ボクたちはみんな大人になれなかったスペシャルトーク 銀座LOFT編
第4回 燃え殻さんの「リズム&ブルース」
- 糸井
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何かをいろいろ集めてるよって話、
他の人から聞く側になったことある?
- 燃え殻
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あんまりないかな
- 糸井
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ない?自分が話す側だったんですか?
- 燃え殻
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そうですね。
- 糸井
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ああ。人に話を聞いてもらうって、
人間にとってものすごくうれしいことですよね。
- 燃え殻
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そう。すごくうれしくなりますよね。
- 糸井
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ね。あと見事な歌詞だと思うんだけど、
クレイジーケンバンドの「俺の話を聴け!2分だけでもいい」
- 燃え殻
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いいですね。2分だけ(笑)
- 糸井
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「貸した金のことなんかもういいから、俺の話を聴け」って、
あの曲はすごいこと言ってるけど、よく考えると
ブルースでよく歌われてるのはそういうことですよ。
「嫁がまた俺をろくでなしって言いやがったァ」みたいな。
あれも「俺の話を聴け」であるわけで。
- 燃え殻
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あー。ものすごくコアな話なんだけど、
ちょっと自分とシンクロする部分を見つけちゃったりして
聴いてる方としても心地いいのかな。
- 糸井
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しかも、似たような生活をしている人が聴けば、
それぞれが自分のお楽しみについて歌ったとしても、
周りはみんな「そうそうそうそう・・・・」
- 燃え殻
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「俺のことを歌ってるんだ!」ってなるんだ。
- 糸井
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うん。
こうしてブルースミュージシャンがやってきたことを、
今俺も繰り返してるのかな、とは思いますね。
燃え殻さんのあの小説も、けっこうブルースに近いですよね。
- 燃え殻
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ああ、そうかもしれない。
- 糸井
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ぼくがこの本の帯に
「リズム&ブルースのとても長い曲を聴いているみたいだ」
と書いたのは、そんな気持ちからなんです。
若いときの僕は、オーティス・レディングの
「ドック・オブ・ベイ」って歌が大好きで、
ああ、この歌ずっと聴いていたいなあと思ってたことがあって。
- 燃え殻
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ああ、なるほど。
- 糸井
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それはぼくがスナックでバイトしてたときだったので、
そのお店のジュークボックスで、知らない誰かが
「ドック・オブ・ベイ」をかけてくれると嬉しかったんです。
- 燃え殻
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ああ、すげえわかる。
- 糸井
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「リズム&ブルースのとても長い曲を聴いているみたいだ」
っていうのは、その若かったときの自分が
この小説をものすごくほめているつもりなの。
種明かし的にいうと。
- 燃え殻
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すごくうれしいです。
- 糸井
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あと、燃え殻さんの小説の中には
自分のための世の中じゃないところに
居させてもらっている感じがありますよね。
俺のためにあるわけじゃない町に紛れ込んでみたり、
俺のためのパーティーじゃないところにいたり(笑)
- 燃え殻
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はいはい。なんかこう、
僕は「そこに所在がない」って場所で
ずっと生きているような気がしてて。
- 糸井
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いる場所がない(笑)
- 燃え殻
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はい。
会社自体も、社会の数に入っていない気がしてた。
で、その居場所がないっていう共通言語を持った人と・・・・
- 糸井
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会いたいよね
- 燃え殻
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そう、会いたい。いつも思ってます。