ほぼ日刊イトイ新聞

感染症のプロ・岩田健太郎先生に聞いた 頭がすっきりする風邪の話。

ご報告が遅くなり、すみません。
2018年2月におこなった
「ほぼ日の風邪アンケート」では、
8503名のかたにご参加いただきました。
本当にありがとうございました。
さまざまな風邪の疑問が集まったので、
今回、その結果を持って、
神戸大学病院感染症内科の
岩田健太郎先生のもとを訪ねてきました。
岩田先生のお話は、とにかく明快。
「正しい」「間違っている。理由はこう」
「そういう説もあるが証明されていない」
など、わかりやすい説明で、
たくさんの疑問に答えてくださいました。
読むと、頭がちょっとすっきりしますよ。
これからはじまる風邪のシーズン、
参考にしていただけたら嬉しいです。

11 小さな疑問をたくさん聞く(1)

ほぼ日
最後に、まだまだアンケートで出た
みなさんからの質問があるので、
まとめて聞かせてください。

まず「男女で風邪のひきやすさに
違いはありますか?」。
岩田
うーん、男女差があるという話は
聞いたことないですね。
ただ、高齢者のかたのほうが
風邪をひきにくいんですよ。
ほぼ日
そうなんですか。
岩田
「年をとると、風邪に気を付けたほうがいい」
は間違いです。
年をとるとだんだん免疫がつくので、
風邪をひきにくくなります。
だから高齢者が風邪をひいたと思ったら、
実は違う病気だったっていうことがよくあります。
そっちに気をつけたほうがいいですね。
ほぼ日
では、まことしやかに言われている
「実は風邪をひいたほうが健康にいい」
という噂はどうでしょう?
岩田
ただの噂ですね‥‥あ、でも、
あながちデタラメというわけでも
ないかもしれないです。
風邪とは関係ないかもしれませんが、
「ある程度はゴミゴミした環境にいたほうがいい」
とは、最近よく言われています。

「衛生仮説」と言うんですが、
あまりに清潔すぎる環境にいると、
アトピーを起こしやすくなったり、
喘息になりやすくなるという説があるんですね。

もちろんゴミゴミした環境がいいといっても、
ある程度は、ですけど。
ほぼ日
こんな質問もありました。
「昔の人といまの人を比べると、
いまの人のほうが風邪に弱いのではないでしょうか?」
岩田
そんなことはないですね、
誰が見たのかという感じで。
いまの人のほうが圧倒的に健康ですよ。
たとえば明治時代の平均寿命って、
40代くらいでしたから。

昔はずっと悲惨で、みんなもっともっと
いろいろな病気にかかったり、
怪我をしたり、狼に食われたりしながら
暮らしてたと思うんです。
現代人のほうがはるかに健康です。
ほぼ日
なるほど。
岩田
健康のためには、甘やかされたほうがいいんですよ。
暖かい住居、温かい食べ物、ちゃんとした寝床、
そういう環境で育つほうが長生きできます。
日本アルプスのど真ん中とか、
厳しすぎる環境で暮らしたら、すぐに死にますよ。
昔の人のほうが健康というのは、
都市伝説に過ぎません。
ほぼ日
睡眠不足と風邪の関わりはどうですか?
あと「ストレスが多いと風邪をひきやすいですか?」
もありました。
岩田
睡眠不足になると、
風邪をひきやすいといわれています。

ストレスと風邪は、関わりはあるかもしれませんが、
きちっとしたデータはなさそうですね。
よく言う「笑うと健康になる」とかは
個人的にはそうかなと思うときもあるんですけど、
ぱっとした証拠はあまりないです。
ほぼ日
ああー。
岩田
ただ「自分自身を不健康だと思っている人ほど
体調を崩しやすい」というデータはあります。
ほぼ日
あ、そうなんですか。
岩田
はい。自分に対してネガティブな人って、
健康面でいろいろと良くないことが多いんです。
ですから、健康のためにも
あまり自分を不幸せだと思わないほうが
いいかもしれないですね。
幸せ、不幸せって、捉え方次第ですから。
ほぼ日
なるほど。では次の質問を。
「風邪をひいたとき、
汗はかいた方がいいんでしょうか?」
岩田
なかなか難しい問題ですが、漢方では
「汗をかかないような風邪は、
汗をかいた方がいい」と言います。
寒気があって、冷えて、
肌がカサカサになっている場合は、
ちょっと汗をかいた方がいいと言います。

