第10回 全体を考える。
糸井 川相さんは、現役時代に
「職人」って言われてましたけど、
あれ、呼び名として便利だから
そう言ってただけで、
ぼくは必ずしも「職人」的なところが
身上の人じゃないと思ってるんですよね。
川相 ぼくもよくわかんないですけど(笑)。
糸井 たとえば、川相さんって、
全体のことを考えるのがそうとう好きでしょう?
川相 ああ、好きですね。
それはたぶん、子どものころからです。
ぼく、小学校、中学校と
チームがあんまり強くないところだったんですよ。
だから、全体のことを
考えざるをえない環境だったんです。
糸井 あー。
川相 だから、どうやったら勝てるか、
っていうのを考えざるをえなかったし、
また、自分もそれに向いてたんですね。
練習メニューとかも
ぜんぶ自分で考えてましたし。
糸井 だから、自分の専門をこなす職人というよりは
全体を熱く引っ張っていく人だと思うんですよね。
あの、ぼくは以前、
川相さんの同級生だったっていう人に
会って話したことがあるんですけど、
川相さんは、生徒を代表して
先生に文句を言いにいってくれるような
人だったって言ってましたよ。
川相 ああー、そういうタイプでしたね。
それは巨人に入ってからもいっしょで、
寮の食事があまりにも代わり映えしないんで、
選手を代表して寮長に文句言いに行ったら、
「おまえ、もう寮を出ろ!」って
追い出されたんですよ(笑)。
まぁ、でも、寮を出られて、
ラッキーといえばラッキーだったんですけど。
糸井 ようするに、みんなが言わないなら、
オレが言うわ、ってことですよね。
川相 そうです、そうです。
そのときも先輩が言ってたんですよ。
糸井 ちなみにそれって誰?
川相 Mさんとか。
赤坂 ああ、いまはテレビで活躍中の
Mさんね(笑)。
川相 「あ、だったらぼく、言いますよ」って。
糸井 それ、目に浮かぶわ(笑)!
川相 まぁ、みんなを代表して言うのが
好きなわけではなかったんですけど、
なんか、そういう役割だったんですよね。
糸井 藤田さんも川相さんが
そういう役だっていうのをよく言ってましたよ。
けっこうアイツ、言いたいこと言うんだよって。
川相 (笑)
糸井 でも、そういう役割でありながら
あんまり憎まれないっていうことは、
ただ怒ってるわけじゃなくて、
正当なことを言ってるんだなって
わからせる力があったっていうことですよね。
川相 そうですねぇ。
まあ、それがいいところなのか、
わるいところなのか、わからないですけど。
糸井 でも、資質としてはやっぱり、
チーム全体を引っ張るタイプですよね。
川相 そうですね。
けっこう、自分が思った方向に
突っ走ってしまいますから。
赤坂 たとえば、こんな感じでね。
糸井 来た来た(笑)。
赤坂 川相、ベンチ裏で大暴れ!
川相 これ、カメラマンにバットを
ふりかざしたときじゃない?
赤坂 うん、そう。
「なに、撮ってんだよ!」って。
糸井 わるい顔してますねぇ(笑)。
川相 これ広島戦でしょう?
糸井 これも覚えてるんだ(笑)。
川相 広島戦です。
ボロボロに負けた試合のあと、
ベンチ裏のミラールームで
ひとり暴れてたら、
カメラマンがドアの隙間から
カシャカチャって撮ってたんですよ。
糸井 で、「なに撮ってるんだ!」と。
赤坂 たしか、この一件以来、カメラマンは
ここまで入っちゃいけないことになったんです。
糸井 はははははは。
赤坂 これ、かなり暴れてますね。
ほら、ここ、ゴミ箱倒れてます。
川相 ひどいねぇ。
スパイクも転がってるし。
これ、何年ですか?
赤坂 95年ですね。
川相 95年ってことは‥‥。
赤坂 ええと、「10.8」に勝ったあと、
日本一になった翌年。
ってことは、野村ヤクルトが
日本一になった年ですね。
ほら、えーと、巨人が広沢さん取って、
ハウエル取って、シェーン・マック入れて。
糸井 あーー、ぐしゃぐしゃな年だ。
赤坂 それで、取られたヤクルトが
オマリーを補強して、勝っちゃって(笑)。
糸井 巨人にとってはひどい年でした。
だから、この暴れてる川相さんっていうのは、
ある意味、巨人ファンの代弁者なんですよ。
ここに書いてある見出しの
「8月反攻どころか‥‥」っていうのが
この年のファンの気持ちを
如実に表してますよね。
川相 そうですね(笑)。
糸井 この1年、どうしてくれるんだ、
みたいな気持ちなんですよ、ファンは。
川相 ほんと、そうですよね。
糸井 いやぁ、しかし、
なにかと派手ですね、この選手。
赤坂 そうなんですよ(笑)。
糸井 「職人」どころか、こう、
「地味」を売り物にした
「派手」な選手ですよね(笑)。
赤坂 かたや、スクイズで一面、
かたや、暴れて一面ですから。
川相 いやー、
暴れて一面になる選手って
なかなかいないよね。
赤坂 いないですよ。



(つづきます)
2010-12-14-TUE
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