第4回 大徳川展から広がる景色
モギ
ねぇねぇ、そこもとたちはさぁ、
自分の苗字って、好き?
シェフ
は?
モギ
それがしはさぁ、
あんまり好きじゃないんだよねぇ。
だってさぁ、「茂木」だよ?
「木が茂る」だよ?
これ、絶対、武士じゃないよねぇ。
永田
その例にならうならば、
拙者も「永遠に田んぼ」でござる。
べっかむ3
それがしなどは「石と川」でござる。
川に石がゴロゴロしてござる。
あやや
その点、「松の本」っていうのは
なかなか風情じゃないですか?
モギ
でも、どっちかっていうと
公家っぽいというか、
武士っぽくはないよねぇ。
永田
武士っぽい苗字がよかったの?
モギ
武士っぽい苗字がよかったよーーー。
‥‥むっ! やい、そこの番頭!
シェフ
へい、なんでございましょう!
モギ
そのほう、名をなんと申す!
シェフ
おそれながら、
「武井」と申しまする。
モギ
「武井」の「武」は、
「武士」の「武」ではないか!
シェフ
め、めっそうもございません!
手前などは駿府のしがない
和菓子屋のせがれにすぎませぬ。
どうか、お目こぼしのほどを‥‥。
モギ
ならぬ!
「武士」の「武」の字をいただきながら、
ご公儀への忠義を軽んじ、
日々、食道楽におぼれるとは何事か!
シェフ
近頃は倹約につとめてござる。
昼食はお弁当にござる。
ジムにも通ってござる。
あやや
‥‥武井さん、のってきましたね。
永田
‥‥設定さえ決まれば、
どんな小芝居もこなす人ですよ。
べっかむ3
‥‥あっぱれでござるな。
モギ
あな、口惜し!
それがしの苗字に「武」の文字あらば、
天命に邁進し、何事かなしえんものを!
シェフ
おだまりなされ!
茂木殿には、まだ、
とっておきの策が残ってござるぞ!
モギ
まことか! 申せ、申せ。
シェフ
お嫁入りあそばせ!
モギ
むきーーー!
永田
‥‥なんだこりゃ。
あやや
‥‥さっさと「大徳川展」について
しゃべりましょうよ。
べっかむ3
‥‥今回で終わりですしね。
シェフ
お嫁入りあそばせ!
お嫁入りあそばせ!
モギ
むーーー、どこぞに、
白馬に乗ったお世継ぎはおらぬかのぅ‥‥。
江戸時代の文字と家光について
シェフ
‥‥‥‥で、なんでしたっけ?
あやや
「大徳川展」、「大徳川展」。
展示内容についてしゃべってる途中。
シェフ
‥‥もう、自分の設定が
よくわからなくなります。
べっかむ3
しっかりしてください。
永田
ええと、まだ語ってないものは‥‥。
モギ
武井さん、活版印刷の展示に
見入ってなかった?
シェフ
ああ、そうそう。
活版印刷が古くからあったことは
なんとなく知ってたんですけど、
家康の時代に活字があって、
出版事業まで手がけていたというのは
けっこう驚きました。
あやや
しかもこの活字、字体が、
現代とあまり変わらないんですよね。
保存状態もすばらしくて。
シェフ
そうそう。
あと、なんていうんでしょう、
活字のキレイさっていうのかな、
「こういう字が美しい」とされている
理想のようなものが、
現代のそれと変わらないことも
興味深かったですね。
べっかむ3
「美人の基準」とかって、
時代によって大きく違うといわれてますけど、
文字のキレイさは、
昔もいまも変わらないんですね。
シェフ
うん。
いわゆる教科書に出てくるような文字が
家康のころから活字になってるんですよ。
モギ
ああ、それはほら、
源流が中国にあるからじゃないですかね。
中国にね、書聖と呼ばれている
「王義之」っつう人がいてね、
その人の字がいちばんキレイだと
されてるんですよ。
で、その字が楷書の模範なのよ。
シェフ
へぇ〜。
永田
くだけた口調で
なかなか学のあることを言ってますね。
シェフ
この人は、妙なところに教養があるんですよ。
モギ
たまにほめられると照れくさいので、
活版のイラストを出しておこう。
クリックすると、拡大してご覧いただけます。
あやや
‥‥出さないほうがよかったですね。
永田
そもそもなんでモギちゃんが
イラストを描いてるの?
モギ
いまごろそんなこと言わないでよ!
シェフ
まぁ、イラストはさておき、
文字のことでいうと、
なんとも味わい深い書を
書いた将軍がいましたよね。
べっかむ3
五代将軍、綱吉ですね。
あやや
そうそう! 味写ならぬ、「味書」!
なんだっけ、「ジャムシ」?
モギ
そうそう、「ジャムシ」!
シェフ
「ジャムシ」じゃありませんよ、
「思無邪(おもいよこしまなし)」です。
永田
右から読ませるんですよね。
あやや
でも、パッと見、「ジャムシ」!
モギ
イラストにするとこんな感じ。
クリックすると、拡大してご覧いただけます。

