教えて木原さん!今日はじめる備え。

日本テレビ「news every.」の
お天気コーナーでおなじみの木原実さんは、
防災士としても活動をされています。
震災はいつ、どこで起きるかわかりません。
いつかではなく、今日からできる備えを
木原さんに教えていただきました。
2011年3月11日から8年が経ったいま、
改めて、防災について見直してみませんか。
担当は、ほぼ日の平野です。

できる範囲を続けること。

ーー
食べものと水の用意はできました。
次に必要な備えはなんでしょうか。
木原
次に備えなきゃいけないのは寒さです。
着の身着のままで避難していますから、
冬だったらエライことです。
体育館に避難しても電気が止まっています。
学校に備蓄があって灯油があったとしても、
体育館中がぽかぽかにはならないでしょう。
もしかしたら、あなたの家族が避難するのは、
壁際ですきま風の吹く場所に
追いやられてしまうかもしれません。
赤ちゃんやお年寄りをストーブの近くに集めて、
大人は遠くの場所になるのもわかりますよね。
ーー
子どもやお年寄りが優先されるでしょうね。
木原
「俺もあったまりてえーっ!」
なんてワガママは聞いてもらえません。
となると、どうやって寝るかを考えないと。
毛布ぐらいは配られるかもしれませんが、
体育館は床が硬いんで、背中が痛くなります。
でんぐり返し用のマットがいくつかありますが、
数は限られているでしょう。
とはいえ、家から布団なんて持ちだせません。
ーー
大きすぎて入りませんもんね。
木原
そんなときにエアクッションがあるんです。
「緊急時だから床が硬くてもいいや」
と考えることもできますけれど、
小さくて軽いので、
持ち出し袋に入れておいてもいいでしょう。
あとは、寒さをしのぐ毛布が欲しいですよね。
家で使う毛布はかさばりますが、
軽くて温かいアルミ製のブランケットがあります。
これもちっちゃいので、
ひとり1枚ずつ入れてもかさばりません。
ーー
あっ、かなり小さいですね。
ポケットティッシュぐらい。
木原
これならバッグに入りますから。
同じアルミのブランケットでも種類があって、
すっぽり入れる寝袋タイプもおすすめです。
避難しているときに体温が下がっちゃったら、
病気になっちゃうかもしれません。
肺炎になっても医者はすぐに来られないから、
下手したら悪化してしまうかもしれません。
だから、体温だけは下げないように
十分に気をつけてください。
ーー
これで夜の寒さもしのげそうです!
木原
さあ、これで夜も寝られました。
そこからはくり返しなので、
3日分を持っているかどうか。
ーー
あれもこれも揃えなきゃと思っていましたが、
意外と少なくて驚きました。
木原
面倒くさいことはやらなくなっちゃうんでね。
防災ってダイエットと一緒で
無理すると長続きしないし、
急に効くものってそうはありません。
できる範囲のことをやっておいて、
100%は無理でも80%ぐらいでいいんです。
ーー
完璧にやろうって思うと
続かないんですね。
木原
完璧にやろうとすると嫌になって、
「地震なんか来ないよ。来ても何とかなるさ」
と、開き直っちゃうからダメなんです。
できる範囲で、少しずつやりましょう。
最悪の状況をクリアしようと思ったら、
とにかく一晩の間、凍えずに、空腹にならずに、
生きるためのことを考えます。
そしてできれば3日分、
救援物資が届くまでの3日間を
避難所に留まらないといけないかもしれません。
3日間、食べて、飲んで、寝られるための
道具があれば最低限大丈夫。
最低限のものを揃えるだけなら、
そんなに大きな荷物にはならないはずです。
防災グッズをあれこれ揃えても、
持ち出せないのなら意味がないですから。
ーー
せっかく買っても、
使えなければ意味がないですね。
木原
避難生活に必要な衣食住のうち、
「衣」はアルミのブランケットでなんとかなる。
「食」はフリーズドライのご飯と携帯用の浄水器。
「住」は避難所の体育館で雨露しのげます。
あとはケガをしたりすることもあるので、
包帯やら絆創膏やらも必要になるとは思います。
そこからさらに足していこうとすると、
どんどん荷物が増えていって、
自分で持てない重さになっていくんです。
ーー
持ち運べないと、
逃げ遅れてしまいますね。
木原
避難所まで15分とか歩いて逃げるときに、
大きなスーツケースを転がして行こうとしても、
ガレキがあったりすれば難しいですよ。
余震も考えられるわけだし、
リュックを背負って両手を使えるようにしたほうが
いいんじゃないでしょうか。
そして、持ち出し用のバッグは、
