カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

10月末の日曜日、午前11時。
雨あがり、しっとり湿った井の頭公園。
ひさしぶりに晴れ間が見えた園内では、
フリーマーケットが次々に開かれていきます。
そのなかの一軒、絵を並べて販売する
小さなお店の前に、僕はいました。

「いちばん人気があるのは、これなんです」
森本ひであつさんは、絵を並べる手をとめ、
シャイそうな笑顔でそう言うと、
一枚のポストカードを僕に手渡すのでした。


第27回
オーダー絵はカワイイ。



山下 僕も、まずこのパンダに足をとめられました。
ちょっと困ったような顔が、もう‥‥。
森本 みんなから、ズルいって言われます(笑)。
最初からかわいいですからね、パンダは。

数週間前、井の頭公園を散歩していた僕は
森本さんの絵に釘付けになってしまいました。
独特の、やわらかくて、やさしいタッチ‥‥。
男子42にして山下、一発でめろめろです。
よくみると、フリマのシートの上には、
「オーダーできます」という看板が。
さらにつよい興味を抱く山下哲。
勇気を出して話しかけてみれば、
イラストレーターの森本さんは30才。
オーケー、三十路を過ぎたらおじさんの部。
僕は勢い込んで取材をお願いしました。

そしてきょう、いよいよ取材の日です。
森本さんは、きれいに絵を並べ終えた様子。
お店の邪魔にならないよう、
オーダー絵についてうかがってみましょう。


山下 週末は、いつもここでこうして?
森本 はい、雨が降らなければ。
絵に興味のない普通の人が足をとめるような、
そんなものを描けるようになりたくて、
去年の8月から続けています。
‥‥あ、すみません自分のことばかり話して。
山下 いえいえ、ぜんぜん大丈夫です。
どうか自由にお話ください。
それで、きょうはオーダーの絵について
くわしくお話をうかがいたいのですが。
森本 あ、よろしくお願いします。
山下 こちらこそよろしくお願いします。
つまりは、絵を注文できるのですよね?
森本 はい、もう、その通りです。
山下 それはだれでもできるのですか?
森本 はい。
山下 どんな絵でも?
森本 どうしても苦手なものはやはり描けませんが、
注文されるかたはみなさん
僕のタッチを気に入って注文されるので‥‥
そうですね、お断りしたことはありません。
山下 この場で描かれる?
森本 いえ、ここではちょっと描けないので、
お話をうかがってから持ち帰って、
1ヵ月ほどお時間をいただいて描いてます。
山下 なるほどお‥‥。
オーダーの絵を描かれるようになったのは、
なにかきっかけがあるのでしょうか。
森本 はい。最初は普通にポストカードを
売るようなことだけしてたのですが‥‥。
ほら、フリマって似顔絵描く人がいますよね。
山下 はい、よく目にします。
森本 そういう人だと思われたのか‥‥
ある日イヌを散歩させているかたから、
「うちのワンちゃんを描いてくれませんか?」
って頼まれたんです。それがきっかけですね。
山下 公園ですからイヌを連れている人、
いっぱいいますものね。
森本 今でもワンちゃんを注文されるかたが
いちばん多いかしれません。こんな感じで。

山下 あははは、いいですねえ。
‥‥ん? ああ! こ、これは!!

森本 ロップイヤーラビットですね。
やはりペットの飼い主さんからのご依頼です。
うさぎ、お好きなんですか?
山下 ‥‥(放心状態)え? ああ、はい、とても。
ですが、うさぎの絵ならば
何でもいいというわけではないのです。
さじ加減があるのです。これはすごいです!
森本 ありがとうございます。
山下 もういちどみてもいいですか。
森本 ええ、どうぞどうぞ。

山下 ああ‥‥。
森本 ペットの他にも注文はいろいろあるのですが、
次に多いのはやはり家族の絵でして‥‥‥‥。

山下 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
森本 あの‥‥。
山下 え? ああ、すみません!
森本 ほんとにお好きなんですね(笑)。
山下 失礼しました。お話お願いします。
森本 はい。家族の、お子さんの絵を
オーダーされるお母さんも多いです。
これですとか。

山下 わ、これはうれしいでしょうねえ。
森本 西原理恵子さんというかたのオーダーでした。
山下 あ、漫画家の?
森本 ええ、ご存知ですか。
山下 もちろん。へえー、そうなんですかあ。
これも、どなたかのお子さんの?

