前川清の歌を聴きたい。~4人が集まる、九州鉄道の旅~ 前川清・髙田明・唐池恒二・糸井重里

歌手の前川清さんがデビュー50周年となるこの年、
ほぼ日刊イトイ新聞は創刊20周年を迎えます。
お互いの「50」と「20」を祝い、
6月10日に記念コンサートを開くことにしました。
前川清さんは、ステージでまっすぐ立ち、
卓越した表現力で歌唱する方です。
ご本人は「歌は好きではない、うまくない」と
おっしゃるのですが、
50年間ずっと歌の世界を走ってこられたこと、
また、前川さんを尊敬する音楽家が多いことには
理由があると思います。
前川さんの地元である九州を列車で旅しながら、
糸井重里と、髙田明さん、唐池恒二さんが話します。
この連載を読んで前川さんの歌を生で聴いてみたくなったら、
ぜひ6月のコンサートにお越しください

この旅のルートを組んでくださったのは、
九州旅客鉄道株式会社(JR九州)さんです。

第1回 「さくら」に乗って。

福岡県、JR博多駅。
ここから新幹線「さくら」に乗って
前川清さんとの旅はスタートします。

じつは「さくら」は、
50年前に「内山田洋とクール・ファイブ」が
デビュー曲を録音するために乗った
夜行の寝台特急と名前が同じです。
メンバーのなかでいちばん若かった前川さんは
揺れの大きい寝台車の上段で
一睡もせずにレコーディングに臨んだそうです。
そのとき録音されたのは、あの名曲
「長崎は今日も雨だった」でした。
長崎-東京間をつないだ寝台特急は、
いまはもう走っていません。
50年後の今回は、
新幹線のほうの「さくら」に、
前川清さんと糸井重里が乗車します。
次に停車する新鳥栖駅で、長崎からやってきた
髙田明さんが乗り込んできました。
さすが新幹線は博多から40分足らずで
熊本まで3人を運びました。

もうすぐセブンティーの同い年3人は、
熊本駅から熊本城に向かいました。

熊本城は、2016年4月に起きた地震で、
天守閣をはじめ、
多くの石垣や櫓が崩落してしまいました。
入場ゲートだった場所のあたりは、
まだ「石ころひとつ」動かしていない状態だそうです。
かつて観光のお客さんたちが大勢歩いたこの道は、
崩れた櫓や石垣でふさがれてしまいました。
しかし、本震は夜中の1時だったので、
当時ここには誰ひとりいなかったそうです。

熊本城を案内してくださった
くまもとよかとこ案内人の会の多堀さんは
「あのときはみんなで胸をなでおろしました」
とおっしゃっていました。

いま、熊本城は着々と修復が進められています。
熊本城全体の復旧には、
あと18年の歳月がかかると言われています。
なかでも最も修復が進んでいるのは、
お城の天守閣です。
熊本城の天守閣は火災に遭っていて、
いまの建物は1960年に鉄筋鉄骨コンクリートで
外観復元されたものです。
ですから、文化財ではありません。
しかし、城内にはほかに
重要文化財の櫓や門がいくつかあります。

本来なら重要文化財を優先するのが
修復の順序として正しいのかもしれませんが、
熊本城については、天守閣の修復を
最も急ぐ計画が立てられました。
3年後の2021年には
観光客が天守閣に入れるようになるのだそうです。

なぜ天守閣の計画を急ぐのかと言えば、
寄付をしてくれた人、
熊本をふるさとに思っている人、
観光で見に来た人が、
「熊本城はちゃんと復興をかなえつつあるんだ」と
いちばん実感できるのは天守閣だから。
そのように、ガイドの多堀さんは話してくださいました。

天守閣ができたあとはなお、
「復旧のようすを見ながら観光できるお城」として
熊本城はその存在を輝かせることになりそうです。

熊本城をあとにして、3人はおいしい洋食屋さん
「洋食の店 橋本」へお昼ごはんに向かいます。
そこでJR九州会長の唐池恒二さんと
待ち合わせをしているのです。

前川
熊本城は加藤清正が7年で作ったらしいけど、
修復は元通りにすることが大切だから、
20年かかるのかぁ。
あと18年‥‥こっちも元気でいられるかな。
糸井
元気でいないといけませんね。
髙田
熊本城もがんばっとるけん、
こっちもがんばろうって思いますね。
糸井
おお、これは、
カラオケ‥‥いや、唐池さん。
唐池
いやぁ、イマイ‥‥いや糸井さん、
こんなとこで、何してるんですか。
糸井
カレーがおいしい洋食のお店と聞いて、
やってきたんですよ。
唐池
前川さん、髙田さん、ごぶさたしています。
前川
今日は九州を列車で巡る一日、
旅程を組んでいただきありがとうございます。
髙田
こちらも、唐池さんおすすめのお店なんですね。
唐池
はい、ここのカレーを食べたくて、
博多から新幹線に乗ってくることもあるほどです。
今日はビーフカツカレーを出していただくので、
たのしみにしていてください。
カレー以外のお料理もおいしいんですよ。
前川
ぼくの50周年ということで、
お忙しいみなさんに、去年から
何回も集まっていただいて、恐縮です。
唐池
いやぁ、それを口実に会っているということですね。
糸井
ほんとうに、昨年はじめて
出会った人ばかりとは思えないです(笑)。
髙田
ほんとですよねぇ。
前川
同い年で、
しかも髙田さんとは同郷で。
糸井
唐池さんはいちばん偉いけど、
みなさんよりちょっと年下なんですよ。
唐池
年上に見えますけど、若造ですよ。
そういえば昨日、
またちょっと歌ってしまいましてね。
前川
何をですか。
唐池
某所で「北ホテル」を歌いました。
前川
「北ホテル」をなんで知ってるんですか。
糸井
みんな知ってますよ。
唐池
ぼくは前川さんの歌を
おそらく8割以上、歌えます。
前川
いやぁ、「北ホテル」ですか‥‥。
糸井
いい意味で、最もいやらしい歌ですね。
唐池
日本歌謡史上もっともいやらしい歌です。
高校時代にはよく「恋唄」を歌っていました。
前川
高校生が「恋唄」ですか。
唐池
「逢わずに愛して」も。
いまはやっぱりなんだか
「そして、神戸」に戻っています。
前川
ぼくも、いままでたくさん歌ってきましたけれども、
「さぁ、最後に何を歌いましょうか」
という話になったときには、
やっぱり「そして、神戸」です。
糸井
「そして、神戸」は、いい歌ですね。
唐池
ちょっとカッコつけたいときは
「雪列車」を歌います。
私はなにもいま、
目の前に前川さんがいらっしゃるから
いかにもファンのように
取り繕ってるわけではありませんよ。
昔から熱狂的なファンなんです。

歌手のみなさんは、
時代の変化やご自身の成長とともに
歌唱法が変わっていくので、
そのたびにぼくの好きな人は変わってきています。
しかし、前川さんの歌だけは、
一貫してずっと好きです。
糸井
高校生から。
唐池
ええ、もうずっと。
前川さんの歌というのはね、
こころを揺さぶるんですよ。
だから、前川さんの歌はね、
CDで連続して聴いちゃいけないんです。
髙田
なぜですか?
唐池
疲れるから。
1曲聴くぶんには最高ですよ。
こころ揺さぶられます。
ところが、アルバムで聴いたらもう、
こころ揺さぶられっぱなし。
一同
(笑)
(明日につづきます)
2018-04-14-SAT