もくじ
第1回手土産研究家の田中さん。 2017-03-28-Tue
第2回27歳の「ヒロ君」。 2017-03-28-Tue
第3回読む人として、書いている。 2017-03-28-Tue
第4回ずっとアマチュアでありたい。 2017-03-28-Tue
第5回結論は、「ご近所の人気者」。 2017-03-28-Tue

フリーランスのライターをしています。
旅先で、おいしいお酒とごはんを楽しんでいる時が心底幸せです。
Twitter:@yabu_tw

書き手の前に、</br>読み手なんです。

書き手の前に、
読み手なんです。

24年勤めた電通を退職したばかりの田中泰延さんと、
糸井重里が話しました。
今の肩書きは「青年失業家」だという田中さんと
これからの展望を話すことになるのかと思いきや、
話題は「書く」ことに。

いつもとんでもない長さのコラムを書いている田中さんに、
19年近く「今日のダーリン」を書き続ける糸井。
こんなにも書きまくっている二人ですが、
実は、「読み手」なのだそうです。
いったい、どういう意味なのでしょう?

プロフィール
田中 泰延さんのプロフィール

第1回 手土産研究家の田中さん。

糸井
今日も手土産を持ってきてくださって。
いつもありがとうございます。
「手土産研究家の田中さん」とぼくは認識しています。
田中
いつそんなことになったんでしょうか(笑)。

糸井
どうしてあんなに手土産を?
営業をしていらしたんですか?
田中
いやいや、まったくしたことないです。
やっぱり、もらうとうれしいっていう経験がすごく大きくて。
自分が持っていくものはだいたいつまらないものですけど。
糸井
うん。
あ、うん、じゃないか(笑)。
一同
(笑)
田中
でも、「つまらないものです」って、
すごくいいコミュニケーションなんですよ。
昔、田村正和さんに、「つまらないものですけど」って
田村さんがテレビドラマの中で乗っていた車の
ミニカーを渡したことがあるんです。
そうしたら田村さんは、
あの口調で「本当につまらないね」って(笑)。
でも、そう言いながら鞄にしまっていたんですよ。
それ、すごくいいなぁと思って。

糸井
田中さんは、「つまらない」のハードルを
ものすごく下げた状態で、選んでいますよね。
田中
大阪のお土産のいいところは、
中身のおいしさを問われないところなんですよ。
「面白い恋人」とか、もうネーミングだけで
コミュニケーションツールになるんです。
糸井
でも、この間塩野米松さんとお会いした時は、
揚げ煎餅と揚げ饅頭のセットだったでしょう。
あれで、田中さん像がちょっとずれちゃって。
 
今までは、「つまらないもの」という低いハードルを
相手に越えさせる流れだったけど、
「これ、うまいじゃん」って(笑)。
田中
あれは本気です。おいしいから。
わざわざ東北から来られている塩野さんに、
お約束のお菓子を渡すのはさすがにちょっと‥‥。
糸井
微妙に使い分けているんですね。
田中
小ずるく生きてますから。
糸井
今までの路線とはっきり違うから、
あれでまた田中さんへの興味がわきましたよ。
そんなところでもコミュニケーションしているんですよね、
ぼくらは。
 
あと、今だから言える秘密が1つあって。
お花見問題。
田中
はい。大問題ですね。
糸井
あれ、言っていいですかね。
田中
ええ。
糸井
田中さんのお手柄なんで、
客席(同席している乗組員たち)に向かわないと
ちょっと言いづらいんですけど…。

糸井
電通関西支社で田中さんがいらっしゃった部署は、
梁山泊みたいなところなんです。
田中
40年ほど前に、
「東京のカッコいい広告にカウンターパンチを食らわせよう」
と生まれた部署なんです。
どんどんおかしな人が集まって、
本当に梁山泊みたいな集団になってしまって。
そこに糸井さんがいらしゃることに。
糸井
個人で会うことはあっても、
チームとしてみなさんにお会いするのは初めてで。
圧の強い人たちの集団なわけですよね。
しかもお花見っていうんだから、
お酒があるのもわかっている。
田中
はい、はい。
糸井
そこに、田中さんの案内で参加したんです。
その時が初対面だったんですよね。
京都の駅で待ち合わせて、
「やぁやぁやぁ、どうもどうも」って会ったわけです。
そしたら、その時も紙袋を下げてる。
しかも2つ。
田中
(笑)
糸井
1つは、
「つまらないものですが、糸井さんにお渡しするものなんです。
ただ、荷物になりますから、ぼくが帰りまで持っています」と。
「渡さない」という知恵を使っているわけです。
 
もう1つ、重い一升瓶を持っていて。
「梁山泊の方々は、とにかく酒さえあれば機嫌がいいので、
申し訳ないですけど、
これを糸井さんからの差し入れだということにして、
渡す時だけ持っていただけませんか」。
この人は何十年営業畑にいたんだろう、と思ったんですよ。
田中
開けると、
のしに筆文字で大きく「糸井」って書いてあるんですよね。
糸井
その念の入り方があんまりすごいから、もう笑うしかなくて。
言われた通りに渡したら、やっぱり湧くんですよ。
田中
糸井さん、「あのぅ、これ、ぼくが‥‥」って、
すごく小さい声で、後ろめたそうにおっしゃるんです(笑)。
 
特別ゲストだったので、少し遅れてお連れしたんですよね。
みんなもう酔っ払いだから、
「ワーッ!」ってその包みの紙をグシャグシャ取って。
そしたら「糸井」って書いてあって、
しかも大好きなお酒が出てくるもんだから、
さらに「ウワァーッ!」って(笑)。

糸井
すごいんだよ。
ガソリンを焚火に投入したみたいに。
田中
喜び方の浅ましさ(笑)。
糸井
その時、ああこんなに盛り上がるんだったら、
手土産を持ってきたほうがいいんだなぁ
っていうのを感じたんです。
あれ、大阪から来た人が東京の集いで同じことしたら、
「あぁ、どうも」でおしまいですよね、きっと。
田中
あぁ、そうですね。
それが、瞬時に開けて、
糸井コールが起きるんじゃないかくらいに盛り上がって。
一斉に注いで、一気に飲んでましたからね。
糸井
そう。
で、そのメンバーは馬鹿じゃないんです、
そこがいやらしいところで(笑)。
「馬鹿じゃない」と「馬鹿」が一緒になっているんですよね。
田中
なんでしょうね、あの人たちは。

(つづきます)

第2回 27歳の「ヒロ君」。