いつもくちびるに、季節の風とラブソングを。
こんにちは、恋歌くちずさみ委員会です。

あまずっぱい企画は、とっても好評!
たーくさんの、おたよりがとどいています。
みなさんの、
たいせつなたいせつな思い出の「恋歌」、
どんどん紹介していきますね。
なのでどしどし、おたより(メール)くださーい!

「そういう設定だからね」
彼が笑う。私も頭を彼にあずける。
(投稿者・口ずさみ世代に憧れる30代)
『大きな玉ねぎの下で
 〜はるかなる想い』
 爆風スランプ

 1989年(平成元年)
 
My恋歌ポイント

 千鳥ヶ淵 月の水面 振り向けば
 澄んだ空に光る玉ねぎ
大学を卒業したての頃。
彼氏がいなかったわたしは
誰と遊んでもいい自由を謳歌し
たくさんの男友達と
まるで女友達と遊ぶように遊んでいた。

ある夏の日、そんな男友達の一人から
「長らく彼女もいないし、好きなコもいないから
 デートというものをしていない。
 このままではデートの仕方を忘れてしまう。
 お台場に行こう。」と言われた。
これは、おもしろい。
「じゃあさ、
 本気のデートの設定で出かけよう」と提案。
早速、男友達と
「好きな人とデートしている設定」
でお台場へドライブ。
「夏を感じるBGM用意して」
とのわたしのリクエストに彼はMDを編集。
(すいません、世代的にMDです‥‥)
キラッキラの夏の歌が続く中、
ふいに流れたさみしげなイントロ。
「『大きな玉ねぎ』入れたの?!
 わたし大好きだよ、この曲」
「まじで!? 俺この曲大好きで、
 夏じゃないけどどうしても入れたくて。
 賭けだったんだよー。よかったー」と喜ぶ彼。
なんだかほんとのデートみたい。
それから、お台場でお買い物、
ディナーという王道コース。
観覧車に乗ろうとした時、彼が
「もっといいところがある」
と観覧車が見える夜景の穴場スポットへ。
夜景がきれいで、人気もなくって。
やがて私の肩に手が回ってきた。
「そういう設定だからね」彼が笑う。
私も頭を彼にあずける。
「そういう設定だからね」私も笑う。
そんな風にして時間は過ぎ
「帰ろうか」ってなったとき彼がくれたキス。
口じゃなくって、ほっぺただったけど。
「そういう設定だからね」って笑う彼。

帰り道、予想外のキスが予想以上にうれしくて
はずかしくて助手席から外ばかり眺めていた。
ずっとついてきた三日月。

それから、日常に戻り。
もしかして、わたしは彼のこと好きなのかなー?
もしかして向こうも‥‥?
なんて思いも、ちょっとだけあったけれど。
男友達と「本気のデートの設定」でデートしたら
落ちちゃったなんて格好わるいこと
自覚したくなくていつもどおりに接する私。
彼もいつもどおり。

そして月日はそのまま過ぎて。
彼の中ではあの日は何もなかったように
ただ友達と一日遊んだだけのように見えた。
私もそれに不満はなかった。
そして、彼とは今でも友達。
彼は結婚して、子供にも恵まれた。
わたしも、この人がいなくなったら
私は存在するのか?! と思える人と一緒にいる。

二年ほど前、山崎まさよしが
『大きな玉ねぎ』の下でをカバーしているのを聞いた。
すごく素敵で、彼にメールした。
「『大きな玉ねぎ』を
 まさよしがカバーしてるのちょーいいよ!」
そして、彼からの返信は
「俺たちの曲だな」
もしかして、彼の気持ちも一緒だったのかな?

千鳥ヶ淵じゃなくて、湾岸エリアだけど。
光る玉ねぎじゃなくて、フジテレビの球体だったけど。

この歌を聞くとあの日の三日月を思い出します。

おお、まるでドラマだ。
と思いながら読み進め、
最後に、微妙な距離感で
結ばれることも、離れることもなく
終わったところを読んで、
ああ、たしかにこれは現実だと
しみじみしました。

友だちの曲線が恋人の曲線に、
限りなく接近した夜だったのですね。
キスが頬っていうのが最高の演出です。

正直、きれいに整えられているタイプの
文ではないと思うのですが、
情景がすいすい浮かんでくるのが
すばらしいなあと思いました。
なんというか、
その思い出の強さ、というか。

「俺たちの曲だな」‥‥!
いいな、いいな。
「いま」と「思い出」が等価値というか、
どっちも大事っていう感じがすてきですねー。
そうありたい。
ユーミンだったら過去の思い出は捨てたり
あるいはあっさりと「たいせつなレッスン」と
ひとことで片づけちゃうような意地があるけど、
そうですよね、そんなふうに無理することもないや。

「このままではデートの仕方を忘れてしまう」
「賭けだったんだよー」

このあたりの男の子の言葉は
不器用な本気ともとれるし
ほんとにただそう思っていたという
素直な気持ちともとれるなあ。
ふたりとも「わからない」
状態だったのかもしれないし。

永田さんの言うように
「予想外のキス」が
ほっぺただったのも、いい!
なかなかそこで思いとどまれないものだ。
くちびるだと意味が出過ぎるし
髪だとなんだかわかんないし
手じゃ気取りすぎてるし
うなじだとセクシーすぎる。
友情(含む愛情)のキスは頬に。

とはいえ、友だちの女の子のほっぺに
いきなりチューしてはいけません男子諸君。
‥‥しないか。
(口ずさみ世代に憧れる30代)さんは、
この「設定」を経て、
ごく自然に、ほっぺに、ですものね。

ちょっとコミカルで、でもどこか本気で、
どうにもこうにもあまずっぱい。
うらやましい思い出です。

「ずっとついてきた三日月。」
この1行で、ギュイーーンと
その情景の中につれていかれました。
景色、匂い、そして歌。
恋の記憶とセットになりますよね。

きっとこういうことなんだよな、
と、わかりながら
そのときをすごして、
どこまでの行動が「あり」なのか
たのしく計りつつ、別れる。
おふたりとも
同じ気持ちだったと私は思います。
ほっぺたにキスはちょっと
そりゃあ、ぎりぎりですよ。

「そして、彼とは今でも友達」
この一行ににんまりしました。
いいなぁ、そういう友達。
永遠の友達ですね。

にこにこしながら、また、土曜に!

2012-03-07-SAT

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