第4回
鎌倉投信の曼荼羅図。

西條
人間って「どっちが本当なのか?」という問いを
立てがちじゃないですか。

たとえば
「成果」と「社会的責任」どっちが大事なのか?
糸井
どっちかって、言いたくなりますよね。
西條
言いたくなります。
でも、どっちかじゃなく、両立できる道もある。
糸井
うん、その「どっちかだ」を突き詰めていくと、
言語体系の問題になると思うんです。
西條
言語体系。
糸井
日常的な話し言葉というのは、
「こうこう、こうで、こうでしょ」と言って
「わかんない」と言われたら、
また、べつのルートを取り直せばいいですよね。

つまり、
ラリーそのものの中に、言葉が溶け込んでいく。
西條
ええ。
糸井
ですから、
「今度のプロジェクト、利益を上げなかったら、
 やる意味ないから」
と言うのは、自分の会社の人間に対してならば
そのままの言いかたで、言えるんです。

ぼくの「真意」なり「本当の気持ち」が
別の場面で、すでに共有されているから。
新井
わかります。
糸井
ようするに
「利益を上げることが目的じゃない」けど、
「利益が上がるように動く」ことが、
ぼくらの、いちばんやりたいことなんだと。
西條
言語体系を共有している人たちの間では
そのへんの共通理解が
素早くスムーズに成立するってことですね。
新井
わたしたちも、
個人のお客さまに対しては
いわゆる、投資や金融の「専門用語」は
使わないようにしています。

他方で、セミプロ向けの資料には
専門用語しか書かないものもある。
糸井
ええ。
新井
中身は同じですけど、言語がちがうんです。
なぜなら、
相手にわかる言語でしゃべらないかぎりは、
何ひとつ、伝わらないわけで。
西條
うん、うん。
糸井
ぼく、昔から「曼荼羅」構造のイメージを
持ってるんですよ。
新井
まんだら‥‥。
糸井
真ん中に大日如来がいて、
まわりにいろんな仏さまがいる絵ですけど、
この絵で考えると
ある世界観を、一目瞭然にできるんです。

つまり「鎌倉投信」を中心に置いて
そのまわりに
鎌倉投信が投資している企業をならべると、
「うちは、こういう会社です」
って、ひと目で表現できるじゃないですか。
新井
ああ‥‥なるほど。
糸井
「ぼくたちは、こんなふうに、
 よろこんでもらえる
 お金の使いかたをしたんですよ」
という話をしたいとき、
鎌倉投信の曼荼羅をパッと見せたら
「リターンは、低いです。
 でも、このにこやかな仏さまの顔を見て
 みんながうれしくなったんです」
って説明すれば、通じると思うんです。
新井
うん、うん。たしかに。

わたしたちの投資先は、
ぜんぶホームページに出していますし。
糸井
そこが、おもしろいですよね。

運用会社が投資先をすべて公開するって
ふつう、やりませんから。
新井
「こんな会社なんですけど
 好きだったら来てください」という、
そういうスタンスなんです。

われわれは
「こういう会社を応援したい」という
「したい」主体なんです。
糸井
そこの考えかたに共感できなければ、
それはそれでいいってことですよね。
新井
いま「なるほど、曼荼羅だなあ」と
すごく納得したんですが、
社会というのは
いろんな会社があるから、おもしろいわけです。

でも、これまでの「企業の社会的責任」の考えでは
どの会社も「一律の基準」に嵌めようとする。
糸井
ええ。
新井
すると「個性」がぜんぶ消えてしまうんです。
ぜんぜん、おもしろくない。
糸井
アイディアなしで、できちゃいますし。
西條
新井さんのところは
「すべての会社に同じ金額を投資する」
と決めてるから、
本当にきれいな曼陀羅図が描けそう。
新井
そう言われれば、そうですね(笑)。
糸井
ぼくが鎌倉投信さんの仕事を見ていて
おもしろいなと思ったのが、
ヤマトホールディングスの木川さんみたいに、
「鎌倉投信からのお金を
 アテにしていない企業」が
「投資されたい存在」と言ってくれること。

だって、ヤマトにしてみれば、
そのお金って‥‥ちいさすぎますもんね。
新井
もう「アリさん以下」でしょうね(笑)。
糸井
でも、「鎌倉投信に投資されてうれしい」
と思ったわけですから。
西條
木川さん、もともと金融出身ですから‥‥。
糸井
そうか、そうだ。出身がそこだったんだ。
西條
やりたかったことを体現してる鎌倉投信に
投資してもらいたかったんじゃないかと。

金融業界って
「雨が降ったときに傘を差し出さない」業界、
みたいに言われますけど、
本来、そんなことないはずだという思いを
持ってらっしゃったんでしょう。
新井
木川さんの心の琴線に触れたという、
それだけなんだと思います。

それで、関係を続けさせていただいている。
本当に、ありがたいです。
<つづきます>
2015-06-25-THU

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