第3回
何を感じ、どう思うか。

──
世の中が、デザインであふれている時代に、
どうやったらオリジナリティを出せるのか。

そのことには、すごく興味があります。
デザインだけの話だとも思えないので。
永井
われわれ日本人は、世界的に見ても、
デザインのうまい人たちだと、思うんです。
──
え、そうなんですか。
永井
その理由は、ぼくは、ひとつには、
日本に、季節の移り変わりがあるからだと
考えています。

季節が移り変わっていくこと、
そのことが、
日本の美的感覚の基本なんだと思うんです。
──
四季、ですか。
永井
たとえば、熱帯なら熱帯で、
あるいは寒いところなら寒いところで、
一年中、ほぼ一様ですね。
風景にしても、動植物にしても。

そういうところで成立するデザインだって
もちろんありますけど、
日本の四季は、ゆたかな自然とともに、
そこに住む人の感性を、
季節ごとに、育んでくれているわけです。
──
ええ。
永井
ですから、パソコンの画面から目を上げて、
身のまわりの自然のありようや、
もっと言えば、
「宇宙」のような普遍的な摂理や法則に
大いに興味を持って、
そこから刺激を受けることが、
デザイナーにとってとても重要なことだと、
ぼくは、考えています。
──
自然や、宇宙の摂理。
永井
かつての日本人は、そういうものからの刺激を
五感全体で受け止めていました。

日本が世界に誇る‥‥たとえば
琳派にしろ、浮世絵にしろ、障壁画にしろ、
あれらも、当時は「アート」というより、
「デザイン」だっただろうと、思うんです。
──
そうか、ふすまや衝立に描かれる絵なら、
同時代の目で見れば「デザイン」かもしれない。

現代では「アート」に分類されているけど。
永井
で、ゴッホにしてもモネにしても、
そんな日本の「デザイン」に驚愕していたんです。
──
なるほど‥‥。

ちなみに、住んでいるところによって、
つまり外国人と日本人とでは、
デザインに対する考え方は、ちがいますか。
永井
それは、ちがいますね。はっきりと。

何かデザインの賞を審査していても、
審査員に日本人しかいないと
ものすごくスピーディに決まるんですが、
外国の人が混じると、そうならない。
──
なぜですか。
永井
外国の人って、
「このデザインが、なぜ良いと思うか」
あるいは
「このデザインが、なぜ悪いと思うか」
について、
論理的に納得しないと認めてくれない。
──
そうなんですか。
永井
その点、日本人の場合は、
論理的というよりも感性の人が多いし、
四季で育まれた感覚を、
ある程度みんなが共有していますから、
言葉で、ああだこうだ説明しなくても、
すっと理解できるんです。
──
ピクトグラムなんかは典型ですけど、
デザインが
「意味」とイコールの関係になることって
ままあると思うんですが、
外国の人の感覚だと、
そのへんが、日本より重視されている、と。
永井
そうですね。ですから、
「たしかに
日本のデザインはすばらしいけれど、
何を表しているのかが、わからない」
とは、よく言われることです。
──
デザインの意味。
永井
でも、日本人の場合は、
デザインの内包する「意味」というものに
それほど頼らずとも、
そのデザインが良いのか悪いのか、
感覚的な部分で、わかり合えるんですよね。
──
言語のコミュニケーションについて、
言われていることと、なんだか一緒ですね。
永井
言語によらない共通認識があるんです。
──
他方、その他大勢から「一歩秀でる」のは、
「オリジナリティ」ということですよね。
永井
ええ。
──
そこを磨き込んでいくには‥‥。
永井
やはり、創作でも情報でも刺激でも、
すべてパソコン上だけで済まそうとすると、
どうしたって、
同じようなものができてしまいます。
──
ここでも、パソコンやスマホから目を離して、
自然や宇宙に、目を向けることが重要?
永井
そう思います。
──
以前、ドラフトの宮田識さんに
お話をうかがったときにも「宇宙」の話が出て、
おもしろかったのですが、
デザインを考える人って、
そういう「システム」や「構造」を考えるのが、
お好きなんでしょうか?
永井
結局‥‥宇宙の摂理や地球の法則という、
ぼくら人間にとって共通するものに
考えが至らないと、
多くの人びとに納得してもらえるものは、
つくれないんじゃないでしょうか。
──
なるほど。
永井
みんなが、潜在的には知ってるんだけれども、
ふだんは気付いていない、何か。

それを掘り起こし、かたちにして見せるのが、
デザインの役割のひとつですから。
──
デザインが
「普遍」だとか「潜在的な共通認識」に
触っていたら、
「はじめて見るんだけど、しっくりくる」
という感覚を持てそうですね。
永井
キギの渡邉良重さんなんかが典型ですけど、
ある意味で、
彼女って非常に「野性的」じゃないですか。

自然に触れて、感覚を研ぎ澄ましていくと、
ああして「反応する力」が磨かれるんです。
──
反応する力?
永井
刺激に対して、感性が反応していく力です。

その「反応する力」の中にこそ、
その人の「個性」が、出るように思います。
──
刺激に対して、何を感じ、どう思うか。
永井
あなたは、何を感じ、どう思ったか?
そこにオリジナリティが芽生えるんです。
そここそが、デザインのみなもとです。
だから、そこを、問い続けることです。

みんなが一様なことしか感じなかったら、
世の中には、
一様なデザインしか生まれないでしょう。
<つづきます>

2017-04-14-FRI

このインタビューは
「CACUMA(カクマ)」のデザイナーである
キギの渡邉良重さんが、
永井さんが選考委員長をつとめる
「亀倉雄策賞」を受賞したことをきっかけに
実現いたしました。