ほぼ日刊イトイ新聞

感染症のプロ・岩田健太郎先生に聞いた 頭がすっきりする風邪の話。

ご報告が遅くなり、すみません。
2018年2月におこなった
「ほぼ日の風邪アンケート」では、
8503名のかたにご参加いただきました。
本当にありがとうございました。
さまざまな風邪の疑問が集まったので、
今回、その結果を持って、
神戸大学病院感染症内科の
岩田健太郎先生のもとを訪ねてきました。
岩田先生のお話は、とにかく明快。
「正しい」「間違っている。理由はこう」
「そういう説もあるが証明されていない」
など、わかりやすい説明で、
たくさんの疑問に答えてくださいました。
読むと、頭がちょっとすっきりしますよ。
これからはじまる風邪のシーズン、
参考にしていただけたら嬉しいです。

6 手洗い・うがい・マスクの効果は。

ほぼ日
続いて、感染方法についての質問を
させてください。
「目、耳、皮膚から、
風邪がうつることはありますか?」
岩田
ありません‥‥あ、厳密に言えば
皮膚からはありますね。
「手からの感染」はあります。

たとえば咳をして手に病原体がうつり、
それで電話の受話器を持ったりとか、
キーボードを扱ったりして、それをほかの人が触る。
そして口に持っていってうつる。
いう感染はあります。
ほぼ日
「皮膚を介して」ということですね。
岩田
そうです。
基本的に風邪の場合は、口や鼻から
くしゃみと咳で感染するんですけど、
くしゃみや咳の成分が、
何かにピタッとついたときに、
手などの皮膚を介して感染することはあります。

皮膚といっても、
あくまで触ったところを介してということですね。
たとえば同じ皮膚でも、
背中からの感染はほとんどない。

目からの感染は、ほぼないですね。
耳からの感染も、まずないです。
ほぼ日
次も多かった質問ですが、
「手洗い、うがい、マスクの
風邪予防効果はあるのでしょうか?」
岩田
それぞれ答えますね。
まず手洗いの効果は、ふつうに洗うだけなら
「あまりない」です。
ほぼ日
えっ、そうですか。
岩田
全然ないわけではないので、
やるなとは言わないですけど。
風邪予防の観点からだと、
効果はちょっとしかない。

やるんだったら、徹底的にやるべきです。
チャッチャッと水で流すぐらいでは、
ほとんど意味がない。

やるなら指の間とか、爪の先とか、
親指と人差し指の間とかに
病原体が残りやすいので、
そのあたりまで徹底的に
きれいにする必要がありますね。
ほぼ日
そのとき、水だけじゃだめですか。
岩田
だめですね。
石鹸か、もしくは
シューッと吹きかけるような
手指消毒用アルコールを使うといいです。
病原体を殺すのには、
手指消毒用アルコールの方が効果的です。

ただそれも、チョチョッとやるだけじゃだめ。
やり方がちゃんとあって、
手の表面を洗って、
指と指の間、指と指の間、爪先、爪先、
親指、親指、手首、手首
‥‥と、ここまでやらなきゃいけない。
だいたい15秒以上。

15秒以上かけて手指消毒をするのは
すごく大変で、こうやって洗って
‥‥まだ5秒。
この3倍やらなきゃいけない。
ほぼ日
なかなか時間がかかりますね。
岩田
手洗いについては、ほとんどの人が
そこまでやらないですから。
そういう意味で
「あまり意味がない」ということですね。
やるんだったらきちっとやる。
中途半端にやるのは、あまり意味がない。
外国だと
「“Happy birthday to you.”を3回歌うぐらいの
時間をかけて洗うといい」
とかも言いますね。
ほぼ日
最近は「除菌ジェル」みたいな
商品もありますよね。
ああいった商品の効果ってあるんですか?
岩田
アルコールがきちっと入っているものなら、
ありますよ。
だけどそれも、きちんと塗ることが大事ですね。
チャチャッとつけるだけだと意味がない。
ほぼ日
抗菌シートみたいなのは?
岩田
ほとんど意味ないです。
ほぼ日
空気清浄機はどうでしょう?
岩田
清浄機、意味なし。
風邪の予防という意味では。
ほぼ日
うわー。
岩田
加湿器、まぁ、ほぼほぼ意味なし。
ほぼ日
はああー。
岩田
抗菌グッズと呼ばれているもの、
まぁ、意味なし。
ほぼ日
あちゃー。それはたとえば、
首から下げて除菌するみたいなものも?
岩田
なし。
ほぼ日
部屋に置いとくタイプのも?
岩田
なし。
ほぼ日
はーーー。
岩田
全部なし。
ほぼ日
そうなんですか。
岩田
ああいうのはもう、
日本の経済に貢献しているだけだと思います。
ほぼ日
じゃあ続いて、
マスクの風邪予防効果はどうでしょう?
岩田
マスクもほぼなし。
ほぼ日
え!
岩田
予防効果、ありません。
風邪をひいている人が、ほかの人に
うつさないようにする効果はあると思いますけど、
風邪予防で日常的にマスクをつける効果は
ほぼないと思います。
ほぼ日
そうですか。
岩田
完全にないというわけではなく、
たとえば僕らが外来で
患者さんを診るときとかは、マスクをつけます。
目の前に病気の人がいますので。
だけど今(取材時)はマスクつけていないし、
電車に乗るときなどもマスクをつけません。
必要ないから。

