主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート50
パスタや青菜を茹でるときに塩を入れるのと
雪道に塩をまくのは同じ原理ですって?!
──塩と氷とお湯の科学。


遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
カソウケンの研究員Aです。
皆さま、年末年始はいかがお過ごしでしたか?

カソウケンの所在地である東京地方は
大晦日の雪がとんでもないことになっていました。
あんなに積もった雪を見たのは
仙台からこちらに移転してきてはじめてな気が。

物珍しいのか、降りしきる雪の中で
ひゃっひゃと小躍りしていた研究員Bと研究員C。
雪が積もった明くる日の元旦は、
庭で雪だるまなぞ作って楽しんでいたようです。

このように小さい人にとっては
楽しいことだらけの雪ですが、
大人にとっては何かと面倒が多いもの。
そのうちのひとつは、雪で凍結した道路!

年末にやっとのことで自動車免許を取得した研究員A。
(齢三十にして頑張りましたとも)
お正月中に練習に励もうと思ったのですが
凍結した道が怖くて思うようにできませんでした。
だってねー、自動車学校でさんざん
凍結した道の怖さについて
たたき込まれましたから。
それに、もともと運転技術に自信ないしっ
(開き直るな)。

そうなんですよね、雪道の何がやっかいって
雪が降った直後ではなく
いったん溶けて、再び凍結すること。
これでつるつる滑ってしまう。

このまずい状況を防止するために、雪深い地方では
食塩(や、それにかわるもの)を蒔いたりします。

これに潜む科学って、実は
「パスタや青菜を茹でるときに塩を入れる」
という理屈に通じているものなのです。
一件なんの関わりはなさそうですが、根っこは同じ。

というわけで、これらに共通する科学である
「凝固点降下」「沸点上昇」について
レポートします!

まず雪道。塩を雪道にまくと
氷になる温度が、
純粋な水よりも低くなります。

なぜ雪道に食塩を? ということですが
この食塩には
「いったんとけた雪が
 再び凍りにくくなる働き」
があるのです。
どういうことか、もう少し詳しく見てみましょう。

水の温度を下げて氷になるとき
水の分子はいったいどんな動きを
しているのでしょうか?

温度が低くなるにつれて
分子の活動はゆっくりになります。
水の分子たちの動き回るパワーが
小さくなると
分子たちの間に働く「引力」のほうが上回ります。

そこで、
「ゆるゆるに繋がっていて自由が高かった水」
から
「ぎちぎちに規則正しく整列した氷」
に変化するわけです。

こちらの話はもう少し詳しく「圧力鍋の科学」
イラスト入りでご説明しているので、
わかりにくい方はぜひそちらをご参照下さい。

このとき、水以外に食塩などの
「じゃまもの」が入っていたらどうなるでしょうか?
0℃できっちり整列して氷になりたいっ!
と水分子たちが思っていたとしても
じゃまものである食塩のせいで
なかなか固体になりきれません。
もっと温度を下げなくては
氷になることができないのです。

というわけで、食塩入りの水は
0℃では凍ることができず、
もっと低い温度になって
動き回るパワーを小さくしてやらなければ
氷を作ることができないのです。

要するに、食塩入りの氷は
氷になる温度=融点が、
純粋な水よりも低くなります。
これを凝固点降下といいます。

小学校の時、氷に塩を入れて「冷たい氷水」を作って
アイスキャンディーを作った実験の記憶のある方
いらっしゃいませんか?
あれが、この凝固点降下を確かめる実験だったのです。

さて、雪道に食塩をまくということは
「じゃまもの」を雪に入れちゃうということになります。
そうしておくと、
いったん昼間のあたたかい日差しで溶けた水が
夜間で冷えたときに「凍りにくく」なります。
だから、凍結防止のために役に立つ!
ということになるのです。

ちなみに、この「じゃまもの」として有効なのは
食塩だけではなく、基本的に他の物質でも
オッケーです。
このじゃまものが多ければ多いほど
凍るときの温度が低くなります。

注)
融雪剤として食塩(NaCl)や塩化カリウム(KCl)ではなく
塩化カルシウム(CaCl2)を使う場合、
融雪剤が溶けるときに発生する「反応熱」で
雪が溶けるのをさらに促進する効果があるようです。
各物質の溶解熱のデータ
塩化カルシウムはダブルの効果で使える、
と言えそうですね。

