もくじ
第1回『朗読が好き』の再発見。 2016-11-08-Tue
第2回声優さんの養成所へ行こう! 2016-11-08-Tue
第3回そして初めてのお仕事は。 2016-11-08-Tue

文章を書くことが好きな人です。
名前を出して文章を書いたり、
名前を出さずに文章を書いたりして生きています。
特技はお箏を弾くこととタロット占い。
沢山ペンネームを持っているので、
色々な名前で呼ばれます。
とても陽気なお姉さんで、
仕事をしながらすぐ歌を歌ってしまうのが欠点。
最近の趣味は、
『ドコノコ』で、
飼っている犬の写真をアップすること。
うちの犬は本当に可愛い。

私の好きなもの「朗読」

私の好きなもの「朗読」

担当・山口じゅり

第3回 そして初めてのお仕事は。

◆前へでよ、人に好かれる可愛げをもて◆

『筋力をつけ、
滑舌よくしゃべることができて、
文章を読んでつかえない』
これらができないと、声優さんや、
ナレーションをする人には、
どうやらなれないみたいだ、
という話は、
ひとつ前の養成所での話で書きました。

が、これらは声の仕事をするときに、
最低限できなければいけないことで、
全部きちんとできたとしても、
なんと仕事ができるというわけではないのでした。

じゃあ何ができたら、仕事ができるんでしょう??
その一つは、
手を上げて、前に出ることかもしれません。

「これやる?」
って言われた時に誰より最初に、
「私がやります」
って飛び出すこと。
いえいえ、もっと言うなら、何も言われてなくても、
「私これやりたいんですけど、やっていいですか!?」
って提案しちゃうくらいでちょうどいいかもしれません。

養成所に行って驚いたのは、
小学校や中学校、高校とは、
授業の感じが、
まったく違っている事でした。
先生が何か言う。
それについて、私やります!
と言えば、何かを割り振ってもらえる。
でも、黙って待っている人は、
放っておかれる場合も結構あります。
疑問や質問は、
自分から訊きにいかないとわからないままだし、
じっと座って自分の番を待つ、みたいな姿勢だと、
何もしないまま授業が終わってしまうことも。

養成所では、自分からどんどん前へ出て、
どんどん手を上げて、
どんどんやっていかないと、何も始まらないまま、
終わっちゃうことだってあるのです。
そういうところは、今まで私の通っていた、
いわゆる普通の学校とはまったく違っていて、
とても驚いた点です。
先生方はとても優しいし、熱心ですけど、
受け身の姿勢の人には、とても厳しかった。

実際やってみて、何事にも前に出るというのは、
勇気がいるものでした。
でも、やっているとだんだん慣れます。
100回もやれば、
どうってことなくなってきます。
前に出るのが怖くなくなったことで、
人生のほかのことでも、
臆せずに手を上げて、
前に出ることができるようになったので、
これはとても良かったな、と思っています。

仕事をするために、もう一つ大切なのが、
『人に好かれて、可愛がられる人になること』
だと先生たちが仰っていました。
つまりは、人に気を使うことができて、
楽しませることができる人にならないといけないよ、
ってことですね。
しかも、それが人一倍できないといけない。
実際、プロとしてやっている養成所の人たちは、
人当たりがよくて優しくて、気がまわる人ばかりです。
私は、そういうところ、まだまだなので頑張らないとです。

◆喜びを見つけ、親切に。人のいいところを見る◆

何か特別な訓練を受けていない、
普通の人が、普通に文章を読んだ場合、
『普通』にはきこえません。
実は、普通の人が普通に文章を読むと、
それをきいていた人は、
ほとんどが、
「あれ、この人怒ってる?」
とか
「あれ、なんか悲しいことあった?」
とか、思ってしまいます。
普通に読んでいるのに、
なんだかネガティブな感じに聞こえてしまうのです。

普通のニュートラルな感情で読んでいることを、
相手に伝えたいなら、
少し気持ちを上にあげて、
わかりやすく言えば、明るく読まないと、
相手には、悲しかったり、
怒ってるようにきこえてしまって、
『普通』に読んでいるようには、
きこえないんですよね。

『普通』に読んだら、
『普通』にきこえそうなものなのに、
でも、そうじゃない。
対面して語りかけていれば、
言葉の他に、表情やしぐさもありますから、
言葉だけでは伝わらない部分を補完して、
その『普通』は、
言葉と一緒に伝わってくれるのでしょうが、
ただただ言葉だけで何かを伝える場合、
少し上向きの何かを足してあげないと
『普通』にはならないなんて、
私にとっては、とても不思議なことでした。

他にも、不思議なことがあって、
養成所では、喜んだり笑ったり、
はしゃいだりする演技の練習があるのですが、
これが、入ったばかりの生徒さんたち、
大概が大苦戦します。
もちろん例に漏れず、私も大苦戦です。
いつも普通に笑ったりはしゃいだりしているのに、
演技でやると、なかなか楽しそうにならないんです。
逆に、怒ったり悲しんだりといった、
マイナスの感情を伴う表現は、
すんなりいつもどおりにできる人が、
とっても多い。

考えるに、私を含め世の中の大多数の人たちは、
ポジティブな表現よりも、
ネガティブな表現の方が、
上手なのかもしれません。
演技が日常の自分の延長線上でもあるなら、
もしかしたら、人間は、
演技だけじゃなくて、
普通生きているときも、
怒ったり悲しんだりする、
ネガティブな表現のほうが上手で、
喜びとか嬉しさとか、
ポジティブな感情を表現するのが、
下手なのかもしれません。
何かを読んで、演技しているときに、
嬉しい感情を表現するのが、
怒ったり悲しんだりよりうまく出来ないものなのだ、
ということは、私の中で新しい発見でした。

