知らない誰かに喜んでもらいたい
担当・髙橋元紀
第3回 どうしても気になっちゃうこと
- 燃え殻
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このあいだ、テレビに出たんです。そしたら、「途中でこれを言ってください」って1個だけ質問があったんです。ぼくが言う質問っていうのが。「これだけなんで。あとはこっちで全部巻き取るんで、これだけ言ってくださいね」っていわれて。でも、それがすごい気になっちゃって。
- 糸井
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大変だよね、うん。
- 燃え殻
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ずーっとそれのこと考えてるんですよ。
- 糸井
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俺もまったくそう。
- 燃え殻
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それが1個入っちゃうことによって、全部ダメになっちゃうんですよ。
- 糸井
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わかる。もうまったくそう。
- 燃え殻
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「これだけは外せない。そのタイミング、きっかけ出しますから」って言われたんです。「ほかはフリーでお願いします」。
- 糸井
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「自由にやってください」。
- 燃え殻
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「自由にやってください。こっちが全部質問しますから。でも、それだけはお願いしますね。きっかけは出します」。もうそのきっかけ、ずーっと見てました、ぼく。
- 糸井
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テレビは今もう、それの山になっちゃってて。だから、この話をこの時間でまとめるみたいな前提でやるから、もうできてるんですよね、始まる前から。台本の通りに進んで、今考えついたかのように進むっていうのが大体だから、用意してることをしゃべってるし。それは確実に望んだ面白さにはなるわけですよ。でも、なんかそこで失われるものがね、嫌なんですよね。
- 燃え殻
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もう、求めてる答えがあるんですよね。
- 糸井
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ある。こうするとこうなるんですよねっていうコツと結果みたいになってるんです。「卵に穴あけとくと、ゆで卵を剥くとき、うまく剥けますよ」みたいな。「あっ、だから穴をあけたんですね!」みたいなね。「わかんないんですけど剥けるんですよね」って。みんなの役に立つことにしたいから。

- 燃え殻
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ぼく、スマホで今回小説を書いたっていうことで、それで何度か受けた取材で、答えが決まってるのがあったんですよね。質問シートが来たんです。それにぼくの答えがあらかじめ書いてあったんです。
- 糸井
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はいはいはい。
- 燃え殻
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違うこと言ってもいいと。ただ、一応答えは用意しています、って。その回答の中に「スマホで書いたことによって、スマホ世代の人たちに読まれる小説になりました」って書いてあったんです。
- 糸井
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引っかかる(笑)。
- 燃え殻
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引っかかる(笑)。
- 糸井
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引っかかるよね。
- 燃え殻
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引っかかる自分というのがいて、実際はワードが使えなかったりとか、あと移動の時間とか普通に仕事してるので、移動の時間とかに書くことが一番効率がよかったんですよね。
- 糸井
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うんうん、実は(笑)。
- 燃え殻
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実は。で、日比谷線の中だったりとか、そういうところも出てくる小説だったので、日比谷線の中で書いてると都合がいいんですよ。で、ちょっとそれにスマホ世代の人たちを意識して書いたぼくっていうのも入れてる。
- 糸井
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マーケティングだよね(笑)。
- 燃え殻
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うっすらとその答えに沿わせたんですよ。
- 糸井
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ああ、ああ。ちょっと重いよねえ。
- 燃え殻
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それが仕上がってくると、そこが強調されて出てきたりとかする。
- 糸井
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そうだね。他人が言ったら、「えー?」って思うことを自分が言わなきゃいけないんだよね。
- 燃え殻
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そう。そう。
- 糸井
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(笑)。それは昔、『11PM』って番組があって、「原宿のことはなんでも知ってる糸井に聞いてる」みたいなことを言われて、違うって思って。原宿で仕事してて、そのへんで生活してるだけで、実際は原宿について知らないからもうヘラヘラしてるしかないの。これはいかんと思って、そういう番組は行かないことにしようと思ったね。なんか流行について知ってる人みたいな立場でしゃべらされるのは、よくないと思って。
- 燃え殻
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ああ、そういうご意見番みたいな。
- 糸井
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ご意見番的なね。流行とか若者の生態みたいなところで、若いからってそれに詳しいって思われるのは、もっと詳しい人に追い抜かれるためにいるみたいなものだから。そんなところで消費されたくないと思った。でも、燃え殻さんが自分で書いたものの話だから、なかなか断るの難しくなりますよね。
- 燃え殻
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難しいですね。

