episode3. ドラマづくりは、大ギャンブル。
ジョージ
Huluって、いろんなドラマを
「試し見」しやすいじゃない?
それでボクね、Hulu でドラマを見るようになって、
アメリカとかの海外ドラマが
「ケーブルテレビ用に作られてた」というのが
よぉーくわかったんです。
ほぼ日
「ケーブルテレビ用に作られてた」?
ジョージ
ええ。海外ドラマって、第1話の冒頭で
ガツン! とこさせるのね。
1話目を見て「これ、来たかもしれない!」と思うと
2話目に行くけど、
そうじゃないともう見ないから、
とにかく最初のタイミングで、
視聴者にかなり強めの刺激を与えるのよ。
一同
ああー。
原園
それ、わかります。
しかも頭10分くらいで
見事にガツンと見所がありますよね。
ジョージ
そう!
日本のものだと、最初はゆっくりはじまって
「フツーかと思ってたけど、やだ!
 ‥‥だんだんおもしろくなってきたじゃない!」
みたいなものもあるけど、その感じとは違うのね。
海外ドラマって、日本のドラマとは
まったく別の種類のものだと思いました。
杉山
しかもけっこう毎回、最後の
「え、いまこのタイミングで?」
みたいなところで
「次回どうなるの?」
と思わせる展開があったりもしますよね。
ジョージ
ほんとそうなのよ!
とんでもないところでグイグイくるの。
原園
グイグイ、きますね(笑)。
海外ドラマの場合、人気がないと
エピソード数を減らされることもあるので、
常にすごくシビアに作られてるんです。
ほぼ日
海外ドラマってそもそも、
どうやって企画の立ち上げから
実際の放映まで行くんですか?
原園
以前、映画やドラマの投資を
している人から聞いたんですけど、
たとえば春のシーズンがはじまるとしますよね。
するとまず、局が世界中から
ドラマの企画を山ほど集めるそうなんです。
そして、おもしろそうなものを
6、7作品ピックアップして、
それぞれに、かなりしっかり作り込めるくらいの
相当な額のお金をあげて、
パイロット版を作ってもらうそうなんです。
具体的な額は言えないんですけど、
正直、相当です(笑)。
ほぼ日
あ、最初から、かなり相当な額を。
原園
ええ、それこそびっくりするくらいの
金額の投資をして、作ってもらって、
出来上がった6、7作品などを見るわけです。
で、できてきた中に
1、2作品よさそうなものがあったら
ようやく「やりましょうか」という感じになるけど、
最悪‥‥全部ボツ。
ジョージ
やだ、すごいのね。
原園
しかも「このドラマをやりましょう」となっても、
まずその前に、放送枠が空かないといけないんです。
そして、枠が空いたら流せるけれど、
放映になってても、人気がないと2、3話で
すぐ中止にしちゃったりもする。
運よくたとえば13話、1シーズン続いたとしても
シーズン2まで行くのは、
もうほんとうにひと握りなんだそうです。
ほぼ日
ほんとすごいですね‥‥。
大量のお金をかけて、さらにその中で
ほんのわずかの作品しか日の目を見ないというか。
原園
だから海外ドラマって、シーズン2まで続いて
はじめて稼げるんだそうです。
それまでに巨額のお金をかけているから。 
その話を聞いてぼくが
海外のドラマづくりについて受けた印象は、
「芸術」というよりも「輸出産業」です。
世界中にいかに売れるものを作れるかの
大ギャンブル。
ジョージ
ドラマづくりは、大ギャンブル。
原園
ええ。とにかくケタ違いのお金をかけられるのは、
「世界市場を織り込んだギャンブルだから」
と説明をうけました。
とはいえそれも、ずいぶん昔に聞いた話なので
いまだとまた違っているかもしれないですけど。
ほぼ日
原園さんがその話を聞かれたのって、
いつ頃ですか?
原園
当時は『HEROES/ヒーローズ』
出たころだから、
2006年とかそのあたりですね。
だから『HEROES/ヒーローズ』も、世界に売るために、
いろんな工夫がされていたそうです。
メインキャラクターにたくさん人種を据えて、
「家族」とか「マイノリティ」とか
普遍的なテーマをきっちり埋めて。
ジョージ
つまり(日本人の)マシ・オカ君を置いて、
「これでアジア狙えるぞ」ってことね(笑)。
原園
それもあったんじゃないでしょうか。
だけど『HEROES/ヒーローズ』は最終的に
シーズン4まで行ったから、相当すごいですよ。
ほぼ日
周りでも、たくさんの人が見ていた印象があります。
原園
だから、何シーズンも続いているドラマは、
Huluとしては
「おもしろくないわけがない!」と思って、
契約していくんです。
ジョージ
で、そういうシビアな絞り込みの結果、
ボクら視聴者は
おいしいところだけ頂けちゃうってことね。
原園
理論的には、そのはずです‥‥が、
そこまできても
見る人ひとりひとりがすべてで、
ジョージさんが最初に話されたように、
やっぱり「冒頭の10分」なんです。
第1話の頭でガツン! と来させる。
その10分でダメだったら、もう見ないんです。
ジョージ
そっかぁー。
だけど、わかるわぁ(笑)。
ほぼ日
じゃあ、その冒頭10分にかけられてる力って
ものすごいんでしょうね。
原園
それはもう。
どのドラマも考え抜かれてますね。
たとえば『アンダー・ザ・ドーム』という作品だと
すばらしい映像美の最初の山場が、
見事に10分なんです。
ジョージさん、ご覧になりました?
ジョージ
見た!
原園
ドームの壁ができたあそこ、
きっちり10分以内の
「9分5秒」のタイミングなんです。
ジョージ
あぁ、あそこ!
牛がペローンってなった瞬間!
‥‥やだ、ちょっと言っちゃった。
もうみなさん、見てみて、見て!(笑)
アンダー・ザ・ドーム(2013-現在。シーズン2が最新)