じゃあこれをどうやって解決していくのか、
ある先生が言っていました。

『ポジティブな表現をうまくやれるようになるには、
喜びを日々の中でたくさん見つけることが大事だよ。
喜びは、どんな小さなことからも、
見つけられるけど、
自ら見つけようとしないと、
そこに喜びがあることにすら気付けない。
人に声をきかせる仕事は、
喜びを見つけることが、
上手じゃないとできないんだよ。
とても難しいことだけど、
喜びをたくさん見つけること、
喜びの幅を広げることです。
色んな人と接して、その人に敬意をもって、
ポジティブに接していくことが大切だよ。
誰かを好きになったり、
色々なものの好きなところを見つけるようにしたり、
人に対して優しい目を持てば、
たくさん喜びを見つけることができるよ』

人に対しての優しい目が必要と言われ、
私は考えました。
私は自分について、とても優しい、とは思いませんが、
人並みくらいには優しいかなと思っていました。
しかし、どうやらそれでは足りなかったようです。
それに、私は人に対して、
けっこう、批判的な目で見がちです。
ああ、今のままの自分じゃ、だめなんだなぁ。
と、私は思いました。

とにかく優しさが大事みたいだ、と思った私は
優しくなるように努めました。
何かするなら、
ついでに誰かを喜ばせられないかな、
助けられないかな、と考えて実行したり、
目の前にいる人を、
批判的に見るのではなく、
優しさと敬意をもって見つめて、
その人の美点を最低でも一つは考えて相手に伝えてみる。
そういうことをとりあえず始めてみました。

結果として、大きな効能がありました。
『人を褒めるのが上手』
という、いまだかつて言われたことのなかったことを、
養成所に行ってから、
何度も人から言われるようになりました。
それで演技が上手になったかは・・・・
えー、正直ちょっとわかりませんが、
多分前よりはましになりました(笑)。

◆初めてのお仕事◆

さて、毎日朗読の練習をしたり、
養成所へ行ったりしていたある日のこと。
ずっと前に、
ナレーションの指導をしてもらったことのある先生から、
電話がありました。

「じゅりちゃん、
前よりずっと読むのが上手になったし、
良かったら仕事を一緒にしよう!
こういう仕事があるんだけど・・・・」

と紹介されたのは、ラジオ局のCMを読む仕事で、
私にとっては、初めてのお金をもらう声の仕事でした。
車の会社さんのCMです。
正式にやることが決まった時は、
嬉しくて、家で喜びの舞を踊りました。
(比喩ではなく本当に踊りました)
本当に声で仕事ができるようになったんだ!
と思うと、とても嬉しかったのです。

どきどきしながらラジオ局の裏口から入って、
生まれて初めて仕事用の高そうなマイクの前に座った時、
うきうきして仕方ありませんでした。
ディレクターさんは渡辺さんという人で、
どうやら周辺の雑談をきいていると、
昨日は夜の24時くらいまで仕事をして、
今日もそんな感じになりそうで、
とにかく忙しそうで、ちょっと厳しそうな人でした。

そして、指示をもらいながら収録したのは、
15秒のCMです。
この15秒のCMをきっちり録るのに、
私は・・・・
なんと1時間以上かかりました!
ごめんなさい!

収録終わりに言われたのは、
「君の声全然使えない」
の厳しい一言。
でもその一言の後に、
「でもねぇ、
君、今日が初めての仕事なんだったら、
初めてなのに、
マイク前で全然動じないっていうのは評価できる」
と渡辺さんは笑っていました。
その後、渡辺さんは、
収録中も各方面からじゃんじゃん電話もかかっていて、
傍目に見ても超忙しそうだったにもかかわらず、
「君もっと仕事したいんなら、
こういうのはできる?じゃあこういうのは?
次はこういう風にしゃべってみて・・・・、
これならお正月のCMに使えるか・・・・?」
と、収録が終わって、もう私なんか帰しちゃっていいのに、
1時間以上時間を使って、今後仕事に使えそうな、
『私の仕事向きの声』を、一緒に探してくれました。
渡辺さんの優しさに私はちょっとうるっとしました。
ありがたやありがたや・・・・。

◆文字を読むのは、楽しい!◆

「秋の新定番、オリジナル限定車が登場・・・・」

車を運転していた私は、カーラジオから流れた自分の声に、
はっとしました。
『そうだ、収録したCMがそろそろ流れるころだった!』
思わず車を止めて、15秒のCMに聞き入りました。
カーラジオからきこえてくる自分の声は、
どこか取り澄ましていて、
いつもの自分の声じゃないみたいです。
あ、やっぱり思ったようにはできてないや・・・・
という反省が浮かぶのと同時に、
私の声が、ラジオから聞こえてくる、
ということが何よりも嬉しくてじーんとしました。
読むことは楽しい、自分の声で仕事をするって、
なんて面白いんだろう、
もっと仕事をしてみたいなぁ、
と正直に思いました。

文章を読むって、奥深い世界です。
やればやるほど、勉強すればするほど、好きになります。
私は、きっとこれからも好きを原動力に、
朗読を頑張っていくと思いますので、
「こんな人もいるんだなぁ。頑張れよ」
と読んだあなたが思って下さったら嬉しいです。

さて、これで私の好きなこと語りは終わります。
本当、好きなことを思う存分語るのは楽しかった!
大好きなものがあるって、とても幸福なことですね。