べっかむ3

ええと、これは、
イラストのせいもあるんですが、
イラストのせいだけじゃなく、
なかなか味わい深い書なんですよね。
永田
ま、ぶっちゃけ、つたない字であると。
モギ
ぶ、無礼な!
シェフ
でも、これは、上手じゃないよねぇ。
笑っちゃったもんね。
あやや
下手というよりは、かわいらしい感じ?
シェフ
そうそう。
ほんとうに「よこしまなし」な感じ。
綱吉って、犬将軍の人でしょ?
べっかむ3
そうです、そうです。
肖像画も展示されてあったんですけどね、
なんか、「犬公方」として有名なわりには、
冴えないというか、印象の薄い感じで、
あの「ジャムシ」とあいまって、
味わい深かったですね。
ちなみにぼくは奈良出身なんですけど、
綱吉は法隆寺にずいぶん献金してくれた人なので
「味わい深い将軍」として、
今後はちょっと味方していきたいなと思いました。
モギ
将軍様の肖像画を
私なんぞがイラストにするのは
たいへん僭越ですが、
職務上、提出させていただきます。
クリックすると、拡大してご覧いただけます。

永田
‥‥‥‥あんまりだろう、これ。
シェフ
‥‥‥‥あと、なんでバストショットなの。
モギ
つべこべ抜かすと、鯉口を切るぜ?
べっかむ3
‥‥ともかく、徳川綱吉さんは
味わい深い将軍様でした。
ちなみにこの肖像画も法隆寺蔵。
永田
将軍の書でいうと、
ぼくは家光のこの書がよかったですね。
モギ
これですな。
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永田
本物はもっといいんです、
ということはおいといて、
興味深かったのは、添えられていた解説で。
「三代将軍家光というのは、
 『生まれながらの将軍』として育った人で
 のびやかな書を数多く残している」
って書いてあったんですね。
つまり、その育ちのよさとか、豊かな環境が
この書には表れていると。
なぜなら、家光って、
生まれたときから将軍だったから。
あやや
あーー、なるほど。
「生まれながらにして将軍」って
家光が最初だったんですね。
永田
そうそう。
おじいちゃんの家康が
将軍になったのは晩年でしょ。
その子の秀忠も、ある日突然
お父さんが将軍になって
お世継ぎになったわけだけど、
家光からは、生まれたときから
「将軍家の世継ぎ」なんですよ。
そんなふうに思ったことなかったなあと思って。
シェフ
今回展示されているものも、
家光の時代のものが多かったですよね。
きちんと「家柄を残す」ということを
意識していた人だったのかな。
永田
家康が礎となった「徳川幕府のシステム」を
完成させた人が家光ですからね。
べっかむ3
参勤交代、鎖国の完成‥‥。
モギ
家康の肖像を、狩野探幽に
山ほど描かせてたのも家光でした。
シェフ
いろんな家康を、
ものすごい数、描かせてましたね。
あやや
しかも、東照大権現様として
神格化して描いてましたよね。
あれは、つまり、徳川のご威光を
知らしめるために描かせたんですかね。
シェフ
じゃないですかねぇ。
ようするに、おじいちゃん(家康)を
神様にしちゃうと、幕府としては、
なにかと都合がよかったんでしょう。
べっかむ3
そのあたりも、家光は
おじいちゃんの意向をわかってたんでしょうね。
ゆくゆくは、地方地方の殿様の床の間に
権現様の肖像画を飾らせたかったんだろうね。
永田
それが一般家庭にまで普及すると、
キリスト強の十字架のように
信仰対象にまでなるわけだろうし。
あやや
ああ、なるほど、なるほど。
モギ
いちおう、描いとく? 権現様も?
といいつつ、こんな出来映えでゴメン‥‥。
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永田
‥‥笑わせようとしてるだろう!
モギ
‥‥狩野探幽の絵を
模写する身にもなってくれい。
意味にあふれた「大徳川展」
シェフ
この展示会、全般にいえることなんですけど、
その品の、美術的な価値というよりも、
歴史的価値、意味としてすごいものが
たくさん、展示されてますよね。
あやや
うん、うん。
シェフ
とくに、茶道具とかは、
まあ、ぼくらに美術的な価値が
わからないというのもあるけど、
「誰が誰にどう贈った」みたいな意味がすごい。
あやや
とくに、あれがすごかったですね、
千利休の茶杓! 銘は「泪」!
シェフ
そう、あれ!
もう、ほんとうに、シンプルな、
茶杓なんですけどね。
モギ
これですな。
シェフ
いや、いまイラスト出さないで‥‥。
モギ
しかし、流れ上、ここで出しておかないと。
シェフ
でも説明しづらくなるから、わぁ‥‥。
モギ
千利休の残した国宝、
「泪」がこちらでござる! ドン!
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あやや
‥‥‥‥耳かき?
べっかむ3
‥‥‥‥孫の手?
永田
‥‥‥‥ナナフシの死骸?
モギ
どうだ。えっへん!
シェフ
‥‥ともかく、モノとしては、
非常にシンプルな茶杓なんですよ。
まあ、ここまで、棒っきれじゃないですけど。
モギ
失敬な。
シェフ
ところがこれには言われがあって、
つまり、千利休が秀吉に
切腹を命じられるわけですね。
で、千利休の最後の茶会で用いられたのが
このシンプルな茶杓なわけです。
それが、その場に居合わせた古田織部に渡る。
この、一切の流れが「国宝」なんです。
永田
しかもそれが、最終的には
徳川に渡っているというのがすごいよねー。
モギ
けっきょくさぁ、
戦国武将が後生大事に持ってたものって、
ほとんど、家康公が回収してるんですよ。
なんつったって、「召し上げる」わけですから。
あやや
「召し上げ〜」!
モギ
「それもこれも召し上げ〜」!
シェフ
「その都度、召し上げ〜」!
永田
‥‥どうして武井さんは
「召し上げ〜」だけ、のるんですか。
シェフ
なんか、好きなのよ。
モギ
ともかく、あの時代のお宝って、
ある意味、権力の象徴だからさ。
権力のもとに集まってくるんですよ。
そのおかげでこんな展示会もできるわけです。
永田
その流れの顕著なのがあったよ。
ええと、これこれ、この茶入。
モギ
銘は「新田」ですな。
これは、描きやすそうだ。
クリックすると、拡大してご覧いただけます。

