『風立ちぬ』
 松田聖子

 
1981年(昭和56年)

 スポーツ刈り、
 ニキビ面でメガネの
 冴えない自分を棚に上げて
 初めて恋をした。
  (旅立てジャック)
風立ちぬ 今は秋

中学生の頃。
私が好きだったのは松田聖子というよりも中森明菜。
もっと言うと河合奈保子のほうが好きだったのだが、
聖子ちゃんのこの曲を聴くと今でも胸がキュッとなって、
思わずその頃の自分が気恥ずかしくてたまらなくなる。

そんな中学に上がったばかりの春。
スポーツ刈り、ニキビ面でメガネの
冴えない自分を棚に上げて初めて恋をした。
同じクラスのショートカットの女の子だ。
好きになるとこの気持は抑えることが出来ずに
毎日が猛烈に狂おしいものになった。
まず、学校に行くのが楽しい。
そして、クラスに入るとまず彼女を探す。
そして、ほんの少し彼女を視界に入れて、
ちゃんと見る準備をして、彼女を見る。
移動教室があると、
母親が間違えたふりをして彼女の写っている写真を買い。
クラスの集合写真を彼女の顔だけを出して
自分の机のゴムシートの下に入れて
ドキドキしながら毎日眺めた。
今思うとまさに青春(笑)。

そんなある日、クラスの座席替えがあった。
その時に先生がとった方法は
隣になりたい子の名前を書いて提出し、
二人が合うまでやるというもの。
(今では信じられない)
彼女の隣になりたい私は最後の最後まで
彼女の名前を書き続けるのだが、
結局、その途中で彼女は別の人の隣へ。
そうとう悔しがる私を見て、
先生は「本当に好きなんだなぁ」と云ったの覚えている。

そして暫くして私と彼女は文通をするようになる。
(何故かその経緯は全く覚えてない)
彼女からの手紙はいつも違う便箋に
違う形に小さく織られていて、
毎朝交互に手紙を交換するのが本当に嬉しかった。
そんな手紙が一つ一つ増える中、
私は相変わらず気持ちを上手に伝えられないでいた。
秋になり、バレーボール部に所属していた私は
校庭のコート横の花壇に一杯になったコスモスを一輪とり、
彼女の下駄箱に入れた。
文通をしているのだから、直接渡せば良いのに
下駄箱を見て首をかしげる彼女を見ても、
まだ自分からだとは云えなかった。

その頃、巷では聖子ちゃんの「風立ちぬ」が流れていた。
私が今でも心に響いてしまうフレーズは冒頭の
「風立ちぬ 今は秋」。
特に「秋」の部分。

その頃、私の好きだった子の名前は「○○○○ アキ」さん。

そう、この「秋」というフレーズに当時の私は、
彼女の名前「アキ」を重ねあわせて聴いていたのだ。
今もこの曲を聴くと1981年中学1年生の自分と初恋を
思い出してしまうのだ。

そして、この初恋の後日談。
クリスマスが近づき、
隣の駅に大きなダイエーが出来たので
彼女のためのクリスマスプレゼントを買いに出かけ、
閉店間際まで悩んで買った毛糸の手袋。
この手袋を渡すために、
思い切って初デートをクリスマスにと申し込むと、
彼女の返事は
「ツイストのラスト・ライブに行くから、行けない」。
ガーンと確実に音がなりました。
毛糸の手袋を渡すこともなく、
私の甘酸っぱい初恋は終り、
歌のとおり私は心の旅人になりました(笑)。
でも今聴いても、ほんとに良い歌です。

P.S
この投稿を書くにあたって、
ツイストのラストLIVEの日付を調べたら
まぎれもなく1981年の12月25日。
嘘じゃなかったんだー。

(旅立てジャック)

待ってました! という感じの投稿です。
王道。すばらしい!
これだけ甘ずっぱいお話は、
ひさしぶりではないでしょうか。
まさに、「恋歌くちずさみ委員会」の真骨頂。
胸がキュンキュンする思い出をありがとうございます!
男性から、というのもいいなぁ。

ショートカットの女の子、席替え、文通、下駄箱‥‥
すてきなキーワードがたくさん並んでいます。
それらを目にするだけで、もう、
脳内になんだか甘酸っぱいものがにじんできます。

コスモスを一輪‥‥のくだりも、すばらしい。
そのころの「精一杯の表現」が、
いじらしくてせつなくて。
中学生ですから‥‥。
ほんとに一所懸命ですよ。
たまたまデートを断られたくらいで、
「ガーン、終わりだーー」
と思い込んでしまうことも、よく理解できます。
中学生ですから‥‥。

 毎日が猛烈に狂おしいものになった。
 まず、学校に行くのが楽しい。

この二行の展開が大好きです。
矛盾に見えて、矛盾じゃない。
狂おしいから、すごく楽しい。
ああ‥‥恋愛って!