- 燃え殻
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また、肩書がまた難しいんですよ。ネットで出すときの肩書、新聞で出すときの肩書、その新聞の種類にもよる。雑誌のときに、向こうからある程度、「この肩書どうですか」って、またそれもスッと来るんです。
- 糸井
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いくつもあるわけだ。
- 燃え殻
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はい。
- 糸井
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例えば何がある?「作家」はある?
- 燃え殻
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「作家」もある。「会社員」もあった。
- 糸井
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(笑)。あとは何がある?
- 燃え殻
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「コラムニスト」みたいな。
- 糸井
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ああ、なるほど、なるほど。
- 燃え殻
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コラムニストと言っていいの? って(笑)。
- 糸井
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はいはい、でも、まあ、あるだろう。
- 燃え殻
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「ライター」と言われたこともある。あとはテレビ美術制作。
- 糸井
-
ああ、なるほど、なるほど。
- 燃え殻
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「ツイッタラー」。
- 糸井
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「ツイッタラー」。

- 燃え殻
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これね、面白半分に言われたんですよ。「それでいいです」ってぼく言いましたけどね(笑)。「作家」だったら炎上するかもしれないですけど、「ツイッタラー」だったら、バカだって言って笑われて終わりじゃないですか。だったらそっちでいいです。
「会社員」でもいいんですけど。でも「会社員」って振りかぶって、すごい長い文章書かされたんですよ(笑)。なんで「会社員」って肩書でこんなに長いこと文章を書かされなきゃいけないんだっていう。
- 糸井
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確かに長い文章と「会社員」は合わないな(笑)。
- 燃え殻
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そう。合わないじゃないですか。でも、そっちで用意してきたのがそれで、だから、「作家でいいですか」って言われるのが一番……
- 糸井
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やりにくいんだね。
- 燃え殻
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やりにくいんですよ。で、「あ、それは、『テレビ美術制作』でお願いします」みたいな。
- 糸井
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それがしばらくは、じゃ、真ん中に入るのかな、「テレビ美術制作」が。
- 燃え殻
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糸井さんって今の肩書なんですか?
- 糸井
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今は、「ほぼ日刊イトイ新聞主宰」か、「ほぼ日社長」が増えたな。「コピーライター」もまだまだいっぱいありますし、その3つかな。
俺、思うんだけど、地方の新聞に出るときの肩書が一番一般的に通用しやすいんじゃないかね。
- 燃え殻
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本当にそう思う。
- 糸井
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ねえ。だから、地方の新聞に俺が出てるときには、「ほぼ日主宰」とか書いてあるよりは、「コピーライター」って書いたほうが、なんか落ち着きがいいと思うんですよね。それだったらそれでいいやっていうのをぼく、もう最近ほら、「樋口可南子の旦那です」っていうので‥‥
- 燃え殻
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(笑)
- 糸井
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もういざとなったら自分から言うからね。もうそれが、「あ、出ない、えーと、えーと、あの人の」って言ったときに、「あの人」っていうのは樋口可南子だなと思って、「そうです、樋口可南子の旦那です」って。
- 燃え殻
-
(笑)
- 糸井
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もうね、攻めてくの。さっきの「楽しめ」と同じ。鶴瓶さんから学んだよ、それ。鶴瓶さんも、声かけられそうだなと思ったら、「鶴瓶でございます」って。
- 燃え殻
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あ、もう先に。
- 糸井
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うん。「どうした。おばちゃんどうした」って。
- 燃え殻
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それ鶴瓶さんだからなあ。
- 糸井
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鶴瓶さんは攻めてく。俺、一緒に歩いたことあるんだ、大阪を。攻める攻める(笑)。

- 燃え殻
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また目立ちそうですもんね。
- 糸井
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そう。遠くからこっち見てるなって気づいただけで、攻めてくもん。「どこ行くん?」って。どこ行くかどうだっていい(笑)。
- 燃え殻
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あ、質問すらする?
- 糸井
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そう。質問する。あれはすごいわ(笑)。だから、被害ないですよ。被害ないっていうか、自分のしたことだから。だから、さっきの「楽しめ」とそれは似てますよ。主体は自分で、自分のやることとしてどうしたいんだっていうのを問いかけてるのが「楽しめ」ですよね。
「こんなコンサート、誰がやるつったんだよ。俺だよ。だったら、俺が嫌なんだったらやめればいいじゃないか。なんでやるんだよ。自分が楽しいからだろ? うれしいんだろ? じゃ、楽しもうよ」っていう、こういう順番ですよね。
そしたら楽しめるじゃないですか。あ、今、なんかすごく俺、大人としていいこと‥‥
- 燃え殻
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大人としていいこと。
- 糸井
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それはだから、こういう場面にも言えるよ。別に嫌だと言ってるわけじゃないけど、より楽しむ(笑)。
- 燃え殻
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より、もっと楽しめばいいじゃないか。
- 糸井
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本当そうなんですよ。だから、「そう言ったってな、楽しめるなんてもんじゃないよな」って思っているときに、でも、楽しむっていう選択肢はあるんだって思い出すだけで変わると思うよ。
- 燃え殻
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それ、本当そうなんですよねえ。
- 糸井
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本当そうなんですよ(笑)。
- 燃え殻
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本当そうなんですよね。