなお
(ひとり上手)さんは
「私にとって先輩は
 今も青春の大切な思い出」なんですね。
傷も含めて、だと思うんだけれど。

ともあれ、(ひとり上手)さんが言うように
終わり良ければ全て良し!
(ひとり上手)さんは、みんなと
袂を分かつことなく、その後のみんなの人生を
けっこう冷静に見てきてるわけで、
そのなかで
「先輩は結婚・離婚を繰り返し」てきたわけでさ、
それなりのツケを払ってきたのかもよ。
(まさかこの先もずっと変わらなかったりして‥‥。)
そして「結婚し、今とても幸せ」な
(ひとり上手)さん、
ほんとうによかったですねー!
それこそが最高のリベンジだと思いました。

ではまた来週お目にかかりましょー!

2013-01-12-SAT

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