わー、ひさびさの男子もの!
(旅立てジャック)さん、
投稿ありがとうございます。
もうほんとにドキドキドキドキしてたまらない
あの頃特有の恋の感じ、
思い出しつつ読みました。
ほんとにディテールがいい!
「ショートカットの女の子」
「ほんの少し彼女を視界に入れ」
「彼女の写っている写真を買い」
「自分の机のゴムシートの下に」
‥‥いいなあ、いいなあ。
さだまさしさんの「木根川橋」にも
「あの娘の名前に自分の名字を
 かぶせて書いてはあわててぬりつぶし」
っていうくだりがあるけど、
ほんと、中学男子ってこうだ。

そして、名前でキュン、のくだり、
ほんとはその人が好き、なはずなんだけど、
片恋がこじれてくると
やけに名前に象徴させちゃうというか、
もう名前を思うだけで幸せになっちゃうというか、
ファーストネームなんて考えただけで
照れてくねくねしちゃうというか。
ああ、そんな日はずっとむかしになっちゃったなあ。

ところで初デート申し込みの返事が
ツイストのライブに行くから、
というものだったわけだけど、
それってもしかしたら
別に、告白へのお断りの返事ってほどじゃ、
なかったんじゃ‥‥?
なにしろツイストの解散コンサート。
ファンにはとっても大事なイベントです。
あ、‥‥てことは、たぶん、
世良公則さんのファンですよね、彼女。
(ふとがね金太ではないと思う。)
ということは、なんだ、
けっこう硬派で無頼な
(そして色気のある大人の)男が好きだったとすると、
ただでさえ女子からは同級生男子が幼く見える頃、
「スポーツ刈り、ニキビ面でメガネ」は、
‥‥むりだったかもしんないですね。

ほんとは、RCもしくはレイ・チャールズが
お好きなんですね、(旅立てジャック)さん。
だけど恋歌になってしまったのは聖子ちゃん。
アキさん、いいお名前です。

じつはわたくし、先日仕事で名刺交換した人が
初恋の男性(ひと)と同じ名前だったんですよ。
すこし変わった漢字なので、
名刺の字面を見た瞬間、中学時代の
甘ずっぱい風景および恥ずかしい行動が
一気によみがえり、
顔がカァーッと赤くなってしまいました。
不信に思われたので、
いやぁ、初恋の人と同じ名前なんで驚きました、
と、かる〜く告げたら、
「しーん」とどん引かれてしまいました。とほほ。
そういうパブロフの犬的ポイント、ありますよね。

わたくしも、中学の初恋はあっけなく終わり、
その後心の旅人になりました(笑)。

けなげに、そして暴走ぎみに
想いを募らせた彼に対して、彼女の
「ツイストのラスト・ライブに行くから、行けない」
という返事の、夢と現実の格差が
たまらなく、よかったです。
さっぱりしたセリフから、彼女の魅力もわかりますし、
そのときのショックの受け方、ならびに
いまも色あせずに覚えていらっしゃることが
なによりすばらしいと思いました。
ありがとうございました。

たまらないですね、これは。
なんだか、こっちまで
狂おしく、恥ずかしくなってきました。
つまり、自分のなかに「その成分」が
はっきりと残っているからこそ。

ほかの人たちが書いてないディテールでいうと、
文通に至る経緯を憶えてないというのがいいなあ。

だって、見るだけでもうれしい彼女と
手紙を毎朝交換するなんて大事件ですからね。
ある意味、ゴールといってもいい。
そんな幸せな状況に、どうやってなったのか、
憶えてないっていうのがいいなあ。

そして、この投稿を書くことがきっかけで判明した
30年前の彼女のことばの真実。
毛糸の手袋、渡せばよかったのかもね。

こういうたまらないメール、
どんどんください。
逆にいうと、あのころのたまらない気持ちを
表現できる場って、ここしかないかもよ?

次回は水曜日の更新です。
それでは。

 

2012-09-15-SAT

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