浅生鴨さんと話した、ちぐはぐな心。

第4回 ぼくはあっち側にいたかもしれない。
- 糸井
-
今回の小説は頼まれて?
- 浅生
-
はい。
- 糸井
-
頼まれなかったらやってなかった?
- 浅生
-
やってないです。
- 糸井
-
頼まれなくてやったことって何か…?
- 浅生
-
NHKにいた頃、東北の震災
のあとにCMを作ったんです。
それは自分から企画しました。
「神戸は17年経って
日常を取り戻しました」っていう
CMを東北に向けてではなく、
単に「神戸の今」っていう。でも
「何で東北じゃなくて神戸なんだ」
って言われて。
- 糸井
-
それはね、決めた人の心は
わかんないんだけど、
ビックリしたことがあって。
神戸がどのくらいかかったか、
みたいな話って、東北の人が
聞くとがっかりしちゃう。
こうなるまでに2年ぐらい
かかったんだよねって
言ったら、
「ええっ、2年ですか」って。
- 浅生
-
でも、覚悟はやっぱり必要で、17年
経って笑えるようになったとか、
ある種、覚悟を持たなきゃいけない。
それぐらいです、
自分からやろうと思ったのって。
あとはだいたい受注ですね。
- 糸井
-
神戸のときは‥‥。
- 浅生
-
揺れたときは
神戸にいなかったんですよ。
- 糸井
-
あ、そうですか。
- 浅生
-
揺れた瞬間はいなくて、燃えてる街を
ただテレビで観てて。
当時ぼく神奈川の大きな工場で
働いてたんです。
そこの社員食堂のテレビを
見てたらワーッと燃えてて、
犠牲者が2千人、3千人になるたびに
周りで盛り上がるんですよ。
「おぉーっ」って。
それにちょっと耐えられなくて。
すぐに神戸に戻って、水運んだり、
避難所を手伝ったりしてました。
- 糸井
-
あれが神戸じゃなかったら、
浅生さんと震災との関係は
また違ってましたか。
- 浅生
-
全然違うと思います。
- 糸井
-
もしあれが実家のある場所
じゃなかったら。
- 浅生
-
多分、ぼく行ってないと思います。
もしかしたら「2千人超えたー」
って言う側にいたかもしれない。
- 糸井
-
それ、すごく重要なポイントですね。

- 浅生
-
ぼくいつも、自分が悪い人間だって
いう恐れがあって。人は誰でも
良いとこと悪いところが
あるんですけど、自分の中の
悪い部分がフッと出て来ることに
すごい恐怖心があるんですよ。
「ぼくはあっち側に
いるかもしれない」っていうのは、
わりといつも意識はしてますね。
- 糸井
-
そのとき、その場によって、どっちの
自分が出るかっていうのは、そんなに
簡単にわかるもんじゃないですよね。
- 浅生
-
わからないです。
- 糸井
-
浅生さんの大きな決断としては、
東北の震災のときに
NHKの放送を勝手にユーストリーム
にアップしてるのを、
自分の独断で許可しますっていう
ツイートしましたよね。
あれは自分から?
- 浅生
-
いや、でもあれも
「こういうのが流れてるのに、
何でNHKがリツイートしないの」
みたいなのが来て、知ったんです。
人から言われて、
やったようなもんです。
- 糸井
-
まぁ、それはそうだろうけどね。
- 浅生
-
「こんなのがあるんだから、
リツイートしろよ」みたいに来て、
「これはやるべきだな」と思って。
- 糸井
-
あのあたりっていうのが、すごく
「決断だな」っていうのは言えるし、
「これは決断しちゃうでしょう」って
いうくらいの雰囲気もあったよね。
その大きな波っていうのが
読めた瞬間ですよね。
大きく逆らって磔(はりつけ)になる
ようなことしたわけじゃなくて。
- 浅生
-
いいことですから。
- 糸井
-
何とかすればできるし、
「いいことですから」っていう。
あれ、すごく昔のような気がするね。
- 浅生
-
5年前ですね。
- 糸井
-
NHKの人がそういうことを
やったっていうのが、驚きでしたね。

- 浅生
-
ぼくが1番緊張したのは、「これから
ユルいツイートします」って書いた
ときが1番緊張しましたね。
- 糸井
-
あぁ。
- 浅生
-
先のユーストリームを流すのは、
最悪クビになるだけだと思うんです。
でも「今からユルいツイートします」、
日常的なことをやりますっていうのを
書くときは相当悩みました、
半日くらい。
- 糸井
-
そっちの方が悩んだかっていうのも、
よくわかりますね。
最悪どうなるっていうのが
見えないから。
- 浅生
-
どう影響が広がっていくか
わからない。逆に傷つく人が
いっぱい出るかもしれないって
いう恐怖が。
- 糸井
-
ウチもお金の寄付の話をしたとき、
本当に嫌な間違え方をすると
「ほぼ日」の存続に関わると
思ったので。
- 浅生
-
ぼく、女川にわりと直後から行って
FM局を作ったりとかしてたんですけど、
あんまり言わないようにしてて。
言うと、またなんか余計なことが
起きそうな気がしたんで。
- 糸井
-
でもね、人間弱いからさ、
早野さん※みたいに
手に職があればね、
あと頭が良かったりすると、
ちょっと役に立つんだけど、俺らが
「しょっちゅう行ってるんですよ」
って言ってもあんまり役に
立たないんですよ。
※早野龍五。原子物理学者。福島第一
原子力発電所の事故直後から放射線量
など各種のデータを分析し、いち早く
ツイッターで広める活動をしていまし
た。ほぼ日でのコンテンツはこちら。
- 浅生
-
そうですか。
- 糸井
-
そうそう。「もう来なくなっちゃうん
だろうね」って心配に対して
「気仙沼のほぼ日」を作って、
「不動産屋と契約したから2年は
います」とか、そういう誰でも
できることをやったり。
- 浅生
-
ぼくは寄付したくなかったので、
福島に山を買ったんです。
- 糸井
-
え?
- 浅生
-
もちろん、すごい安いんですよ。
ぼくが買える程度の金額なので、
全然大したことはないんですけど。
山買うと、固定資産税を払うことに
なるんですよ。
ぼくがうっかり忘れてても毎年勝手に
引き落とされるので、
持ってる限りは永久に福島のその町と
つながりができるので。
- 糸井
-
何でそういうことするかというと、
「ああいうのが嫌だな」っていう感覚
を2人とも持っているんだと思う。
だから山を買ったり、
支社を作ったりしている。
- 浅生
-
でもぼくはストラクチャーを構築して
るだけで。システムにしちゃえば、
何もしなくてもそうなっていくので、
そうしたいんですよね。
- 糸井
-
ぼくが言ってることと同じじゃない
(笑)。
- 浅生
-
言い換えただけ(笑)。
- 糸井
-
「人が当てにならないものだ」とか
「いいことって言いながら嫌なことす
るもんだ」とか、
そういうな視線っていうのは、
明らかに浅生さんのエッセイとか小説
を読んでると伝わってくるんですよ。
- 浅生
-
不思議なんですよね。人間て、
裏表がみんなあるのに、
ないと思ってる人もいる。
- 糸井
-
「私は絶対そっちに行かない」
とかね。
- 浅生
-
そんなのわかんないですもんね。
(つづきます)