2009年に神戸で
新型インフルエンザがはやったとき、
みんながパニックになってて、
阪急電車で全員がマスクつけていたんです。
僕だけマスクつけていなくて
「なんて非常識なんだろう」ってにらまれて
「僕だけ正しいことしているんだけどな」
と思った記憶があるんですけど。
マスク、たいして意味ないです。
ほぼ日
じゃあ、人ごみの中を歩くときも
気にすることはない?
岩田
ないです。
一般的なマスクって、
鼻のところなどに隙間があって、
うつるときはうつるんですよ。
完全にブロックする効果はないです。

もし完全にブロックしようと思ったら、
「N95」といわれる完全密閉型のマスクを
着けないといけないんですね。
そしてこれも、新型インフルエンザのときに
バカみたいに売れたんですよ。

だけど、あれは完全に正しく着用すると、
息が苦しくて30分以上はつけられないんです。
だから仕事しながら、朝から晩まで
N95をつけているという人は、
つけ方が間違っている。
ほぼ日
なんと(笑)。
じゃあ、うがいはどうでしょう?
岩田
うがいもほとんど効果ないですね。
「1日3回、15秒ぐらいやれば、
ある程度効果がある」
というデータがありますが、
15秒ってけっこう大変ですから。

こんなふうに
「ガラガラガラガラ、ガラガラガラガラ、
ガラガラガラガラ」
‥‥(時計を見て)まだ9秒ですよね。

これを1日3回しっかりやるのは、
けっこう大変だと思います。
僕はやらないです。
ほぼ日
うがい薬というのもありますが。
岩田
うがい薬は使わない方がいいです。
のどの粘膜を傷めるだけなので。
ほぼ日
ひゃー。そうですか。
岩田
やるんだったら普通の水道水がベターです。
うがい薬って苦いので、
スカッとして効いた感じがするんですけど、
自己満足ですね。
のどの粘膜を傷めているだけで、逆効果。
ほぼ日
なんとなく信じているけれど
実は間違っていること、いろいろありそうですね。
岩田
ただ、風邪とは関係ないですが、
高齢のかたが口の中をきれいにするのは大事です。
「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」という、
口の中の雑菌が肺に入って、
肺炎を起こすケースがあるんですけど、
その予防のため。
特に高齢の方は大事です。

(続きます)

2018-09-23-SUN

岩田健太郎(いわた けんたろう)

島根県生まれ。島根医科大学卒業。
沖縄県立中部病院、ニューヨーク市
セントルークス・ルーズベルト病院、
同市ベスイスラエル・メディカルセンター、
北京インターナショナルSOSクリニック、
亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。
神戸大学都市安全研究センター
感染症リスクコミュニケーション分野および
医学研究科微生物感染症学講座
感染治療学分野教授。
神戸大学病院感染症内科診療科長、
国際診療部長。

所有資格は、日本内科学会総合内科専門医、
日本感染症学会専門医・指導医、
米国内科専門医、米国感染症専門医、
日本東洋医学会漢方専門医、
修士(感染症学)、博士(医学)、
国際旅行学会認定(CTH),感染管理認定(CIC)、
米国内科学会フェロー(FACP)、
米国感染症学会フェロー(FIDSA)、
PHPビジネスコーチ、FP2級。
日本ソムリエ協会シニアワインエキスパートなど。