もくじ
第1回出会いのきっかけ 2019-02-26-Tue
第2回好きの理由 2019-02-26-Tue

ちゃんとした広報になりたくてじたばたしている広報担当者です。食べて、寝て、エンタメ見たら大体元気になります。最近「幸せのへハードルが低い」と友達に言われたことが自慢です。

私の好きなもの</br>東京ステーションホテルの</br>ロイヤルミルクティー

私の好きなもの
東京ステーションホテルの
ロイヤルミルクティー

担当・あおね

第2回 好きの理由

それ以来、私は何かしら理由をつけて東京駅に行き、
ラウンジに寄るようになった。

何度か通ううちに、
いつしかホテルの正面玄関からは入らなくなっていた。
実はもうひとつ、駅の改札前に気をつけていないと
通り過ぎてしまいそうなドアがある。
そこから入ることが私のお決まりになったからだ。

雑踏の中、まるで秘密を守るように
ひっそりと佇むそのドアは、
現実と特別な世界の境目みたい。

私だけがその世界への入り口を知っているみたいな
気持ちにさせてくれる。

そして、その秘密のドアから足を踏み入れた私は、
最初に緊張しながら恐る恐る歩いた廊下で
大きく深呼吸をする。
ホテル特有の凛とした香りを「落ち着く」と思えるほど、
ここが大切な場所になっていた。

そんな風にすっかり慣れた頃、
お気に入りの席が出来た。
窓際に並ぶ2人掛けの席だ。
70席ほどある中で、
必ずしもそこに案内されるわけじゃないし、
どの席だってロイヤルミルクティーは変わらず美味しい。

だけど、窓際の席から見る外の景色が私は大好きなのだ。

ラウンジは1階にあって、駅のロータリーに面している。
改札が近いので人の往来も多い。
窓際の席に座り、背の高い窓が映しだす人々の日常の一瞬を
私はいつまでも眺めている。

家路を急ぐ人、
キャリーケースを持って旅行へ向かう人、
タクシー乗り場で別れを惜しむ人。

年齢も
性別も
そこにいる理由も
バラバラな人たちを見ながら、
自分の幼いころの記憶、今本当に思っていること、
これから先の自分を自然と重ねる。

「あの時、ああだった」
「本当はこうしたい」
「こういう人になりたい」
外側から自分と静かに話をしているみたいに。

あたたかなミルクティーを飲みながら過ごすその時間は
私の中の過去と未来をいったりきたりして、
気がつかないうちにからまっていた気持ちを
ほぐして、心に余白をくれる。

そう。きっと、これは「大丈夫」をくれる味。

「なんでそう思うの?」と聞かれたら困ってしまうけど、
このロイヤルミルクティーには、
人の心をほろほろとほぐす何かがあるのだ。
心が少し弱っていても、そうでなくても。
ひとくち飲むと「大丈夫だよ」と
いわれている気持ちになれる魔法の飲みもの。

そのことに気が付いてから、
この場所に誰かを誘うことも増えた。

なんでも話せる親友、久しぶりに会う友人。
大事な人を誘って一緒にロイヤルミルクティーを飲む。
悩みがある人を誘うとか、相手を元気づけようとか、
そんな大それたことではなくて。
一緒に、このあたたかな「大丈夫」を飲みながら、
他愛もない話をしたい。ただそれだけ。

そうしたら、秘密の入口から一歩、
元の世界に戻ったときにも、
ゆるりと力を抜いて、
でも、ちょっとだけ気合いを入れて、
一緒に笑えそうな気がするから。

あれだけ緊張しながら足を踏み入れた場所が、
いつの間にか当たり前になった。
当たり前だけど特別な場所。
人間的に成長したのか、変わったかどうかは分からない。
むしろ、あんまり変わっていないのかも。

でも、今ならそれもいいかなと思える。
自分自身にも他の人にも寄り添い、
あたたかくする方法を見つけたみたいだから。

ここでロイヤルミルクティーを飲めばいい。
いいことがあった日もそうじゃなかった日も。

ああ、書いてたら、
東京ステーションホテルのロイヤルミルクティーが
飲みたくなってきた。

ひとりでのんびり味わうのも良いけど、
今は誰かに、この課題を書き上げるまでのことを
聞いてもらいたい。

そして、誰にも言ったことがなかった
「大丈夫」の味について話そう。
確かめてみたい。
一緒にロイヤルミルクティーを飲みながら。