イジワルなふたり。浅生鴨 × 糸井重里
第２回 死ぬはさびしい。
- 糸井
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ふわふわと生きてきたって言ったけど、むかし人生を変えるような大事故が身の上に起こったんですよね。
- 浅生
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はい。ぼくはそれで「死ぬ」ということがどういうことかを…もちろんホントに死んだわけじゃないんですけど。
- 糸井
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でも、心臓は止まってたんですよね？
- 浅生
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一瞬だけ。
- 糸井
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その話、しようよ。
- 浅生
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31歳のときなんですけど、バイクに乗ってたら大型の車とぶつかってしまって。足をほぼ切断し、内臓もいっぱい破裂して、ほとんど死んでる状態で病院に運ばれました。
- 糸井
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普通ならもう死んでるぐらいの大事故だったんだよね。
- 浅生
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そうなんです。そこから大手術をして、10日間ぐらい意識不明というか意識混濁の日々を過ごし…1年ぐらい入院して、いまに至ります。
- 糸井
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うんうん。
- 浅生
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やっぱり「死ぬとは何か」をちょっと理解したんですよ。
- 糸井
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身体で。
- 浅生
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体験しました。ホントかどうかわからないにしても。
「死ぬのが怖くないから俺はなんでもできる」みたいな人、よくいるじゃないですか。
- 糸井
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いますね。
- 浅生
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きっと、それはウソで。
ぼく、死ぬことはそんなに怖くなくなったんですけど、だからといって死ぬのは嫌です。怖いのと嫌なのは別だと思うんですよね。
- 糸井
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より嫌になるでしょうね、きっと。
- 浅生
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より嫌になるというか、うーん…
- 糸井
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どうですか、そのへんは。
- 浅生
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なんか、その、すごくさびしい。
- 糸井
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さびしい。
- 浅生
-
さびしい。
- 糸井
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それはね、若くして年寄りの心をわかったね。ぼくは年をとるごとに、死ぬの怖さが失われてきたの。で、「お父さん！」とか呼ばれながら自分が死ぬシーンをもう想像してるわけ。
- 浅生
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病室でのワンシーンですね。
- 糸井
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そのときになにか一言、言いたいじゃない。
これまでずっと理想だなと思ってたのは、「あー、おもしろかった」。ウソでもいいからそう言って死のう、と。
- 浅生
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うんうん。
- 糸井
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でもね、この頃は違うの。
さぁ命尽きるぞっていう最期、「お父さんがなにか言ってる」とむすめが言ったあとに…
- 浅生
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…
- 糸井
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「人間は死ぬ」。
- 浅生
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真理を（笑）。
- 糸井
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「人間は死ぬ」を、みなさまへの最期の一言にかえさせていただきたいと思いますよ（笑）。
- 浅生
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人間は死にますから。
- 糸井
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うん。
- 浅生
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100%。
- 糸井
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浅生さんは最期の一言を聞かれたらどう答えます？
- 浅生
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事故で死にかけたときは「死にたくない」って思ったんです。すごく死にたくなかったんですよ。
- 糸井
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うんうん。
- 浅生
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でも、もし急に死ぬとなったら…
「仕方ないかな」。
- 糸井
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いいですね（笑）。
「人間は死ぬ」とあまり変わらないような気がしますけど。
- 浅生
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一言「仕方ないかな」と言ってから、終わる気がしますね（笑）。
- 糸井
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「死ぬ」がリアルになったときに、「生きる」のことを考える機会が多くなりませんか？
- 浅生
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そうですね。だからといって、なにか世の中に遺したいとか、そういう気は毛頭なくて。ただ、死ぬということがすごくさびしいことだと身をもって理解したので、生きてる間は楽しくしようと思ってます。
- 糸井
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なにか世の中に遺したい気は毛頭ない。
- 浅生
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はい。
- 糸井
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でも小説、書かれましたよね？
- 浅生
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『アグニオン』。
- 糸井
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あの小説は。
- 浅生
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頼まれたので。
- 糸井
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頼まれなかったらやってなかった？
- 浅生
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やってないです。発注されたので仕方なく…
- 糸井
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じゃあさ、頼まれなくてやったことってある？
- 浅生
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…ないかもしれない。
- 糸井
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変だとうわさの『公式ホームページ』とかは、誰も発注してないと思うんだけど（笑）。
- 浅生
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あれも「話題になるホームページってどうやったらいいんですか」と相談されたので、「じゃあお見せしますよ」と言ってやっただけなんです。
- 糸井
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ほうほう。
- 浅生
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受注体質みたいなものなんですよね。
