燃え殻さんに聞いた「書く」ということ

燃え殻: 小説を読まないという前提が今あって、
その前提のもとにボクはやらなきゃいけなくて。
さらに無名だっていうところで、もう二重苦で。
　
そこで、インターネットだったり、YouTubeだったり、
まとめサイトだったり、そういったスマホを使う皆さんの時間を
どうにか小説のほうに引きずり込みたいなっていうのが
あったんですね。

燃え殻: で、そのひとつはやっぱり「言葉」っていう部分で、
読んでるときのリズム感って、文章にすごくあると思っていて。
リズム感のために書いてあることを変えてもいいと
ボクは思ったんです。
これは小説家の方からしたら、「何言ってんの？おまえ」
って話になっちゃうかもしれないですけど、
このリズムだとこのセリフはよくないから変えちゃおう。
そうするとスッと読めるよね。っていうほうを選んだんです。
一気読みできるようなものにしたいなっていう。
　
どちらかといえばYouTubeで聞いてる音楽と、この小説と、
異種格闘技戦をしなければ多分読んでくれない、という気持ちが
ボクはありました。

糸井: 音楽を作る人が、それこそメロディを「あ、こうじゃないな」
というのと同じだから、いいんじゃないの？
　
原稿を直されたりっていうのを新人のときにはするけど、
そういうやりとりはあったんですか。

燃え殻: あ、ありました。
女性の編集の方だったんで、ボク（男）としてはアリな表現を、
「女性は読んだときに嫌悪感があります」
って言われたものに関しては、バッサリ捨てました。

糸井: 多分、今、「本を作る」っていうのは、
「作品を出す」っていうことと、「商品を出す」ということと、
二重の意味があって。
だから女子が引くなら引くで、
引けよっていう「作品」じゃないですか（笑）。
でも、
「女子が引くんです。」
「あ、そうですね。きれいにしましょう」
って拭くのが「商品」じゃないですか。
伝わるものが出したいんだったら、バランスの問題だから。
　
やっぱり世の中の物事は、
「作品」と「商品」の間を揺れ動く“悲劇”なんじゃないの？
だって「結婚は愛じゃない」とか言う人だって
いるじゃないですか。「事業」だとかさ。
で、「そういう人とは一緒にならないほうがいいわよ」って
忠告するのは、「商品として完成しなさい」って話じゃない。
恋愛のまま突き進んでいって失敗する人というのは、
作品が売れなくなって大変な思いをする人。
両方ありますよね。

糸井: バランスをよくする方法を、
一生懸命コツがあるかと思って探すと、
実はバランスを壊すんだと思う。
近くを見てると倒れるというか。
あとは、バランスをちゃんととるためには、
入れ物の大きさを変えちゃう。
何でも放り込めば、自然にバランスとらざるを得ないんで。

燃え殻: そうですね。
あと、インタビューで話していたウソ（小説を書いた理由）が
だんだん自分の中で板についてくるというのもあって、
それは、もしかして「気づき」なのかもしれないし。
ああ、そういうことを求められてたのかって。
ボクは受注体質なので、普段の仕事が。
「そうお客さんが思うんだったら、そうしたいな。
そういうものが作れたんだったら、それでいいじゃないか」
って思うんですよね。
　
ボク自身が、大好きな小説や映画がすごい少ないんですよ。
で、テレビの番組も少なかったんですけど、
好きなものに共通してるのって、
やっぱり見たあとに自分語りをしたくなるところ。
　
ボク、糸井さんに初めてあったときに、
「『イトイ式』で糸井さんのことが大好きになりました」
って言いましたけど、あの番組がすごかったのは、
糸井さんが答えを出さなかったというところ。
そうすると、終わったあとに、
「糸井重里はこう言ったけど、俺、こう思うんだよな」
とか、自分語りをしたくなる。
そういうものがやっぱりボクはすごい好きで、
そういったものが自分としてもできたのならば、
とてもうれしいというか。

糸井: うん。ぼくはよく言うのは、
自分が一番好きなのは「場を作ること」だから。
いろんな人がそこに来ると自分らしくなれる、
あるいは、人の話がどんどん聞けるようになる。
そういう場ができるのが、ぼくにとって一番喜びなので。
　
だから、ぼく自身が作ったものが褒められるというのは、
瞬間的にはうれしいんだけど、
それよりは、作った場で出てきた人が褒められてるほうが
うれしいんですよね（笑）。

燃え殻: あ、それはすごいわかります。
大槻ケンヂさんに会ったときに、
「大槻ケンヂさんが小説を書いたあと、
ボクも小説を書きました」って、
「面倒くさいファン」みたいなこと言ったんです。
「それはうれしいよ。面倒くさいけどうれしい」と
大槻ケンヂさんは言ってくれて。
そういうものであれってボクは念じてますけどね、今。
そういうことがひとつでもできたら、
「よくやったなみたいな、自分」って思います。