ただ、そのときに脱水症状に
ならないほうがいいので、
ちゃんと水分補給が必要です。
ほぼ日
お風呂はどうですか?
入るべきか、入らざるべきか。
岩田
どちらでもいいですよ。
ただ、不潔にしない方がいいと思います。

大事なのは、湯冷めしないことですね。
昔「風邪のときはお風呂に入らない方がいい」
と言われてたのは、たぶん、
家の中にお風呂がなかったからだと思うんです。
外だと湯冷めしますから。
ちゃんと体をふいて、ドライヤーで髪を乾かせば、
お風呂もシャワーも入っていいと思います。
ほぼ日
「なぜ冷えたら風邪をひくんですか」
という質問もありました。
岩田
不思議ですよね。
実はこれはまだ証明されていないんです。
冷えと風邪は関係ないという論文もあるんですよ。

ただ、個人的に僕は冷えると
百発百中で風邪をひくんですね。
だから、個人的には
「冷えたら風邪をひきやすくなる」と思ってます。
けど、なぜかはわからないですね。
すみません。
ほぼ日
「ほかの人に風邪をうつさないための
方法を教えてください」
岩田
家にいることです。
ほぼ日
ああ(笑)。そのとおりですね。
岩田
もっと言えば、無理をしないことですね。
体調が悪いときにはちゃんと家で休む。
それが自分のためにも、人のためにもなる。
「チームのために頑張るんだ」とか言って、
みんなに風邪をうつしたら本末転倒ですから。
ほぼ日
こんなのもありました。
「風邪のウイルスは飲み込むと
胃で殺されるという説がありますが、
本当ですか?」
岩田
確かにウイルスを飲み込むと、
胃で殺される可能性は高いです。
だけど、それでウイルスが
すべていなくなるわけではなく、
体内でウイルスはどんどん増えていますから、
それで風邪の治りがよくなるわけではないです。
ほぼ日
じゃあ痰をどうするかも、
あまり治りには関係ない?
岩田
関係ないです。
痰を飲み込んでも、消化管の方に行くだけですね。
よくも悪くもないと思います。
まぁ、出した方が気持ちいいと思いますけど(笑)。
ほぼ日
「大量に出る鼻水は、
いったいどこで作られているんでしょうか?」
岩田
鼻です。
ほぼ日
(笑)
岩田
鼻の穴って小さいじゃないですか。
でも実は鼻って奥がでかくて、
けっこう広がっているんですよ。
そこの粘膜が腫れると鼻が詰まる。
そこからたくさん分泌液が出てくるんですね。
それが鼻汁──いわゆる鼻水です。
ほぼ日
鼻水って、水っぽいものと、
ねばねばした青っ鼻とがありますよね?
「青っ鼻が出ると治りかけのサイン」
みたいなことも言いますが。
岩田
あまり関係ないです。
両者の違いは本質的にはないので、
あまり気にしなくていいです。
ほぼ日
そうなんですね。
岩田
それから、鼻をかんだときに
鼻血がつくことがありますけど、
実は鼻には小さな血管がいっぱいあるので、
ちょっとした刺激ですぐに傷ついて
血が出るんです。
ですから鼻血は気にする必要はないです。
9割以上は勝手に止まります。
ほぼ日
「風邪が治ったかどうかは、
どこで判断すればいいですか?」
岩田
自分の症状がなくなったとき、ですね。
咳がなくなって、のどが痛くなくなって、
といった感じですね。
まぁ、風邪の場合は、インフルエンザと違って、
パキっと治らないんですけどね。
ずるずる残ることが多いんです。
ほぼ日
「風邪をひいたとき、
咳だけすごく長い期間残ることがあるのですが」
岩田
そういうこと、ありますね。
実は、咳っていちばん残りやすいんですよ。
ほかの症状よりも残りやすくて、
平均で約2週間残ると言われています
──つまりそれが「平均」ですから、
2週間より長い人も多いということです。

ですから「咳だけ治らない」と
外来に何度も来る患者さんが多いんですけど、
2週間くらい続いても、
そんなものだと思うしかないです。

僕は先手を打って
「咳はだいたい2週間は出ますからね。
咳が治らないといって、あさってまた来る
必要はないですからね」と言っています。
ほぼ日
「咳を止めるにはどうすればいいですか?」
岩田
さっき言ったように、咳にははちみつが効きます。
あと胸やのどに塗る
「ヴィックス ヴェポラッブ」も効きます。
それとさっき言った
「メジコン」みたいな咳止めも効きます。
そのあたりは、ある程度効果はあります。

