知らない誰かに喜んでもらいたい

燃え殻: 絶対に辞めないです。今、いろいろな自分が雑誌に出たりとかすることを、うちの社員とか、若手の子とかが見てくれてる。それが一番面白いというか、うれしいというか。

燃え殻: ぼく自身が社会の数に入っていなかったみたいな感じが猛烈にあって、それどうにかしなきゃいけない。でも、そこから今の会社に入って、そしたら、今度はいろいろなテレビ局だったり制作会社の人たちから、「おまえのところは数に入っていない」って説明をいろんな言葉でされるわけですよ。
世の中で認めてもらえるにはどうしたらいいだろうって、社長も一緒にいろいろと考えながらやってきました。やっといろいろなことで、それこそ何度か似顔絵が選ばれたかのように、何度か社会に認めてもらうことが会社であって。「そこにいていい」みたいなことが起きて、その喜びというのがあるんですよね。
その延長線上で、小説を書いてこうなったときに喜んでくれたのが社長だったんですよ。それが何につながるかとかじゃなくて、喜んでくれたんです。

燃え殻: ていったときに、それこそ自分と血縁関係もなく、関係のないところでぼくはアルバイトで入ったような人間がいろいろやってきて、最終的に今一緒に働いてて、喜んでくれたんですよね。ある意味、親より喜んでくれて。それが一番うれしかったかなあ。だから、「会社は辞めないんですか」っていうのは大体言われるんですけど、辞めないよって。

糸井: そうすると、そのいわゆる「次の作品は？」っていうのと「会社辞めないんですか」というのは、まったく正反対の質問なんだけど、何か書くってことはやめないんですか。

燃え殻: やめないつもりではいます。冗談半分本当半分なんですけど、これまで受注があったことに対して全力で取り組むっていうことをずっとやってきたんです。
これは、恥ずかしさもあって言ってることなんですけど、うちの若手にもそれ同じこと言ってるんで、それが小説だろうが、お客さんからの企画だろうが、美術制作のフリップ１枚だろうが、本当に一緒で。全力で取り組んで、できれば喜んでもらいたい、っていう。
　
小説のときもそうだったんですよね。できれば全然知らない、例えば、富山の女子高生に喜んでほしいとか、全然見たことがない人が喜ぶにはどうしたらいいんだろう、ってことばっか考えてましたね。
　
だから、自分がこういうことを訴えたいとか、正直なかったんです。「何をこの作品で言いたかったんですか」って新聞社の方には全員言われたんですけど、ないと思ったんですね。でも、何か言わなきゃいけないと思っていろいろ言ってたんですけど、それよりも、喜んでもらいたいなっていうことがあって。こうやったら共感してくれるかなとか、こうやったら面白いって思うかなって。

糸井: 子どもがまだ小さいときに、寝かしつけるのにデタラメな話をしてたことがあって。で、主人公を子ども本人にしてあげたり、してあげなかったりいろいろして、出まかせにいろんなこと言ってるとウケるんですよね。なんか似てますよね。

燃え殻: ぼくはもう、それだけですね。とくに、これは逃げかもしれないですけど、仕事ではないところから始めていたので、それを純度を増したいっていうふうに思っていたんですよ。だから、真逆に出る人もいると思うんです。仕事があるんだから、自分の好きなことだけやればいいじゃないかって。
でも、せっかくそれが流通するものだとしたら、関わった人も含めてみんなが喜ぶにはどうしたらいいだろうというふうに思いましたし、いろいろなノイズがないほうがいいなとか、多くの人に喜んでほしい。そのためにできることは何なんだろうということを探すのが楽しい。

燃え殻: はい。だとしたら喜ばせたいなっていう、ラジオ投稿だったりとか山藤さんに喜んでほしいみたいなのに近いんですけど、どうせだったらこれで喜んでもらったらうれしい。その人を驚かせるとか、その人を悲しませるとかって、ある意味簡単というか、狂気的なことをすればいいんですけど、面白がらせるってけっこう大変だぞって思って。

燃え殻: だから、どんな状態かはわからないから、まあ、自分自身がそんな明るい人間じゃないんで、ぼくがこれぐらいに思えば、ほとんどの人だったらもうちょっと、多分、人生に調子が出るだろうから……

燃え殻: うん。もっとみんな喜んでくれるんじゃないかなって思って。俺がこのぐらい喜んでるんだから、けっこうみんな喜んでくれるんじゃないかなっていう、自分の物差しというか自分のハードルが低くて、これはものを作るのには向いてるんじゃないかなっていうふうに、自分では思ってるんです。

（おわります）