『恋とマシンガン』
 フリッパーズ・ギター

 
1990年(平成2年)

知らなかったのは
あたしだけだったんだ!
(投稿者・あそのこ)

ドアの向こう 気づかないで
恋をしてた 夢ばかり見てた
そして僕は喋りすぎた

好きな人ができると、
体中から「スキスキオーラ」を撒き散らしていた高校生の私。
同じ吹奏楽部のJ君は、顔も佇まいもドンピシャにタイプで、
私が聴いたことのない「渋谷系」というような音楽にも詳しくて、
全然かっこつけてなくて、
その力のぬけ具合から何からステキな男の子でした。

もうすっごい好きで、
ちょっと脈アリそうなことがあれば逐一友達に話して聞かせ、
時々彼のオススメのCDを借りては
趣味を共有できた気分で嬉しくて、
そう遠くない頃合いで、いい具合になれたらいいなぁと
すっかり夢見心地な気分になっていました。

その日は土曜日で放課後の部活も早々に終わり、
私は中学の友人とショッピングに行くことに。
駅までの道のり、同じパート仲間のHちゃんに
「Hは今日は何か予定あるの~?」と聞き、
「うーん、友達と会う」なんて答えをサラッと聞いて別れました。

その後、駅前のデパートで友達とお喋りしつつ
上階から順繰りにエスカレーターを降りてくる途中。
こちらに背中を向けて現れたのは私服に着替えたHちゃん。
エスカレーターの中ほどから声をかけようとした、
まさにその瞬間。
続けて現れたのは、いつものバッグを背負ったJ君でした。

茫然としたままエスカレーターは下へ。
さらに下へ降りるためターンする間際、
私は「H!」と呼びかけ、彼女のビックリした顔を
横目に一瞬捉えてそのまま下に向かいました。
黙って、見なかったふりをして
通り過ぎる事ができませんでした。

エスカレーターを降りながら、
色々なことが頭の中を駆け巡りました。
J君とのエピソードを嬉々として語る私を
少し困ったような顔で聞いていた部活仲間。
帰り際、「友達と会う」と
ちょっぴり困ったように答えていたHちゃん。

そーーーかーーーー知らなかったのはあたしだけだったんだ!!!

猛烈な恥ずかしさと惨めさに耐えられず、
そのまま帰る事にしました。
目の前はグルグル、心臓はバクバク。
本当に動揺してたんですね、
テレカを定期券と間違えて自動改札機に差し込み「ピーコーン」。

そのJ君が、「割と音楽の趣味が合うかなと思って」と
翌年の誕生日プレゼントにくれた
フリッパーズ・ギターのアルバム「Singles」。
一緒にもらった手紙も歌詞カードに挟んで大事にとってあります。

私の、「青春て恥ずかしい」最大のエピソードです。

(あそのこ)

十代の恋愛において「ふられる」というのは、
面と向かって、「ごめんなさい」と
告げられることよりも、
決定的な場面をまったく予期せず目撃して
「そうだったんだ!」と
思い知らされることが
ほとんどなのではないでしょうか。

その意味で、このエスカレーターの描写は、
誰のこころにも響くような気がします。
あるでしょ、きっと、思い出の隅っこのところに
このエスカレーターみたいな場面が。

ぼくはこの投稿の、
「H!」と呼びかける場面が
とっても切なくて好きです。
呼んでどうなるものでもないのに。
いえ、呼ばないほうがむしろいいのに。
でも、呼ばずにいられないんですよね。
すりむいた傷口を確かめるみたいに。

あたまのなかで「ガーン」っていう音が
物理的にするような気がして、
さかのぼればさかのぼるほど、
「そういうことか」って腑に落ちたりして。

そういうのって、もう、
100年前も100年後も
変わらないんじゃないのかな。

あるよ、あるある、
決定的な場面を見ちゃうこと。
修学旅行で、好きな人が、
別のクラスの女生徒と
とつぜんカップル然として
ふたりで小径を歩いていたり。
こっちは笑顔で、友達といっしょに
はしゃいでるんですけど、
内心「ガーン」となってる。
まんがみたいに、顔に線が入ります。

なんだか不思議と、悲しくもなかったな。
わー、そうだったの!
知らなかった知らなかった!
はずかしい。
それで景色がぐるんと一回転して、
おしまいでした。

そう、悲しさよりも
はずかしさが
大波のようにやってくるんです。
それが若さだったのかなぁ。

ドンピシャにタイプだったんですか、そうですか。
おしいなぁ、そんな人なかなかいないから。
翌年に、誕生日のプレゼントがもらえて
ほんとうによかったですね!

やー、読んでて、
思い当たること多すぎて赤面です。
スキスキオーラ!
ぼくもよく「わかりやすい」と言われるクチで
たぶん、それ、駄々漏れだったんだろうなあ。
そして、(あそのこ)さんと同じように
妄想しては夢見てました。
そして玉砕するのも、そうとう勝手に。
まるでひとり芝居のような青春。
ああ、はずかしい。
と同時に、なつかしい。
でもはずかしい。
わーっと叫んで枕に顔をうずめたい。
いまだに人の恋路に疎いというか、
「知らなかった!」ということが
あるっちゃ、あるんだけど、
あのころほどじゃないのがさびしい気もするなー。

右に同じです。
決定的な瞬間を目撃して、ガーーーーン。
まぁ、ぼくの場合は、ガーーーンというか、
「あ、また例のやつか」
くらいにたびたびあることでした。
(とはいえ毎回つらいんですよ?)

エスカレーターのくだりは
もちろんスペクタクルでしたが、
最後のワンブロックでも、
おおー! と思いました。

決定的な目撃事件の翌年に、
手紙つきの誕生日プレゼントをもらっている。
「手紙つき」、ですよ?!
そのことがさらっと書いてありますが、
もしかしたらそのプレゼントは、
つらいものだったかもしれないわけで。
彼とは友だちの関係になっているにしても‥‥。
(あそのこ)さんは、
それについて多くを語らず投稿を終わらせています。

うーーーん‥‥興味深い!
これがリアルというものですねぇ。

「恋歌くちずさみ委員会」は、
ゴールデンウィークのあいだ毎日更新。
あしたもほんと、すばらしいです。
乞うご期待!

 

2012-04-29-SUN

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