ほぼ日刊イトイ新聞

感染症のプロ・岩田健太郎先生に聞いた 頭がすっきりする風邪の話。

ご報告が遅くなり、すみません。
2018年2月におこなった
「ほぼ日の風邪アンケート」では、
8503名のかたにご参加いただきました。
本当にありがとうございました。
さまざまな風邪の疑問が集まったので、
今回、その結果を持って、
神戸大学病院感染症内科の
岩田健太郎先生のもとを訪ねてきました。
岩田先生のお話は、とにかく明快。
「正しい」「間違っている。理由はこう」
「そういう説もあるが証明されていない」
など、わかりやすい説明で、
たくさんの疑問に答えてくださいました。
読むと、頭がちょっとすっきりしますよ。
これからはじまる風邪のシーズン、
参考にしていただけたら嬉しいです。

2 風邪に抗生物質はいらない。

ほぼ日
いま、風邪と抗生物質の話がありましたが、
抗生物質については非常に多くの方が、
きちんとした情報を知りたいと
アンケートに書かれていました。

風邪で病院に行くと処方されることがある。
だけど最近は
「風邪に抗生物質は効かない」
という話も聞くから、
実際のところはどうなんでしょう? と。
岩田
はい、風邪に抗生物質は効きません。

というか、もうすこし詳しく言えば、
何千人を治療していると、
そのなかの1人2人は効くかもしれない。
でも、たとえば1000人治療して、
998人とか999人には効かない。
そのくらいの感じです。
ほぼ日
え、そのくらいですか?
岩田
そうなんです。
ただこういう言い方をすると
「だけど1人2人には効くんだから、
使ってもいいじゃないか」
と思われるかもしれないので、
補足しますと。
ほぼ日
はい。
岩田
抗生物質にはかなり副作用があるんです。
それはさきほど言ったような、
お腹を壊したりとかの
比較的軽いものもありますが、
場合によっては命に関わる
重大な副作用が起こることもあります。

それで「抗生物質の副作用で困る人」と
「抗生物質で風邪が治る人」の割合で言うと、
困る人のほうが圧倒的に多いんです。
要は、割に合わない。

ですからもう
「風邪に抗生物質は効かない」と
考えてもらったほうがいいと思ってます。
ほぼ日
そうなんですか‥‥。
ただ、これはネットからの情報ですが
「風邪には細菌性とウイルス性がある。
そして細菌性の風邪には抗生物質が効く。
だから、細菌性の風邪なら
抗生物質を飲んだほうがいい」
という話を読んだことがあるのですが。
岩田
間違いです。
風邪で抗生物質を飲んだほうがいい
というのは、正しくありません。
ほぼ日
そうなんですか? うわぁ。
岩田
昔は
「風邪にはウイルス性と細菌性があって、
9割がウイルス性、1割が細菌性である。
そして、1割の細菌性の風邪には
抗生物質が効くんだから、
抗生物質を使ってもいいじゃないか」
という意見が多かったんです。

けれど、それは間違いで。

実はそもそも、細菌性の感染症でも、
抗生物質なしで治ることがほとんどなんです。
ほぼ日
そうですか。
岩田
「抗生物質は細菌に効く、ウイルスには効かない」。
そこは、そのとおりです。

とはいえ、実際のところ、小規模の細菌感染って、
ほとんど自分の免疫で治るんです。
世の中に抗生物質が普及したのが
1940年代以降なんですが、
それ以前、人はみんな抗生物質なしで
感染症を治していたし、記録も残っています。

そうやって治るものに、
リスクの高い抗生物質を出すのは
割に合わない。
ほぼ日
だけど、中のごく一部の人は、
抗生物質が必要だったりしないのでしょうか?
岩田
もちろん
「ほんとにごく一部の人に必要」
というのは事実として
あると思います。

しかしながらほとんどの人には不要だし、
抗生物質を風邪の人みんなに
ワーッと出すことについては、
やっぱり割に合わないことが多いので、
基本的に細菌性かウイルス性かを
気にする必要はないということです。
ほぼ日
はあー。
すでに目からウロコがボロボロと。
岩田
ちなみに子供がよくなる
中耳炎などもそうですね。
大半が抗生物質なしに治ります。
ほぼ日
抗生物質については
耐性菌の話も聞きたいのですが。
岩田
そうですね、抗生物質には
「使い続けていると薬剤耐性菌が出現して、
薬が効かなくなってしまう」
という困った性質があります。
これもまた、抗生物質を使うことによる
リスクですね。

耐性菌が増えると、
その人が別の感染症に発症したとき、
治療が難しくなってしまいます。

また、その耐性菌が
ほかの患者さんに伝播してしまうと、
その患者さんの治療も難しくなってしまいます。
ほぼ日
つまり、抗生物質を使いすぎると
耐性菌が出現しやすくなり、
もともとは抗生物質を使うことで
治っていた場面で、
治療が難しくなる可能性がある。
岩田
そうです。
抗生物質にはほかにも、不要な処方で
医療費がかさむというマイナスもありますし、
使いすぎるといつか
抗生物質自体が足りなくなる可能性がある、
というリスクもあります。

ですから、そういったリスクを
はるかに上回るような利益が
期待されるときにだけ、
抗生物質の使用は正当化されるんですね。

そういったこと考えていくと、
たとえ1000人に1人2人が効くとしても、
風邪の治療に、
むやみやたらに抗生物質を使うのは、
やはり間違っていますよね。
ほぼ日
だから風邪に抗生物質はいらない。
岩田
そうなんです。

(続きます)

2018-09-19-WED

岩田健太郎(いわた けんたろう)

島根県生まれ。島根医科大学卒業。
沖縄県立中部病院、ニューヨーク市
セントルークス・ルーズベルト病院、
同市ベスイスラエル・メディカルセンター、
北京インターナショナルSOSクリニック、
亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。
神戸大学都市安全研究センター
感染症リスクコミュニケーション分野および
医学研究科微生物感染症学講座
感染治療学分野教授。
神戸大学病院感染症内科診療科長、
国際診療部長。

所有資格は、日本内科学会総合内科専門医、
日本感染症学会専門医・指導医、
米国内科専門医、米国感染症専門医、
日本東洋医学会漢方専門医、
修士(感染症学)、博士(医学)、
国際旅行学会認定(CTH),感染管理認定(CIC)、
米国内科学会フェロー(FACP)、
米国感染症学会フェロー(FIDSA)、
PHPビジネスコーチ、FP2級。
日本ソムリエ協会シニアワインエキスパートなど。