ふたりから見たアッコちゃんと永ちゃん。
担当・マスダ ヒロシ

第3回 ふたりには、これからがこう見えてるよ。
- 糸井
-
どうして声が似るのっていうのは聞かれたことある?
- 清水
-
ああ、ない。どうしてだろう(笑)。
- 糸井
-
おかしいよね。声が似るってさ。
- 清水
-
本当だ。しかもそれで生計立ててるってね(笑)。

- 糸井
-
つまり、しゃべりの癖を似せるはできるよ。
ここがこうなんだなとかいうのを再現してるわけでしょ?
耳コピしてるわけでしょ?
- 清水
-
そうそうそう、うん。
- 糸井
-
それはできるんだけど、声の質まで。
- 清水
-
ああ、そうか、うーん。
- 糸井
-
うん。だってユーミンと矢野顕子、似てないじゃん。
- 清水
-
うん、似てないですね。全然違う(笑)。
- 糸井
-
どうしてわたしが挟まると(笑)。
- 清水
-
(笑)。
たぶん、本当にユーミンさんのモノマネして、
矢野さんのモノマネしてだったら、
あ、似てるって錯覚するけど、
ユーミンさんやって、ここにユーミンさん来て一緒に歌ったら、
全然違うってわかると思いますよ。
- 糸井
-
でも、近いことやったことあるでしょう。
矢野顕子さんとはやってますよね。
- 清水
-
うん、そうですね。
ユーミンさんとやったときも、
ちょっと似てるなと思った(笑)。

- 糸井
-
あるよね、ほら。
- 清水
-
やっぱりすごく好きだと‥‥自分ではわかんないな。
どうしてなんだろう。
- 糸井
-
どうしてなんだろうね。
- 清水
-
うん。
でも、わたしも松村(邦洋)さんもそうですけど、
あんまり自分の何かを表現したいってものがない人が
モノマネできるのかもね(笑)。
「わたしの歌を聴いて」って気持ちに全然ならないけど、
「わたしが演じる誰かを聴いて」っていう気持ちはすごい。
- 糸井
-
その人の代わりに歌ってる(笑)。
- 清水
-
そう、「その人の代わりやるから、こっち聴いて。
おもしろがって」っていうのは人より強いと思う。
- 糸井
-
ああ。あ、そうだ、井上陽水さんもやったよね。
- 清水
-
うんうん。
- 糸井
-
無理だろ、普通に考えたら(笑)。

- 清水
-
今考えたらそうだね(笑)。
- 糸井
-
忌野清志郎をなんとかしちゃったもんね。
- 清水
-
あ、そうですね。
- 糸井
-
うん。
何それって、改めて自分では考えたことはない?
- 清水
-
でも、まあ、モノマネしてる人って
みんな10代の頃に影響を受けた人たちで。
30代、40代超えてからは、増えたレパートリーっていうと、
瀬戸内寂聴さんぐらいで(笑)。
歌手はほとんど増えてないかもしれない。
- 糸井
-
ということは、
仮に西野カナさんのマネしなさいって言われても、
西野カナさんの声が耳に入ってこないんだね。
- 清水
-
そうですね。よくわかりますね。
- 糸井
-
例えば、水の中に氷が浮かんでいる絵を
描く人がいるじゃないですか。
その絵描きさんは、それが見えてるから描けるわけですよね。
- 清水
-
うん。
- 糸井
-
でも、ぼくらには水の中にその氷が浮かんでる姿が
見えてないんですよ。