べっかむ3
‥‥ただの容れ物だ。
シェフ
‥‥風情もへったくれもない。
あやや
‥‥召し上げたくない。
永田
まあ、絵はともかくですね、これは、
千利休が「天下の名品」と賞したもので、
秀吉の時代からお宝とされていたらしいんですが、
それを、家康が大阪城をおとしたあとに、
焼け跡を探させたそうなんですよ。
モギ
へぇー! それは読んでなかった!
シェフ
すごいね、それ。
「あの茶入れがあるはずだ!」って?
永田
そうらしいですよ。
それを知ってこれを見るとね。
また、見え方がまったく変わって‥‥。
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べっかむ3
‥‥あんまりよく見えてきませんけどね。
あやや
‥‥よけいに、みすぼらしく見えてきた。
永田
ともかく、そういう、
「意味」の満ちたお宝なんです。
モギ
力及ばず、申しわけござらん。
べっかむ3
おんなじような品が刀にもありましたよ。
尾張徳川家に伝わる「長光」。
ええと、先にイラストを出してもらえますか?
永田
あ、いっそ、そのほうがいいかもね。
モギ
なるほど。
クリックすると、拡大してご覧いただけます。

べっかむ3
‥‥‥‥まあ、いいや。
この「長光」は、もともとは、
織田信長の愛刀だったそうなんですけど、
例の本能寺の変のあとで、
明智光秀が安土城から持ち帰って、
当然、三日天下の光秀のところに
とどまるわけもなく、
いろんな人の手に渡って、
徳川綱吉の手に渡り、その後、
六代将軍家宣によって、
尾張徳川家に贈られたということです。
モギ
うぅ〜〜〜ん、波乱なり!
永田
いいねぇ。たまらないですねぇ。
べっかむ3
本能寺の変とかさ、時代劇や小説なんかで
何度となく描かれているから、
なんとなくフィクションのような
よくできた作り話のような
気がしてきちゃうんだけど、
こうして実際に伝わっているものを見ると、
「ああ、明智光秀という人がいたんだなぁ」
というような、「もの」自体から、
その周辺の景色が広がってくる感じがして
すごく不思議な感じがしたんです。
シェフ
うん。その不思議な感覚、おもしろさこそが、
この「大徳川展」の醍醐味ですよね。
永田
まさに、まさに。
モギ
そのとおりにござりまする。
シェフ
さて、べっかむさんが
うまくまとめてくれたところで、
この長々とした感激トークを
終わりましょうかね。
あやや
最後にひとつ、いいですか?
能面のコーナーに、
べっかむさんがいましたよね?
シェフ
え?
永田
なにそれ?
あやや
ほら、この能面。
モギ
あーーー! べっかむさんだ!
シェフ
ほんとだ!
永田
あやちゃん、お手柄!
べっかむ3
‥‥‥‥たしかに。
   
 
(おしまい)
2007-11-25-SUN

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今回の感激団メンバー
モギ べっかむ3 あやや
シェフ 永田  



 
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大徳川展 開催概要
会期:2007年10月10日(水)
       〜12月2日(日)

場所:東京国立博物館・平成館
   (上野公園)

時間:午前9時半〜午後5時 
   金曜日は午後8時まで開館。
   入館は閉館の30分前まで。
   毎週月曜日休館。