あと、鼻水がダラーっとのどに伝って、
咳する人がいるんですけど。
「後鼻漏(こうびろう)」っていうんですけどね。
そういう人はうつぶせ寝をすれば、
咳はかなりよくなります。
また、その場合は鼻水を止める薬がいいですね。
ほぼ日
へえー。
岩田
あと、タバコを吸っている人は
禁煙するのがいちばんいいです。
タバコをやめると咳はほぼ確実に減ります。
ほぼ日
タバコやお酒と、風邪との関係はどうですか?
岩田
タバコはたぶん風邪をひきやすくします。
粘膜を荒らすので。

お酒も、飲みすぎると、免疫が弱るし、
脱いだりして肌をさらしやすくなるし、
そもそも生活が不規則になりやすくて
睡眠不足になりやすいし、
やっぱり風邪をひきやすくなると思います。
ほぼ日
「痰がうまく切れません」
岩田
ああ、痰を切る薬もいちおうあるので
使ったりしますけど、あんまり効かないです。
うーん、痰が切れないねぇ
‥‥あまりいい方法ないですね、はい。
ほぼ日
「鼻水や鼻づまりを解消する方法はありますか?」
岩田
おすすめは、点鼻のステロイドですね。
鼻に直接つける薬がいちばん効果が高くて、
副作用も少ないです。
ほぼ日
「からだの節々の痛み」を軽減するには?
岩田
「麻黄湯(まおうとう)」などの漢方薬を
使うのが一つの手になりますね。
あと、痛み止めでもいいと思います。
僕のおすすめはアセトアミノフェンです。
副作用がいちばん少ないから。

おすすめじゃないのは、ロキソニン、ボルタレン。
あのあたりの「NSAIDs(エヌセイズ)」と
僕らが呼ぶ抗炎症薬は、
胃を荒らすし、腎臓にも心臓にもよくないし、
副作用がたくさんあるので、あまりおすすめしません。

アセトアミノフェンを服用しても
全然痛みが治まらないぐらいの人が
たまに使うのは、しょうがないと思いますけど。
ほぼ日
「子どもからもらった風邪は、
普通の風邪より症状が重い気がするのですが」
岩田
気のせいです。
ほぼ日
(笑)。
あと同じく子どもと風邪の話で、
「子どもにどの程度、学校を休ませたらいいのか、
悩みます」。
岩田
症状が軽くなって、そこそこ元気になったらで
いいと思いますね。
完全に症状が治まるまでというと
休みすぎになっちゃうので。
咳は2週間続きますから、
マスクとかをした方がいいと思いますけど、
まあまあ元気になったら。
これは現実世界との折衷案みたいなものですけど。
ほぼ日
よく言う「風邪は万病のもと」は本当ですか?
岩田
ウソです。
別に風邪ひいたからってがんになったりもしないし、
「酒は百薬の長」というのと一緒で、
スローガンみたいなものです。
「風邪ひいたときはちゃんと休めよ」っていう、
そういう意味だと思いますね。
ほぼ日
ちょっと変わったところでは
「私は風邪をひくと、独特のにおいを
感じるのですが、あれはなんでしょうか?」
岩田
その人じゃないのでわからないですけど、
たぶん鼻水のにおいだと思いますね。
ほぼ日
つぎつぎ答えてくださって、ありがとうございます。
どんどん疑問が解決して、面白いです。

(続きます)

2018-09-28-FRI

岩田健太郎(いわた けんたろう)

島根県生まれ。島根医科大学卒業。
沖縄県立中部病院、ニューヨーク市
セントルークス・ルーズベルト病院、
同市ベスイスラエル・メディカルセンター、
北京インターナショナルSOSクリニック、
亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。
神戸大学都市安全研究センター
感染症リスクコミュニケーション分野および
医学研究科微生物感染症学講座
感染治療学分野教授。
神戸大学病院感染症内科診療科長、
国際診療部長。

所有資格は、日本内科学会総合内科専門医、
日本感染症学会専門医・指導医、
米国内科専門医、米国感染症専門医、
日本東洋医学会漢方専門医、
修士(感染症学)、博士(医学)、
国際旅行学会認定(CTH),感染管理認定(CIC)、
米国内科学会フェロー(FACP)、
米国感染症学会フェロー(FIDSA)、
PHPビジネスコーチ、FP2級。
日本ソムリエ協会シニアワインエキスパートなど。