森本 いえ、これは20代前半の女性からのご注文で、
保育園で働くお友だちへのプレゼント用に、
子どもがテーマの絵をというオーダーでした。
山下 そうですかあ、なんか、いいですねえ‥‥。

こうしてお話しているあいだにも、
お客さんは次々お店にやってきます。
常連さんはもちろん、通りすがりの家族、
休日のOLさん。そして仲良しカップルも。


山下 ‥‥ふたりで仲良くカードを選ぶ姿、
ほほえましかったです。
森本 恋人と一緒の絵を、という注文もありました。
ええと‥‥これですね。

山下 ん? ピンクのゾウがいますよ。
森本 その女性がよく井の頭動物園に
いらっしゃるかたで、
ゾウの花子がお好きなんです。
彼氏がディズニーランドのパレードで
サックスを吹いているお仕事なので、
彼の演奏を彼女と花子が聞いている感じで
というご注文でした。
山下 いいなあ‥‥彼女からのオーダーですね。
森本 はい、そうです。
山下 男性からのオーダーというのは、
あまりないものなのでしょうか。
森本 ええ、やはり少ないですが、
40代の男性からこういう依頼はありました。

山下 ‥‥‥‥‥‥カブ。
森本 はい、スーパーカブがお好きな男性から、
哀愁を感じるカブを、とのご依頼で。
山下 ‥‥バイクって、難しくありませんでした?
森本 何度も描きなおして‥‥修行になりました。
無機質なモチーフははじめてだったので。
山下 やわらかいものがお得意そうですものね。
森本 でも、これのおかげで世界が広がったんです。
かたいものも描ける、と。
たとえばこんな建て物とか。

山下 はい、いい感じです。
森本 「モジャモジャの家」という絵なのですが、
山下 モジャモジャ?
森本 ええ、これをオーダーされた女性が、
ツタがモジャモジャからまる家に住むのが
夢ということでして。
山下 絵で先に夢をかなえたのですね。いいなあ。
森本 あ、そうだ、さっきのスーパーカブの男性は
こんな絵もオーダーしてくださったんです。

山下 ええとこれは、お母さん?
森本 いや、その男性の奥さんです。
奥さんのお誕生日に贈る絵のご注文でした。
山下 ああ、粋な男性ですねえ。
カブとか、自分の趣味だけじゃなくて、
ちゃんと奥さんにも‥‥。
森本 ただ、僕がまだ独身なもので、
奥さんというのを絵でどう表現すればいいか
すごく悩みました。
山下 それで、奥さんといえば‥‥。
森本 はい。お掃除かな、と。
山下 (笑)すてきな発想だと思います。
森本 単純なんです(笑)。
でもよろこんでいただけたのでよかったです。
山下 あ、森本さん、お客さまですよ。

僕はすこし離れた場所へと移動。
お店の邪魔になってはいけません。
森本さんは、ひとつひとつていねいに、
絵の説明をお客さんにしていきます。
次々にやってくるお客さんひとりひとりに。
お客さんはみな、たのしいお話をしながら、
お気に入りの一枚をじっくり選びます。
それをまたていねいに袋にいれる森本さん。
しっとりした公園、ゆっくり過ぎる時間‥‥。


森本 ‥‥すみませんでした、お待たせしちゃって。
ええと、どこまでお話しましたっけ。
あ‥‥‥‥‥‥。

山下 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
森本 ‥‥そんなにみていただけて、うれしいです。
山下 ‥‥森本さん!
森本 は、はい。
山下 僕、決めました。描いてください。
オーダーをさせてください!
森本 は、はい。ありがとうございます。

そうして僕は、
森本さんに描いてもらいたい絵のイメージを
あれやこれやと伝えるのでありました。
森本さんは、それを熱心に聞いてくださいます。
またすこしずつ、公園の時間は進みます。
残り少ない枯れ葉が絵の上に舞い落ちました。
絵が完成する1ヵ月先は、
きっともう冬が訪れていることでしょう。




とても、やわらかいかわいさでありました。

イラストレーターの森本さんには、
オーダーで描くもの以外にも
ご自分の好きなモチーフで描いた作品が
もちろんたくさんございます。
それぞれの絵につけられたタイトルが、
とくにすばらしい!
ミニギャラリーをつくってみました。
森本さんからうかがった解説も、
文責・山下で添えてみました。
お楽しみいただければ幸いです。
[minigallery]

森本さんは、
雨の降らない土日の午前10頃から日没まで、
井の頭公園・野外ステージ近くに並ぶ
たくさんのフリマのなかに出店しています。
探してみてくださいね。

また、森本ひであつさんのHPでは、
ポストカードやポスター等の購入ができます。
オーダー絵の詳しい注文方法もこちらで。


[http://www.hideatsu.com/]

というわけで、
お約束よりやや遅くなりましたが、
山下、帰ってまいりました。
これからもマイペースで、
かわいい探しを続けさせていただきます!

2004-11-03-WED

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