- 清水
-
そうね。
- 糸井
-
うん。解像度が低い。
- 清水
-
そうそうそう。
- 糸井
-
だから、描きようがない。
- 清水
-
そうそうそう。本当確かにそう。
だから、安室奈美恵さんがやめるっていうときに
号泣する人たちの気持ちに1回なろうと思うんだけど、
やっぱりなれない(笑)。
- 糸井
-
その世代の清水ミチコがいたら、
安室奈美恵さんのコピーができてるんだろうね、きっと。
- 清水
-
うん、きっとそうだと思いますね。
- 糸井
-
絵描きさんが見ている世界は違うものが見えてるっていうのと、
モノマネ芸人が見ている世界が違うものを見えているって、
おそらく同じなんだろうな。
今の清水ミチコさんは、安室奈美恵さんが見えてないんだ。
- 清水
-
なんか、聞こえ悪いな(笑)。
- 糸井
-
(笑)
- 清水
-
確かに。
- 糸井
-
つまり、10代のとき夢中になった人はできるってことは、
そのときは受け止める側の脳細胞がバッチバッチに‥‥
- 清水
-
そうそうそう。感受性がバッチバッチに。
歌で泣いたりとかね、一緒に喜んだりとかしてたのが、
もうやっぱりこの年になると、
出ないんですよね、そういう歌手の人ってね。
- 糸井
-
脳がついてってない(笑)。
- 清水
-
うん、たぶん、解像できない。
- 糸井
-
ああ、年とってから好きになった人はいる?
- 清水
-
だから、瀬戸内寂聴さんとか、山根会長とか(笑)。

- 糸井
-
山根会長ね(笑)。
- 清水
-
ああいう方を、おもしろがりましょうよ
っていう気持ちはやっぱりあるから。
- 糸井
-
あのへんは、普通の人が意に介してないものを、
ちょっとピントを合わせて見てるんだよね、きっと。
- 清水
-
あ、そうですね(笑)。
- 糸井
-
でも、ユーミンは今でも聞きたい人がいるわけで、
案外、浮世に流れなかったんですよね。
モノマネの人ってけっこう難しくてさ、
大ヒットが出たりすると、その人と共に消えるじゃないですか。
- 清水
-
ああ、本当だ。
わたしの好きなその桃井さんとか矢野さんとかユーミンさんの
世代がまず強いっていうのもありますよね、キャラクターが。
みんな知ってるし。
- 糸井
-
そうか、お客も好き度が濃いんだね。
- 清水
-
うん、そうそうそう。
- 糸井
-
「またユーミンやって!」
って言いながら来るわけだもんね。
- 清水
-
そうですね。
わたしの心を込めた歌はいいから、ユーミンやってって(笑)。

- 糸井
-
心を込めた歌のほうに、
よく行き過ぎないで留まってますね(笑)。
- 清水
-
もちろん(笑)。
- 糸井
-
清水ミチコが、いい気にならないモードを保っていられるのは、
いい気になっちゃいけないと思ってるからですか(笑)。
- 清水
-
いえ、そんな立場にないからだよ(笑)。
- 糸井
-
ああ‥‥ああ。
役割としてさ、多少偉ぶってくれないと困るんですよねって
場面に呼ばれることはないですか。
- 清水
-
あ、審査員とかね? うんうん。
- 糸井
-
それとか、新人が集まってる場所とか。
- 清水
-
ああ、そうですね、うん、あるある。
- 糸井
-
そのときは、役目として何かこう、しますよね、当然ね。
- 清水
-
うん、そうですね。
やっぱりちょっと偉そうなほうが、
その場合いいんですよね、おさまりが。
- 糸井
-
おさまり、おさまり。
で、それを経験していくと、
そういう人にどんどんなっていっちゃうじゃないですか、
けっこう大勢の方々が(笑)。
で、清水さんがなってないのは、なんでかなっていうのは。
一つはさ、やっぱり、失われるものが大き過ぎるからだよね。
- 清水
-
ああ、そうかもね、うん。
- 糸井
-
そうなっちゃったらこれできない、
あれできないが、あるよね。
- 清水
-
うん。
しかも、モノマネしてる人間に「ちょっとつかみがね」とか
言われたら、本当腹立つと思う(笑)。
- 糸井
-
でも、つらかった人ほど、なりがちな。
誰でもいい気にはなれるじゃない? 28、9だって。
- 清水
-
うんうんうん。
- 糸井
-
それを何回も機会があったろうに、
逃げてきた人はちゃんと逃げてるし。
- 清水
-
ああ、そうね。
でも、気がつかずになってたかもしれないけどね。
- 糸井
-
ああ、なるほど。
こういうとこなんだよ、この人のおもしろさは。
- 清水
-
あとやっぱりほら、
自分を客観的に見てナンボの商売だから、わたしたちは。
- 糸井
-
ああ、そうかそうか。
あ、「こう見えてるよ」が仕事だからだ。
- 清水
-
そうそう。それもあると思う。
- 糸井
-
そうだ、そうだ。なるほどね。
「こう見えてるよ」っていうの、
実はプロデュースの原点だね。