メイン州の田舎町チェスターズミルは
ある日とつぜん原因不明の謎のドームに覆われてしまう。
ドームによって外界から完全に隔離され、
「水・食料・電気の調達」「お金の価値」「伝染病の発生」
「犯罪の取り締まり方法」「働く意味はどう変わるのか」
などなど、さまざまな問題が起きていく。
ドーム内での不可解な自然現象と、
湧き上がる疑問に対し、次々と示されていく手がかり。
普通の生活をどうしたら取り戻せるのか、
ドーム内の人々が迷いつつ解決の道を探す様子を描く。
スティーブン・キングの小説をもとに、
スティーブン・スピルバーグの会社
アンブリン・エンターテインメントが製作した。
ほぼ日
あと、海外ドラマならではのこととして、
「すごく長いエピソードを
 じっくりと時間をかけて視聴する」
おもしろさもありますよね。
1シーズンだけでも13話だったりしますし、
シーズン数の多いものだと、何十話にもなりますし。
杉山
そう、だから海外ドラマって、
「日本の映画やドラマというよりも、
連載マンガに近いかも」
と言う方がけっこういるんです。
「この先、どうなるんだろう?」と
次の配信をたのしみに待つ感じというか。
キャラクターに思い入れをしながら、
長いあいだストーリーを楽しめるものが
多いんですよね。
杉本
何話もあるから、話をとことんまで
濃くできるんですよね。
だから、登場人物ひとりずつの
細部のエピソードまで描くことができる。
ジョージ
そう、そして、登場人物ひとりひとりの
「魂」に出会えるのよ!
杉本
出会えますね!
あれはすごいですね。
原園
そう、すごいです。
ぼくの場合はその感じをまさに
『ブレイキング・バッド』で
体験しました。
あれは、ものすごく練り上げられた作品ですけど
ぜんぶで62話だから、
いちどに全部は見られないんですよね。
だから電車の中でタブレットで見て、
つづきを家に帰って見るとか、
長編小説を読むみたいに隙間の時間で
ワクワクしながらすこしずつ見ていく
たのしさがあったんです。
それって、ぼくにとっては
すごく新しい映像体験だったんですよ。
杉山
その感じ、すごくよくわかります。
ジョージ
まぁ、サイドストーリーを追っかけてたら
たまに広がりすぎちゃって、
「あなた、どこまで行っちゃうの?」
みたいな番組もあったりもするけど(笑)。
杉本
ありますね(笑)。
あと「なんか焦ってるな」と思っていたら、
シーズン1で打ち切りだった、とか。
ぼく『ハーパーズ・アイランド』って
最初の4話くらい、ものすごくハマったんです。
でも、どんどん展開が速くなって、
人がバタバタ死ぬし、話が単純化すると思ったら、
シーズン1で打ち切られちゃった。
ハーバーズ・アイランド 惨劇の島
(2009、全13話)

