きょうの対談は、
みなさんがふだんされている話の、
反対のことを話す場になる気がします”

広告・マーケティングの未来を語り合う
国際会議「アドテック東京 2017」での、
JR九州の唐池恒二会長と糸井重里の対談は、
このような言葉からはじまりました。

唐池さんといえば、
豪華寝台列車「ななつ星」の生みの親。

ご自身の経験をもとに、
人を感動させる秘訣のようなものを、
糸井とたくさん語ってくださいました。

さまざまなヒントに満ちた、全4回です。

唐池
「手間をかける」ことでいえば、
糸井さんの「ほぼ日」だって、
ものすごく手間がかかっています。

ひとつひとつの
コンテンツもそうですし、
さきほど見た
「生活のたのしみ展」もそうです。
糸井
「ほぼ日」は本当に
「労働集約型」なんだと思います。

たいへんな思いをするだけ、
人はよろこぶみたいなところが、
どこかにあるんでしょうね。
その大もとにあるのって、
「人がすることを、人はよろこぶ」
という考えなんだと思います。

たとえそれを、機械ができるとしても。

唐池
さらにつけ足すなら、
「人がまじめに、
一所懸命することを、人はよろこぶ」
ということですよね。
糸井
そうだと思います。
いろんな説がありますが、
人類(ホモ・サピエンス)の誕生が、
ひとまず20万年くらい前として、
いろいろ便利になってから、
まだ300年も経ってないですよね。
唐池
そうですね。
糸井
そうやって考えると、
いまのような便利な時代に、
生物としての人間の体や、
機能や、感情とかは、
まだ追いついていない気がする。
不便だった時代の
19万何千年という積み重ねの上に、
いまの人間がいるわけで、
そうやってつくられてる人間を、
どうしたらよろこばせられるのか。

そのあたりを
もうちょっと考えてもいいのかなぁ、
と思っているんです。

唐池
だから、手間をかけて‥‥
(会場の進行のほうを見て)え? 
あら、もう時間だそうです。残念。
糸井
はい、タイムアップのようです。

ぼくはあと2時間ぐらいは
平気でやれますが(笑)。
ええ、どうすればいいのかな‥‥
(まわりに向かって)じゃあ、
ぼくたち、もう帰っちゃいます。
観客
(笑)

進行
(慌ててマイクを持ち)
ああ、ちょっとまってください! 
もっとお話をお聞きしたいところですが、
ここからは「Q&A」とさせてください。
お時間の都合で
おひとりだけとなるのですが、
なにかご質問がある方は‥‥
あ、はい! では、そちらの男性の方!
男性
いや、まさかこんな
贅沢な質問ができるとは‥‥。

きょうはありがとうございました。
いま、おふたりは
「手間をかけること」が
感動を生むとおっしゃいました。

それは事実だと思います。

でも、それは
必要十分条件ではないというか、
手間をかけたからといって
必ず感動してもらえるわけでは
ないような気がするんです。
そのあたりのご意見を
お聞かせいただけますでしょうか。
糸井
うんうん、そうですよね。

じゃあ、これは唐池さんから
先に答えてもらおうかな。
唐池
はい、わかりました。

おそらく、ポイントは
「どの方向に手間をかけるか」
だと思うんです。

わたしの場合は
「自分がよろこぶ方向」に
手間をかけるようにしています。
自分が食べたい店、食べたい焼きとり、
行きたい店、乗りたい列車など、
いつも自分で自分を
マーケティングしています。
わたしは鉄道会社の会長ですが、
じつはその、あんまり‥‥
(小声で)鉄道が好きじゃない。

観客
(笑)
唐池
でもね、そんな男がですよ、
たのしくてワクワクするような列車を
水戸岡鋭治さんといっしょに
つくってきたんです。

だから「ななつ星」は、
「鉄道が好きじゃない男でも
乗りたくなるような列車」
ともいえるんですよね。
レストランも同じです。

「自分が食べたくなる店」だったり、
他の店の「いいなぁ」というのを、
自分の店で惜しみなく手間をかけて
再現しています。

自分の好みに向かって手間をかける。

そんなところでしょうか。

糸井さんはいかがですか?
糸井
いまの話は、
ぼくも聞きたかったくらいでした。

ありがとうございました。
ぼくの答えはわりと単純です。

珍しさがないものって、
やっぱり人に素通りされるんです。

つまり、いまはあまりにも
手間をかけない時代なので、
「手間をかける」ことが、
もうすでに珍しいことなんです。
唐池
ああ、なるほど。
糸井
手間をかけていると、
それを見た人が
「なんでこんなにも手間をかけるんだろう」
って立ち止まってくれます。

それをまじめにつづけていると
「なんでだろう」という場所から、
もっと近づいてきてくれて
「ああ、なるほどねー」という
共感が生まれたりもします。
珍しさと共感。

このふたつが得られたときに、
成り立つようなことって、
きっとたくさんあるんだと思います。

ぼくの考えは、
そんなところでしょうか。
唐池
きっと質問された方にも、
ご自身の考えがあるんでしょうね。
糸井
そうでしょうね。

本当はいまの答えから、
もっとしつこくやりとりしたほうが
いいとは思うんです。

(会場の進行のほうを見て)
でも、まあ、とりあえずきょうは、
時間がないようなので‥‥ね。

男性
あ、はい、ありがとうございます、
ありがとうございます。
糸井
お互いにがんばりましょう。

本気ですからね。本気、本気。
唐池
そうですよ。

(自分の本を手に取って)
本気になって何が悪い(笑)。
観客
(笑)
糸井
また唐池さんと、
こういうのやりたいなー。

こんどは5時間ぐらいね(笑)。
唐池
ぜひやりましょうよ。

きょうはたのしかったです、
ありがとうございました。
糸井
こちらこそありがとうございました。

聞いてくださったみなさんも、
どうもありがとうございました。
観客
(大きな拍手)

(おわります。最後までお読みいただき、

ありがとうございました。)

2017-12-18-MON