- 清水
-
わたし、今日、最終的に聞きたいと思ったのは、
糸井さん、死にたくないだろうなってことなの。
- 糸井
-
ん? 死にたくない?
- 清水
-
死にたくない。
- 糸井
-
ああ、死にたくないよ、そりゃ。

- 清水
-
当たり前か(笑)。
- 糸井
-
死んだらしょうがないとも思うし。
- 清水
-
うんうん。でも、わたしのイメージの中では、
少年が、貧乏生活もしてきた子が孤独とか知りながら、
いつの間にか70人超える大会社になってたわけじゃん?
- 糸井
-
大会社じゃない(笑)。
- 清水
-
でも、すごいサクセスストーリーでもあるじゃん?
- 糸井
-
ああ、ああ。
- 清水
-
そういう人が一番怖いのって
やっぱり健康じゃなくなることとか、
死ぬことかなって思ったの。
- 糸井
-
いや、それは別に怖いとかじゃなくて、
さっきの永ちゃんのちっちゃいサイズだよ。
つまり責任があるんだよ。それだけのことだよ。
だから、忙しいんだよ。
- 清水
-
「もうやめたい!」ってならない?
- 糸井
-
やめたいって言っちゃいけないじゃん。

- 清水
-
ああ、そうね。
- 糸井
-
(笑)
- 清水
-
そうだねえ。
- 糸井
-
ただ、そんなことを思ってるだけでも、
ちょっとストレスだよね、きっと。
- 清水
-
そうね。
- 糸井
-
「わたしはモノマネをやめたい」だなんて思えないわけだよね。
清水ミチコ事業という体系で、
あなたのおかげで食べていけてる扶養家族がいるでしょ。
だから、「わたしは倒れちゃいけない」っていう
ぐらいのことはきっと思ってるでしょう?
- 清水
-
本番で倒れちゃいけないとは思うけど、
でも、わたしはやっぱり糸井さんとはスタンスが全然違います。
- 糸井
-
そうか、うん。でも、その色、形、大きさは違うけども、
そこはみんなあるわけで、大人はあるわけで、
子どもだったときには、
それはないふりをして生きてるわけじゃない。
- 清水
-
そうだね。
- 糸井
-
で、大人になっちゃってからはあるから、
そこはもうしょうがないよね。
でもその責任って、まんざらでもない
みたいなとこあるじゃないですか。
お客さんに「皆さん、お元気ですか?」つったら、
「元気でーす!」って答えてくれる
喜びみたいなのもあるじゃないですか。
- 清水
-
うんうん、もらってるものある。
- 糸井
-
うん。で、そこの「元気でーす!」って声も含めて
おれじゃないですか、もう。
- 清水
-
そうか、うん。
- 糸井
-
武道館でずっこければ、
みんながワーッて湧くのも含めてわたしじゃないですか。
そうなるから、やれるうちはやろうって。
ただ、もう引退の準備をしながら
一生懸命やってるみたいな状況ですよ。
- 清水
-
あ、本当?

- 糸井
-
うん。それは、しがみつく人になったらやっぱり悪いからさ。
- 清水
-
次の世代に?
- 糸井
-
うん。得意で社長やってるわけじゃないから、おれ。
もっともっと社長得意な人がやったほうが
いいのかもしれないし、わかんない、それは。
清水さんとか、先どうするみたいなこと考えるの?
- 清水
-
先どうするは考えないけど、
占いの人のとこ行ったときがあって(笑)。
- 糸井
-
自分で考えたくないんだ(笑)。
- 清水
-
人に頼った(笑)。
そしたら、将来、車椅子に乗って演芸やってるって。

- 糸井
-
ああ。でも、拍手で迎える人がいる限りは、
それはOKですよね。
- 清水
-
そうかもね、出るかもね。
- 糸井
-
だから、関係なんだと思うよ。
自分としては嫌だって言っても、
そんなに喜んでくれるんだったら、
車椅子に両側に龍をつけてね。
雷様みたいに、雷鳴と共に登場。
- 清水
-
(笑)