7年前、6人が惨殺されるという
おぞましい事件が起きた、シアトル沖のハーバーズ島。
とはいえ時間が経ち、島の住民は事件から立ち直り、
普通の暮らしを送るようになっていた。
かつて子供時代に夏をハーバーズ島で過ごしていた
青年ヘンリーは、金持ち一家の娘のトリッシュと
島で結婚式をあげることになる。
そこで起こりはじめる、残酷すぎる連続殺人事件。
誰が何の目的で殺人を犯しているのか?
登場する人物25人全員が容疑者となる
ダークなテイストの本格スリラー。
ジョージ
そう、そういうときも、あるの。
しょうがないんだけどね。
ほぼ日
自分がハマっている作品は
ちょっと展開があやしくなっても
「続け、続け!」と思いながら見たりもします。
原園
わかります。
「がんばって!」とかね(笑)。
(つづきます。)
うれしいことに、連載開始とともに、
たくさんのかたによるおすすめ海外ドラマ情報が
ぞくぞくとメールで届いています。
そこで、突然ながらみなさんからのメールを
一部ご紹介させていただくことにしました。
担当は「ほぼ日」の海外ドラマファンの
モギ&田中です。
「Dlife」が開局してから海外ドラマにハマってます。
いまでは、日本のドラマはほとんど観てません。
いま一番は「殺人を無罪にする方法」。
先の読めない展開に「おー」となること度々。
(ほしの)
「殺人を無罪にする方法」は、
Dlifeのいま一番のおすすめドラマですね。
サイトを見ると、
「歯に衣着せぬ物言いで自信家の
 敏腕弁護士・アナリーズ。
 彼女がロースクールで教えるのは、
 ずばり”殺人を無罪にする方法”」
‥‥らしいです。おもしろそうですね。
うん、おもしろそう。これ見たい!
わたしは犯罪ドラマが大好きなので、
確実に自分好みだと思いました。
教えていただいて、ありがとうございます。

とてもとても楽しみな連載、嬉しいです。
私はドラマ自体あまり観る事はなく、
(今はNHKのさだまさしさんの自伝ドラマ
 『ちゃんぽん食べたか』を観ていますが、
 全くドラマを観ない年も多いので、
 我ながら珍しいです)
海外ドラマは特に俳優さんもわからないですし、
興味はあるけどなかなか“最初の一話”の視聴に
踏み切れていない現状だったので、
本連載を参考にさせて頂こうと思います。
(FSR402)

あ、ぜひぜひ。
この座談会はほんとうに海外ドラマを
心から愛している人たちばかりの話なので、
きっと、役に立つのではないかと思います。
そうですね、座談会の熱がすごかった(笑)。
ぜひおたのしみください。
‥‥それにしても『ちゃんぽん食べたか』が
気になりすぎます。
ええ(笑)。
きっとこれもおもしろいんでしょうね。
わー、すごい! ほぼ日でこんな企画!
私は日本のドラマはあんまり見ないけど、
海外ドラマは毎日録画したのを見るのが忙しい程です。
ラブコメやファミリーものがメインなので
今回の企画にはあんまり登場しないかな?
でも、これを機に他のジャンルも
見たくなるかもしれないので、楽しみで~す!
(マメ)
たしかに、今回はちょっと犯罪ものや
FBIものの話が多いかもしれません。
でも、他のジャンルも、ということなら
「ブレイキング・バッド」なんて
いいのではないでしょうか?
みんなが認める名作ですし。
そうですね、そのときにはぜひ
最初あまりピンとこなくても
シーズン3まで見てみてほしい、です。
そこからの怒涛の展開がすごくて、
ますます面白くなっていくので。

※みなさんのおすすめドラマ、引き続き教えてください!
(コラムも、つづきます)

2015-06-11-THU