清水さんのモノマネは、批評をしていないよね
担当・フクオヨウコ
第2回 私が矢野顕子になるはずだったのに
- 糸井
-
なんで似せられるのかって、
改めて自分で考えたことはない?
- 清水
-
うーん…
でも、モノマネしてる人っていうのはみんなそうだけど、
私が真似するのは10代のときに影響を受けた人ばかりで、
30代、40代超えてから増えたレパートリーっていうと、
瀬戸内寂聴さんくらいで(笑)。
- 糸井
-
真矢みきさん。
- 清水
-
確かに(笑)。
でも、歌手ではもうほとんどいないかもしれない。
- 糸井
-
ということは、たとえば今、
西野カナさんのマネをしなさいって言われても、
西野カナさんの声っていうのはそんなによく聞こえないんだね。

- 清水
-
そうですね、よくわかりますね。
- 糸井
-
絵描きさんだとね、
「水の中に氷が浮かんでいるスケッチ」とか、
描けるじゃないですか。
それは、見えているから描けるわけですよね。
- 清水
-
うん。
- 糸井
-
でも、ぼくらにはその氷が、
浮かんでいるものが見えてないんですよ。
- 清水
-
そうね。
- 糸井
-
それは、解像度が低いってことですよ。
だから、描きようがない。
- 清水
-
本当に、確かにそう。
私も、安室奈美恵さんがやめるっていうときに、
号泣したりしている人たちの気持ちに1回なろうと思うんだけど、やっぱりなれなくて(笑)。
- 糸井
-
その世代の清水ミチコがいたら、
安室奈美恵さんやそのファンのコピーができてるんだろうね。
- 清水
-
うん、きっとそうだと思いますね。
- 糸井
-
それはさ、iPhoneのカメラが同じだなと思ってて。
普通、カメラのレンズってピカピカに磨かれていて
サイズも大きいじゃないですか。
だから、いい写真を撮るにはレンズが大事っていうんだけど、
iPhoneのカメラレンズってものすごく小さい。
それで、あんなにも綺麗な写真が撮れるのは、
頭もいいからなんです。
- 清水
-
解像するんだもんね。
- 糸井
-
うん。
それで、すごくよく写るわけですよ。
だから、「絵描きが見ている世界には
違うものが見えてるんだよ」っていうのと、
清水さんのモノマネはおそらく同じなんだろうなと
思っていたんだけど、今日、話を聞いて初めて、
「あ、できないんだ」って。
- 清水
-
なんか聞こえが悪いな(笑)。

- 糸井
-
(笑)
つまり、10代のとき夢中になった人だからできるってことは、
そのときは受け止める側の細胞、
清水さんの脳細胞がバッチバッチに‥‥
- 清水
-
そうそうそう。
昔は感受性が強くて、歌で泣いたりとかね、
一緒に喜んだりしてたのが、
もうこの年になると出てこないんですよね、
そういう歌手の人ってね。
- 糸井
-
脳がついていってない(笑)。
- 清水
-
うん、解像できない。
- 糸井
-
ちょっと話は変わるんだけど、
清水さんのやるモノマネみたいな芸って、
誰かに習ったり、ひたすら練習したりすれば、
できるようになる類のものじゃないよね。
- 清水
-
そうですね。
芸能は習ったからというより、
なぜかできるって人が多いですもんね。

- 糸井
-
でしょう?
昔、エレキを買って練習してたときに、
まったく音楽もできないし、勉強もできない同級生が、
タンタカタンタン、タンタカタンタンって
いきなり弾き始めちゃったのを見て、
一生懸命練習してた俺は何だったんだ、って思った(笑)。
- 清水
-
あいつに俺、負けてるんだって(笑)。
- 糸井
-
負けてるどころじゃなくて、
登れない山の上であいつは逆立ちしてるよと思った。
- 清水
-
価値観がひっくり返ったんだね。
- 糸井
-
そう。
大人たちが言う、
「基礎をしっかりしとけば、何とでもなるんだから」
って言葉を真に受けて、
俺、一時はバイエルとか習ったんだから。
ピアノ教室も行ったんだよ。
- 清水
-
(笑)
- 糸井
-
そういう、地道な努力を続けた先に、
ビートルズを弾ける自分が作られると思ったら大間違いで。
彼は「ちょっと貸してみ?」って言ったんですよ、ギターを。
で、急に「ミッシェル」を歌ったんですよ。
だから、何だろう、
自分が守ってた価値観の延長線上にあると思っていた夢を、
今日の明日で叶えちゃってる人がいるのを見ちゃったわけで。
あれは、今の自分にも影響を与えてますね。
- 清水
-
そうか、自分は大したものじゃないんだって感じなのかな。
- 糸井
-
うん。清水さんの場合、
モノマネは習ってできるようになったものじゃないけど、
その一方ではピアノも弾けてるんですよね。
その、基礎が必要だっていうのと、
とにかくやればいいんだよっていうの、
自分ではどういうふうに考えてる?
- 清水
-
どうなんだろう。
- 糸井
-
弾き語りモノマネは、今日の明日じゃできないよね。
- 清水
-
それはそうかもね。弾き語りのモノマネは、
やっぱり私が10代の頃にすごい感銘を受けたから。
悔しかったんでしょうね、きっと。
「私が矢野顕子になるはずだったのに」って(笑)。
- 糸井
-
(笑)
- 清水
-
頭おかしいよね(笑)。
- 糸井
-
いやいやいや。
でも、その心って大事かもね。ある意味、不遜な(笑)。

- 清水
-
何という自信なんですかね(笑)。
でも、今でも練習してて、もうちょっと頑張ったら
なれるんじゃないかと思ってる自分がいるの。
- 糸井
-
ああ。
- 清水
-
基本ができてないだけで、もう少しやればとか、
そういう変な希望みたいのがあるんですよね。
- 糸井
-
矢野顕子さんにあって清水ミチコにないものは何なの?
- 清水
-
あ、それは音感。
- 糸井
-
指の動きとかではなくて。
- 清水
-
指ももちろん。
ピアノから何から、音楽性ですね。
- 糸井
-
でも、たとえばアッコちゃんと同じ道を歩いているとして、
彼女が振り向いたら後ろには清水さんがいた、
ぐらいのとこにはいるわけだ。
- 清水
-
それはいない、全然レベルが違う。
- 糸井
-
でも、遠くに見えるっていうぐらいの距離にはいるんじゃない?
- 清水
-
いや、いないと思う。
- 糸井
-
だって、ピアノくっつけて一緒に歌ってたじゃないですか。
- 清水
-
あれも、たとえるなら矢野さんは
一筆書きでササッと書くように演奏しているんだけど、
私はそれを綿密に、
どういう一筆書きをやったかっていうのを
コピーして頭の中に入れて、
舞台上ではさも一筆書きしました、
みたいなふりをしてるだけで。
それはやっぱりすぐわかりますよ。
全然違うんです。

- 糸井
-
思えば、それもさっきの瀬戸内寂聴さんの真似を
するときと同じともいえるね。
「あなたのやってることはこう見えてますよ」
っていうことだよね。
- 清水
-
あ、そうですね(笑)。
それだったらうれしいですね。