不正解、食べられません!
エゾサルノコシカケ食不適

You cannot see the wood for the trees.
という英語のことわざがあります。
日本語に訳すと、木を見て森を見ず。
細部にとらわれていると、
物事の本質や全体を捉えることができない、
ということのたとえですね。

阿寒の森に通い始めた頃のぼくがまさにそう。
きのこや粘菌など基本的には数cmくらいの大きさの、
いわゆる隠花植物を常に探すともなく探していて、
森全体に目を配る余裕はとうていありませんでした。

きのこを見て森を見ず。

森の奥へ奥へと進めば、当然、迷います。
助けを求めるべく声の限りに叫んでも、
周囲1km以内に人がいる可能性はほとんど無く、
おまけに携帯電話の電波も圏外。
心臓、ばくばくです。

そのときはたまたま、でたらめに歩いたら、
阿寒湖へ通じる林道に出たから良かったものの、
森の奥で迷子になろうものなら、
ヒグマの餌になる可能性だってあるわけで、
「きのこ写真家 無謀な取材」
とか何とか、新聞にネタを提供するはめに……。

当然、というか、当たり前なのですが、
遊歩道などが整備されてない天然林を歩くとき、
自分が今いる場所、進んでいる方向を、
常に意識していないと、確実に迷います。

森では、ことあるごとに周囲を見渡し、
帰りの目印になるものを、なりそうなものを、
あれこれ、脳みそにインプットします。

肩にかついでいた三脚を置き、
重いカメラ機材が入ったバックパックを下ろして、
腰に手を当て、ぐっと体をそらしたら、
はい、木のはるか上方に、きのこ発見(笑)!

サルノコシカケの仲間、エゾサルノコシカケです。
エゾマツとかアカエゾマツから発生するので、
北海道以外ではほとんど馴染みのないきのこですな。

傘は半円形で、平ら〜蹄形。
横幅は30〜40cm、厚さ15〜20cmにもなる、
けっこう大型のきのこです。

表面は粗く環紋があり、苔むしていたりします。
縁の若い部分は茶褐色、老成した部分は暗褐色〜黒褐色。
下面は管孔状で、1mmに2〜3個の孔が空いています。

食不適。
多年生でかっちかちに硬いきのこなので、
到底食べられるものではありません。

生立木の枯れた枝から菌が侵入し、
樹木を白色孔状に腐朽するので、
林業関係者には嫌われているかもしれませんが、
(樹齢50年以下の木からは発生なし!)
大きな個体を見つけると、
どれだけの年月を生きているのかと、
けっこう感動してしまいます、はい。

森で最初に迷ったときすごくビビったので、
以来、十分に気をつけているつもりなのですが、
それでも、2年に1度くらい、森で迷います(笑)!

じゃあ、どうやって「生還」しているかというと、
北へ進めば林道に突き当たるはず、というように、
大まかな地理感は頭に入れてあるので、
方位磁針を頼りに林道方向へ進むわけです。

方位磁針機能が付いている腕時計を愛用していますが、
使いやすいのはやはりアナログのコンパスですね。

このコンテンツでは、
				きのこの食毒に触れてますが、
				実際に食べられるかどうかを判断する場合には、
				必ず専門家にご相談ください。