古賀さん×糸井さん ~漠とした話~
第4回 苗を植えること
- 古賀
- 今回ミリオンセラーを初めて経験してわかったことは、
前作の『嫌われる勇気』っていう本の存在は
思ったほど知られてないんですよ。
- 糸井
- うんうん。
- 古賀
- もちろん100万人という数はすごいんですけどね
ものって簡単には人に届かないものだと感じました。
糸井さんの中のヒットの基準ってあるんですか?
- 糸井
- 『ほぼ日』始めてからはヒット多様性になりましたね。
ルールをいっぱい持つようになりましたね。
- 古賀
- それはコンテンツごとに、
これのヒットはこのぐらいの基準でというのが
なんとなくあるということでしょうか。
- 糸井
- ぼくが『ほぼ日』以後しているのは、
みんなが既に持っている価値観じゃないところに
自分の価値観を増やしていくことです。

- 糸井
- 例えば100万部に対して5万部はヒットなのかどうか。
5万部もヒットですよという言い方もあるんだけど、
やっぱり100万部という数字の信用度があった場合、
次回作はそれが掛け算になって打ちやすくなりますよね。
それはとっても大事なことだと思うんですね。
- 古賀
- うんうんうん。
- 糸井
-
「僕は黒子です」って言ってた人×100万部、だから。
となると100万部の古賀が、ということになりますね。
- 古賀
- 面白いですね。
- 糸井
- その立て続け感がすごく面白いんですよね。
一発屋って言葉に続いて二発屋っていうの出ないかな。
- 古賀
- ははは(笑)
糸井さんの中に一山当てたいみたいな気持ちはありますか?
- 糸井
- 少しだけね。
今のヒット論みたいに言えば、いつも一山当てたいです。
楽になりたくて仕事してるわけだから。
仕事には苦しさがつきものですからね。

- 古賀
- 『ほぼ日』始められた頃に
働くことが流行ってる、って書かれてたじゃないですか。
あの時期と今では仕事に対する感覚って変わりましたか?
- 糸井
- あの時期はたくさん我慢してたんだと思います。
でも釣りを一生懸命やる経験と、
働くことが流行ってるという経験を同じでね。
釣りは行くまでが大変ですよ。
前日に友達の分まで釣りのセットをセッティングして、
糸を巻き直して、車で友達を迎えに行って。
それでやっと釣りに行けるんです。一苦労ですよね。
- 古賀
- うん、そうですね。
- 糸井
- でもそれをやるために、
楽しくてやってるからいいんですよ。
それと同じように『ほぼ日』は
まだ名前もない頃から楽しんでいました。
釣りするぐらい面白かったんですよ。
でも1つずつの仕事については、ああ嫌だ嫌だ(笑)
- 古賀
- まあそうですよね。僕も本書くのは嫌です(笑)
- 糸井
- 楽しくはないですよね(笑)
- 古賀
- 子供の頃にハマっていたドラクエみたいに、
面白さと辛さと両方あるじゃないですか。
早く竜王に会うにはスライム一匹一匹と
戦い続けなければならない。

- 古賀
- クリアしたその先に大きな喜びがあるというよりは、
そのクリアに向かって地道に動いていることが
目の前にある課題を解かずにはいられないという感覚に
とても近いんですよね。
- 糸井
- それは今、小さい組織を作ってから思ったことですか?
- 古賀
- そうです。
前はもっと露骨な出世欲のようなものがありました。
今は競争欲え消耗するのは勿体ないなと思います。
競争の外にある面白さをようやく知りましたね。
- 糸井
- その意味でも組織を作ってよかったですね。
ぼくにとって人が喜ぶ声が聞こえてくることが大きいですね。
- 古賀
- そうですね。
- 糸井
- ぼくの場合、主役は自分じゃないんだけど
自分が苗を植える仕事が増えています。
実った米や果物を食べて喜ぶ人がいるという、
その循環そのものを作るようになって
飽きない面白さに変わりました。
- 古賀
- 喜びを得ようと思ってはじめた仕事ではないですよね。
- 糸井
-
解決して欲しい問題があるからやっているけれど、
問題がなくてもぼくはやりたいんじゃないかな。
お礼が欲しいわけじゃないんだけど
年を取っても1回どうだ、とは言わせてほしいんですよね。
- 古賀
- わかります(笑)
特にライターだと編集者をビックリさせたいんですよ。
全然期待してなかったはずの原稿を120点で返したときの、
どうだ、という喜びはありますね。
- 糸井
- なんでしょうね。
自分のお通夜の席でみんなが楽しそうに集まっていたら、
ぼくの人生がどれくらい楽しかったかが
わかるじゃないですか。

- 糸井
- 身内だけの小さなお葬式もいいとは思うんだけど、
ぼくは誰が参列してもいいようなお葬式を望んでます。
- 古賀
- 結婚式は自分と奥さんが主役で
祝福されるのを少し強要する空気があるけれど、
お通夜やお葬式ってもう自分がいない儀式ですもんね。
- 糸井
- そうですね。
ぼくはお葬式用の写真は絶えず更新しています。
- 古賀
- そうなんですか。
- 糸井
- 2枚撮っています。
もし今日死んでしまったらどっちか1枚が使われるんです。
そんな未来に向かって今日を生きています。
ぼくは自分のお通夜や葬式に
みんなが集まってくれる自信が少しあるかな。
僕の年までものすごく長く感じるけど
いっぱい面白いことがありますよ。
- 古賀
- 楽しみです。
- 糸井
- そう楽しみにされるようなおじさんでいたいですね。