家族分まとめてひとつじゃなくて、
ひとりにつき、ひとつ必要です。
ーー
あ、ひとりずつ必要ですか。
木原
家族がバラバラになっているときに
地震が起きたらどうしますか?
お父さんは会社、子どもたちは学校、
お母さんは家にいたとしたら。
家が火事になって逃げ出す緊急事態に、
お母さんが4人分を持っていくなんて無理です。
1人分しか持ち出せないとしたら、
最低限のものをわけておくべきでしょう。
ーー
必要なものを分散しておけば、
自分のバッグだけを持ち出せばいいと。
避難時の心構えも教えていただけますか。
木原
ぼくはよく、こんな話をしています。
大きな地震がきたとします。
たまたま家族4人が家にいたので、
みんなで持ち出し袋を持って避難しました。
電気も水道もガスもみんな止まっていて、
冬なので夜はとっても寒いです。
「よかったね、備蓄品をもってきて。
さあお父さん、お湯をわかして。
ほかほかの五目ゴハンを食べようよ」
とね、いいニオイがしてきました。
ーー
素晴らしいじゃないですか。
木原
でも体育館の中にはね、
哺乳瓶がなくて泣く赤ちゃんを抱いたお母さんや、
避難の途中でケガをしたおじいさんや、
大勢のみんなが苦しんでいる中で、
ウチだけいい香りをさせて食べられるのか。
「懐中電灯で灯りも点くよ」なんて言って
灯りの中で家族4人でご飯を食べているとね、
指をくわえたちっちゃな子が見ているじゃないか。
「ママー、ママー、お腹すいた」
「ダメよ見ちゃ。ほら、飴あげるから」
「飴やだぁー、おいしそうなゴハン食べたいー」
といった状況で、家族でおいしく食べられますか?
ーー
その状況はツラいですけど、
生きるためには食べないと‥‥。
木原
その子にひと口あげたいところだけど、
お腹を空かせた人は、何十人もいるんですよ。
下手したら何百人も体育館にいるわけで、
みんなでわけましょうって言っても、
ひとり1サジもないでしょうね。
じゃあ、どうするのか?
答えはね、みんなが持っていなきゃダメ。
ーー
ああ、そうですね。
木原
みんなが食べものを持っていれば、
「じゃあお食事タイム!」
「ウチはドライカレーなんですよ」
「ウチはわかめご飯です」
「ウチの子ね、わかめご飯が苦手なんですよね」
「あ、じゃあウチのピラフと替えましょうか?」
とみんなでワイワイできるじゃないですか。
理想的な避難所ではちゃんと、
コミュニケーションがとれるんですよ。
ーー
交流ができれば、不安もやわらぎますね。
木原
避難所の設営って大事なんですよ。
誰かがリーダーシップをとって、
ルールを決めて、避難所の場割りをするんです。
本来は行政の仕事ですが、
行政の人が被災者になれば、そこにはいません。
町内の人が率先してリーダーシップを
取るようにならないといけません。
地域がしっかりしていると、
ストレスなく避難ができると思います。
あらかじめ準備やコミュニケーションがないと
グチャグチャになっちゃいますよ。
届いたおにぎりの取り合いなんて、嫌でしょう?
常日頃から地域のコミュニケーションを。
避難所に行って何人か知っている顔があると
安心できますし、安否確認もできますから。
みんなで助け合いながら、
3日間、1週間としのいでいって、
やがて自分の家へ帰れるようにしていきたい。
避難生活に向けて最初の鍵となるのが
「非常用持ち出し袋」なんだと思いますよ。
だから、みんなが持っていましょう。
ーー
わかりました。用意します。
木原
まずは「自助」、自分で自分を助ける。
それから「共助」、みんなで助け合うと。
そして「協働」、行政と一体化して行動していく。
これが防災士の三原則なんです。
<つづきます>

2019-03-14-THU
※掲載している商品の取扱・価格は店舗により異なる場合がございます。
撮影協力=スーパービバホーム豊洲店

木原実(きはら・みのる)

気象予報士・防災士。
1986年から日本テレビでお天気キャスターをつとめる。
現在は日本テレビ「news every.」で、
キャラクターのそらジローとお天気コーナーを担当。
わかりやすい気象解説と軽妙洒脱な語り口には定評があり、
ナレーターや声優、舞台俳優としての顔も持つ。
2004年には防災士としての資格を取得。
翌年には日本防災士会常任幹事に就任。
2010年度の内閣府
「災害被害を軽減する国民運動サポーター」に就任し、
ジュニア防災検定(防災検定協会)理事もつとめる。
『おかあさんと子どものための防災&非常時ごはんブック』
(草野かおる著)の監修をつとめたほか、自著も多数。

防災に特化したオフィシャルブログも開設。