- 糸井
-
そう、そういうのもありだし。
あ、じゃ、考えたくないのはあるんだね。
- 清水
-
うん、そうですね。
でも、わたし、不幸になるような気がしない。
- 糸井
-
ああ。それがすべてだと思うね。
その「運悪くないし」みたいなね。
- 清水
-
うん、そうね。
- 糸井
-
いや、思ったのよ。おれ、孫ができたじゃん。
で、見てるともうね、うらやましいの。
- 清水
-
あ、楽観性?
- 糸井
-
そう。
- 清水
-
子どもって、でも、とくにそうなんですよね。
- 糸井
-
母親やってたからわかると思うけど、
ひとりでは生きていけないのに、
一切心配しないで、フャーッとか言ってるっていう(笑)。
- 清水
-
(笑)。そうね。それで、
さも自分の力で大きくなりましたって顔するからね、みんな。
- 糸井
-
うん。だから、それないとやっぱり生き物ってダメでさ。
- 清水
-
そうね。
- 糸井
-
だから、ものすごく考える子どもがいたりしてね、
「ぼくがこの小学校に入ったとするじゃない?」とか。
- 清水
-
心配性(笑)。

- 糸井
-
「将来、今のところ勤めたいのは」とか言ったら、
不幸になるぞって思わない?(笑)
- 清水
-
うん。今どきの子、えらい頭いいからね、
ちょっと心配なとこあるよね。
- 糸井
-
それよりは、なんとかなるような顔してニッコニコしてたら、
「おまえ、結局、おれの話聞いてないだろ」つったら、
「ごめん」みたいな(笑)。
- 清水
-
(笑)。そうね、南(伸坊)さんみたいなね。
- 糸井
-
そう。それのほうがやっぱり生きるよね。
- 清水
-
うん。
- 糸井
-
‥‥まあ、こっちは清水さんのサクセスストーリーを
順番に語っていくような対談にはならなかったけれども(笑)。
- 清水
-
やり直して、これ(笑)。

- 糸井
-
だけどさ、おれ、3年か4年前に、
はじめて武道館やったぐらいのときに、
ああ、清水さんもボスになったんだと思ったよ。
- 清水
-
え、本当?
- 糸井
-
うん。つまり、立候補しないのに
ボスになった人って一番いいなと思ったよ。
何ていうんだろう、利害関係なく集まってんじゃん。
- 清水
-
ああ、そう、そう。よくわかりますね(笑)。
- 糸井
-
別に清水プロダクションに入ったわけでも
何でもないのに集まってて、で、なんとなく、そこに一つ、
「こうやったほうがいいかな」つったら、
「そうじゃない?」って言うやつがいたとかさ、
みたいになってるでしょ。

- 清水
-
うん、そうですね(笑)。
- 糸井
-
その場所に立つのって、なかなか大変なことでさ。
- 清水
-
目指したらね、きっと大変だと思う。
運もよかった。
- 糸井
-
で、世話をしてきた覚えもないじゃないですか、人の。
- 清水
-
うん。って、あんまりだな(笑)。
- 糸井
-
改めてお聞きしますが、
「わたしは人の世話をしてきたんですよ」って
思ってますか(笑)。
- 清水
-
ああ、してない。でも、若い頃は思ったの。
わたしも永六輔さんみたいになって、
新人のライブを観に行って、
「こうしたほうがいいよ」とか背中を押してあげるような
おばさんになれたらいいなと思ったけど。
やっぱり自分には今日で一杯一杯なのよね。
だから、人にこう背中を教えてあげるって人は
大したものなんだなと思った、この年になったら。
- 糸井
-
つまり、してないって。
- 清水
-
してなーい。これからもしなーい(笑)。

- 糸井
-
(笑)。でも、こんなんでもいいんだよねは見せてるよね。
- 清水
-
うん、そうだね。こんなんでも大丈夫ですよって(笑)。
うーん。初めて客観的に自分を見たような気がした。
- 糸井
-
意識はしてないよね。
- 清水
-
うん、してない(笑)。
- 糸井
-
今日はインタビューされてばっかりだったな(笑)。
いや、おもしろかった。
- 清水
-
おもしろかった。あっという間。
- 糸井
-
こういう会話は仕事じゃないとやっぱりありえないんだよなあ。