ほぼ日刊イトイ新聞 すてきなふだん字。 葛西薫さんと「字」のことを話しました。

006)個人とチーム。
糸井 ぼくは、今日まで、葛西さんという人は
仲畑くんに迷惑をかけられてるんだと思ってました。
でもやっとつながったんですよ。
展覧会の作品を通して、
葛西さんのわがままが見えたことで。
葛西さんが受け持ってくれてるジャンルが
ものすごくしっかりしてるから、
大丈夫だったんだって。
葛西 なるほど。
糸井 仲畑くんを通して見ていた葛西さんは、
あんな乱暴者通して見たら、
健気な女房役というふうにしか
見えないわけで、
そしたら、今日、あのフィギュア偏愛のね、
エロティックが見えたから。
いやー、おもしろかったなぁ。

広告ってもう1回ここまで
古く考えちゃえるんだな、
というところに、戻ればいいんだな、
って、今日思った。
つまり、画家とパトロンの関係くらいまで
戻しちゃって考えた方がいい。
つまり、サントリー宣伝部に戻れ、
ってことなんですよね。
葛西 そうですね。
まったく同じこと思ってました。
当時のサントリーって
字を書く人、絵を描く人が入れ替え自由で
一緒になって、ポンと作ってましたよね。
あの気分はすばらしい手作りというか、
人の全知全能を使ってますよね。
機械にはできないものに対して。
いまは、スタッフをがちっと組み込んでるから、
何も動かないですもんね。
カチンカチンで。
動かすとしたら
組織変えなきゃダメなんですよね。
いま人事まで口出さないと
デザインが変わらないんだと思う。
そんな時代になっちゃったんですね。
糸井 そうでしょうね。
いま、システムの中から
偶然に生まれてくるものが、
昔、個人の中から偶然生まれてきたものと
匹敵してますよね。
たぶん、葛西さんも今は、
チームプレイ好きな部分が
増えてるでしょ。
葛西 そうですね。
糸井 昔と違いますよね。
個人で一人で夜中にすることとは、
まったく違う部分ですよね。
葛西 でも、両方だいじょうぶですよ。
糸井 両方、好きですよね。
ユナイテッドアローズのアニメーションは
イタリアの作家と組んだとおっしゃってたけれど、
そういうときは
言葉全部わかるはずないわけで。


葛西 まったくね‥‥。
途中途中でストーリーを考えながら、
すこしずつつくっていくんですけれど、
それで、日本人よりうまくいくんですよ。
糸井 うわー、しびれるね。
葛西 そのとき、ほんとうに思いました。
言葉が通じないっていいことだなって。
動物同士だなと思ったんですよ。
犬と犬がキャンキャンキャンキャン
言ってるだけで、
形になって、絵描いたの見て、
二人して腹よじれて、笑うんですよ。
糸井 その人はイタリア語?
葛西 イタリア語だったり、
英語を必死でしゃべるんだけど
ほとんどできないんですよ、英語が。
このぼくの方が知ってるくらいで。
そのときの通訳の人が言うんだけど、
二人のコミュニケーションの
緻密さが、信じられないって。
そのくらい親しくなっちゃいましたね。
糸井 それは、あれだな。
松坂大輔がレッドソックスの
みんなと抱き合ってるシーン。
いいセリフがあったんです。
「2月から長かったです」って。
その当時はロッカールームで着替えてるときも
誰になんて話していいかわからないし、
どうしていいかわからない。
そんなところから始まったのが
いまはこうやって
みんなと抱き合えてるんです、
って。
葛西 いいですねぇ。
糸井 しびれますね。
野球だけしてきて
そうなったわけですよね。
いいねぇ。
葛西 一緒に一つのものを
作っていくときって、
全体を包含するくらい、
強い理由ができてきますよね。
糸井 そういう気持ちで作品とも接することを
お客さんがしてくれたら、
いい出会いがまたできるね。
葛西 ええ。
糸井 たぶん、みんな、
研究しようと思っちゃうと思うんですよね。
葛西さんの物を見ると。
研究するのは、
自分が作ってるものを研究したほうがいいのに。
目の前にある自分の作品をね。
葛西 自分の持ち駒をどう生かすかというのは
考えるのおもしろいですよね。
冷蔵庫に豆腐と醤油しかなかったら
どのくらい食っていけるか、とか、
ロビンソンクルーソー的な工夫というのが
大好きなんです。
糸井 そのときに、
あっては困るものってあるんですか。
葛西 うまく言えないけど、ありますね。
糸井 そこを、知りたいです。
葛西 似たような理由で
「葛西さん、どんなものが作りたいですか」
って言われると答えられないんだけど、
嫌いなものは、はっきりしてますとは言えるんです。
これだけは、やりたくない、
これだけは嫌いだ、というの外していくと、
残ったものが自分の好きなものだっていうことですね。
糸井 ぼくも、いま、そんな感じで
興味を持ったんですね。
好きなもの、嫌いなものというよりは
葛西さんは、みんな好きですよって、まず、
一回言っちゃいそうですもんね。
葛西 いや、許せないものはたくさんありますよ。
糸井 「勘弁してくれ!」って?
葛西 それはありますね。
糸井 じゃ、そこから文字の話に移りましょうか。



2007-12-21-FRI

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