水と氷が一緒にある「氷水」は普通0℃です。
氷水である限り、0℃以下にはなりえません。
ここに食塩などを入れると、「じゃまもの」が増えて
なかなか氷になることができなくなるので
どんどん氷水の温度が下がっていきます。

水にめいいっぱい食塩を溶かすと
(飽和食塩水:
 凍る温度はなんとマイナス30℃に!!)
これはもう立派な冷却手段になります。
こんな氷水にぼーっと手を入れたりしたら
余裕で凍傷になるのでご注意。

ではお湯。沸騰させるのに塩を入れると
沸点が高くなる。
でもなぜ青菜にはそのほうがいいの?

さて、食塩水を凍らせるときは0度以下になりました。
逆に、この食塩水を沸騰させるときは
どうなるでしょうか。

水が沸騰するとき
水分子の動き回るパワーがどんどん上がって
水の表面から分子が外に飛び出し
蒸気になろうとします。
ここで、食塩のような「じゃまもの」があると
外に飛び出しにくくなっちゃいます。

皆さんもうおわかりの通り、
このようにじゃまものがあると
沸騰するときの温度は
通常の100℃よりも高くなります。
これが「沸点上昇」です。

圧力鍋の科学で
「沸点を上げるために圧力をかける」
という話をしました。
沸点を上げるための操作としては
圧力鍋に限らないのです。
このように、じゃまものとしての
食塩などを入れることも
わずかではありますが沸騰するお湯の温度を
上げてしまうことができるのです。
こちらも「プチ圧力鍋効果」といえましょう
…ってさすがに大げさですが。

このプチ圧力鍋効果(だから言い過ぎだって)を使うのが

・パスタを茹でるとき
・青菜を茹でるとき


です。パスタを茹でるときに塩を入れるのは
いろいろな効果があります。
・パスタに塩味をつける。
・塩を入れてグルテンのコシを強くする。
(カソウケン本部のグルテンの科学参照)

この2つだけでも大いに意味がありますが、
それだけではなく、沸点を上げることで
「効率よく」茹でることができるのです。

青菜の場合はどうでしょう。
青菜を見た目よく茹でるためには
高温でさっと茹でなければなりません。
そうしないと黒くなってしまうからです。
これはなぜでしょう?

青菜の緑色は
クロロフィルという色素によるもの。
ポルフィリンという化合物の真ん中に
マグネシウム(Mg)という金属が
すっぽり入った形をしているということは
「肉の赤身の科学」でもちらっとお話ししました。
(ちなみに、この真ん中の金属が鉄(Fe)だと
肉の赤身の色になる)

この真ん中のマグネシウムが外れてしまうと色があせ
褐色のフィオフィチンというものになってしまいます。
これは長時間加熱を続けると起きてしまうのです。

だから、できるだけ高温で「さっ」と
加熱をすませなければならないのです。
そんな理由で「たっぷりのお湯」を使い
「沸騰した中」に入れるのです。
ちなみに、茹でたあと水にさらすのも
いつまでも熱い状態にして加熱を続けないため、です。

だから、少しでも高温である方が有り難いのです。
塩を入れて、「プチ圧力鍋効果」により沸点を高くすると
短時間で茹でることに役に立つ、ということになります。

そして、塩を入れることは
もう一つの大事な利点があります。
食塩の成分は塩化ナトリウム。
この中のナトリウムが
クロロフィルのマグネシウムと一部置き換わります。

ナトリウムに置き換わっていると
この褐色に変化する反応を
多少とも抑えることができるというのです。

なるほど〜っ!!食塩ってほんとうに働き者ですねえ。
一人何役もこなしているのですからたいしたもの。
お料理における食塩の役割だけとりあげても
2〜3のレポートになりそうなので
また回を改めたいと思います。

今 日 の 結 論

「じゃまもの」を
水に入れると
水の沸点・融点を
変えることができる。

水の中に何かが入ってるかいないかで
こんなに挙動が変わってしまうところが
面白いところ! ですよね。



参考サイト
財団法人塩事業センター

参考文献
「こつ」の科学 杉田浩一著 柴田書店
調理とサイエンス 品川弘子他著 学文社
化学・意表を突かれる身近な疑問 日本化学会編 講談社
化学精義 竹林保次著 培風館

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2005-01-07
-FRI


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